はじめに

病気の診断では、病歴聴取に加えて身体診察も必須です。身体診察の英語表記はフィジカル・エグザミネーション。医療現場では、よく「フィジカル」と略して呼ばれています。

「フィジカル」はもともと身体（からだ）という意味。からだを直接調べることにより、体の中の病気の診断を行うというものです。フィジカルの学習では五感によるイメージが大切です。活字のみでは難しく、アトラス、模擬患者やシミュレーター（精密機械人形など）などを用いた学習も導入されています。

フィジカルによる診断はもともとダイナミックなプロセスであり、どのような患者がどのような症状をきたしているときに、どのようなフィジカルをとるか、がその学習には重要です。そのためには臨床的コンテクストを実体験できる医療現場で、指導医からリアルタイムにフィードバックと指導を受けるような実習や研修が理想的。ただし、そのような臨床的コンテクストでフィジカルの直接指導を受けられる場がすべての学習者に提供されているとは限りません。

そこで、このコミック「こんなとき、フィジカル」が登場しました。かつて、「あしたのジョー」などの名作を全巻そろえて何度も繰り返し読んで感動し、毎週発行される少年漫画誌を愛読していた、という漫画少年時代を過ごした原作者徳田自身の夢を追った企画です。

メインキャラクターである原田・井村・上原の「なかよし３人組」とともに、未だ病気が診断されていない状況に不安を抱える患者さんの謎を解いていきながら、読者は「フィジカル」の大切さ、素晴らしさ、迅速性、費用不要、そのパワーを短時間で楽しく体験学習することができます。また、よくある症状についてのコンテクストを用いており、基本的な医学知識も習得することができます。

読みどころである、ストーリーの展開のなかで、３人組がさまざまな意味で成長します。少年時代の徳田が何度も名作のマンガを読み返したように、この本の読者も何度もスパーリング的に読み返すことで「フィジカル」に感動しながら、きっとフィジカルのエキスパートに成長できるジムに入門できることでしょう。理解しやすく解説も加えており、医師・指導医のみならず、医療系学生・医療従事者や患者さん、医学に興味のある一般の方にもおすすめです。

末筆ではございますが、フィジカル学習をオールマンガで！ という、原作者徳田の「前代未聞」の企画実現のために、激励とストーリー展開の基本的指導をしてくださった金原出版の中立稔生さま、医学的な描写を劇画調に表現してくださった漫画家の梅屋敷ミタさまに深く感謝を申し上げます。お二人のご尽力がなければこの企画は、漫画ファンである一医師の夢で終わったことでしょう。

平成27年2月吉日

原作者 徳田 安春