序

「経食道心エコーを勉強するためによい教科書はありますか？」エコーを学ぶ若手医師からのこの質問に，皆様はどのように答えてこられたでしょうか？「現場で学んでほしい」と，忸怩たる思いを抱いたことはないでしょうか？ 私自身も振り返れば先輩方が行っている検査の後ろ姿を見て学んできたものです．しかし，時代は変わりました．今はその若手の質問に自信をもって「はい，この教科書です」と本書を勧めることができます．

経食道心エコーは，心臓の精密な構造評価と機能解析において，循環器診療に欠かせない診断ツールとして広く使用されています．特に最近では，心臓手術やカテーテル治療の現場で，患者の状態をリアルタイムで把握し，適切な治療方針を立てるために不可欠な手段となっています．しかしながら，経食道心エコーに関する体系的で，かつ最新の知見を反映した書籍は非常に限られており，特に循環器内科医の視点から見た教科書の需要が高まっていると感じていました．

本書は，そのような状況に応えるべく，日本の循環器診療に携わる方に向けた「バイブル」となることをめざして企画しました．基礎から臨床応用まで，あらゆる段階を網羅し，経食道心エコーにかかわるすべての医療従事者が一貫して活用できる実践的な内容を提供しています．また，医療技術が日々進化する中で，最新の研究成果やガイドラインに基づいた知識も盛り込んでいます．さらに，日本を代表する先生方に執筆をお願いし，経食道心エコーに対する情熱を，次世代に伝えるつもりで執筆していただきました．

本書が，多くの医師や医療従事者の診療に役立ち，患者の診断や治療の質向上に貢献することを願っています．また，これを契機に日本における経食道心エコーの理解と活用がさらに広がり，心臓疾患治療の発展に寄与することを心から期待しています．最後に，本書の制作にご協力いただいた執筆者の皆様，編集に携わっていただいたスタッフの皆様に心より感謝申し上げます．

2024年10月

聖マリアンナ医科大学 循環器内科
出雲昌樹

経食道心エコー（TEE）は，循環器診療の診断精度と治療の質を左右する重要な検査であり，特に周術期エコー（Intraoperative ＆ Interventional Echocardiography）としての重要性が高まっています．そのためエコー医には，循環器全般の知識に加え，進化するデバイスや3DTEE を中心とした新たなエコー技術に精通することが求められています．

本書『循環器内科医のための経食道心エコー』は，TEE に必要な「知識」，「経験」，「技術」のすべてを実践的に学べるガイドとして，循環器内科医や循環器診療に携わるすべての方々に役立つことをめざしています．まず「知識」として，各疾患の治療方針決定に必要なkey 画像や検査所見を明確に示し，手術やカテーテル治療についても詳しく解説しています．次に「経験」として，実際のTEE 検査の流れや評価のポイントを示すことで，擬似的に各施設で行われているTEE 検査を体験するかのように学べる内容となっています．豊富な実例を通じて，臨床の場で直面する困難な症例への対応方法やトラブルシューティングに関するスキルも養われます．最後に「技術」面では，きれいなエコー画像を撮像する方法や，エコーマシンの操作方法，3D データ解析に至るまで詳細に記載していることは，類書にない特徴です．これらの知識，経験，技術が相互に作用し，総合的にTEE の実力を高めることができるよう構成されています．各項目のエキスパートの先生方にご執筆いただいた，専門性と熱意が結晶した素晴らしい内容に，深く感謝申し上げます．

また，私自身も執筆者の一人として本書の作成に携わりました．榊原記念病院の心臓血管外科，麻酔科，そしてエコー室の多くの先生方からいただいたご指導を原稿に反映し，榊原エコー室での経験の集大成となるよう努めました．本書を通じて，一人でも多くの患者さんがよい医療を受けられるようにとの願いを込めて取り組んだしだいです．本書の完成にあたり，多くの方々に惜しみないご助力をいただきました．すべての方々をお名前で記すことはできませんが，ここに感謝の意を込めて，心より御礼申し上げます．

本書が，循環器診療におけるTEE 技術の向上に貢献し，読者のみなさまがTEE エキスパートとして成長する一助となることを心より願っています．

2024年10月

榊原記念病院 循環器内科
泉　佑樹