監修の序

イムス葛飾ハートセンターは2009年3月にスタートしましたが，それと同時に入職した若手心臓血管外科医の1人に月岡祐介先生がいました。若い頃から海外へ飛び出したいという気概あふれる青年で，心臓血管外科医としてのキャリアが始まったばかりでした。実際，数年後にはオーストラリアに旅立ったわけですが，鮎が生まれ育った川に遡上するように，また海亀が卵から孵化した浜に帰ってくるように，彼も葛飾の地に帰ってくることとなりました。

その時，月岡先生はYouTube を使った病院アピールを思いつき，本人もYouTuberとしてデビューする決意を固めました。CTSNetなど海外勢の手術動画は豊富にあっても，日本人が日本人のために作成した手術動画，しかも解説付きのコンテンツなどはほとんどなかった頃です。早速，手術手技の撮影と編集作業に取りかかりました。

動画の内容については，「神の手」的な手技を披露したり，スピードを煽るようなものではなく，あくまでも基本的で，若い心臓血管外科の先生たちが技術を習得しやすくなるように編集しました。さらに，読者に語りかけるような形式での解説を盛り込み，術中のポイントなどの理解が深まるコンテンツに仕上がりました。

昔と違って今は，心臓血管外科医は術中での経験だけに重きを置いて成長する時代ではありません。若手の先生が独り立ちするには，術前のイメージトレーニングや術中の観察，そして術後の振り返りがとても大切になります。そのためには自施設の術式を理解すること，さらには他の施設のやり方を知ることが，自分の外科医としての引き出しの多さにつながります。本書が少しでもその手助けになれば幸いです。

最後になりましたが，忙しい臨床の合間を縫って手伝ってくれた当院のスタッフ，形になるまで根気強くお手伝い頂きましたメジカルビュー社の方々に深く感謝いたします。

2024年11月

イムス葛飾ハートセンター
副院長兼心臓血管外科部長
金村賦之

編集の序

2021年の秋，学会でメジカルビュー社の編集者の方から「若手心臓外科医のために高画質の手術動画を集めて解説する本を作りませんか」とお声がけいただいたのが，このプロジェクトの始まりでした。それからあっという間に3年が経ちました。

本書の目的は，心臓外科医を目指す若手の先生方が，基本的な手技や助手側からは見えにくい手技を，高画質の動画を通じて理解できるようにすることです。手術に参加する数日前に何度も繰り返し動画を見て準備をするのはもちろん，手術直前にトイレで要点を素早く確認する際にも役立てていただけます。

1点だけご注意いただきたいのは，掲載されている手技はイムス葛飾ハートセンターで行われている方法だということです。私自身，4カ国で臨床を経験しましたが，施設によって手技が大きく異なることを強く実感しました。まずは，現在所属している施設の方法をしっかり学び，理解することが何よりも大切です。決して「イムスではこうしているので，僕もこのやり方でやります」などと上司に言わないでください。誰も得をしません。

私は，すべての動画撮影・編集および本書の編集を担当しましたが，仕事や私生活の忙しさから，編集作業や執筆が滞る時期もありました。それでも編集者の皆様が辛抱強くサポートしてくださり，無事に完成させることができました。この場を借りて，心より感謝申し上げます。

本書が，未来の心臓外科医の先生方にとって少しでも役立つことを願っています。

2024年11月

Instructor in Surgery, Harvard Medical School,Beth Israel Deaconess Medical Center
月岡祐介