推薦文

心電図学習の挫折経験者に救済と無限の愛を付与する最適の一冊！

心電図を勉強しようと思い挫折を経験した方は多いと思います．購入した心電図指南本は難解で，あたかも宇宙人の暗号解読書のように思われるのです．最初の数ページを読んだ段階で眠りに落ちてしまうのです．書店を訪れると数多くの心電図指南本が並んでいます．これは，これまでの挫折者の墓標であるかのようです．このような挫折経験者を励まして「頑張れ」というのは得策ではありません．挫折を優しく受け入れ，責め立てることなく，すべてを許して受容してあげる愛情が必要です．

シェル・シルヴァスタインの『大きな木』という絵本をご存知でしょうか．1本のリンゴの木が1人の人間に限りない愛を捧げる美しくも悲しい物語です．日本を代表する作家である村上春樹が翻訳していることでも知られています．原題名は『The Giving Tree』といいます．困った時だけやって来て，リンゴの木に「〜をくれるかい」と要求ばかりする坊やに，身を犠牲にして尽くす木は「きは　それで　うれしかった」と応えるのです．大好きな坊やに，りんごを与え，枝を与え，切り株になっても見返りを求めない大きな木のお話です．

杉山裕章先生の渾身の一冊である本書は，心電図学習に疲れ果てた貴方にとっての「大きな木」です．坊やが困った時に，キッカケやヒントを与えてくれるリンゴの木のように，心電図の解釈に困った時に，学ぶキッカケとヒントを授けてくれるのです．一方向からの心臓の電位を記録した「モニター心電図」の理解だけでも大変なのに，12方向から記録した「12誘導心電図」は，あまりに難しく感じることでしょう．なぜ12方向から観察し記録するのかを，噛んで含めるように説明してくれます．これまでに挫折を経験した方も，きちんと順序立てて学ぶシステムになっていますので大丈夫です．挫折とは無縁の内容です．

心電図学習の挫折経験者にとって最良の一冊であるということは，初めて心電図を学習しようという者にも最善の書です．初学者が本書を手に取ることは，一度も失恋することなく初恋の相手が最愛の人であった至幸の出会いに匹敵するものです．心電図学習に悩む挫折者が一人でも減り，ひいては循環器診療のレベルが向上し，心疾患に悩む人々を救うことに繋がることを期待して本書を推薦します．

2016年12月

天理よろづ相談所病院循環器内科　中川義久

推薦文

著者の杉山先生は若手ながら心電図や不整脈について多くの著書があります．私自身も過去にペースメーカーに関連した書籍を共著させて頂いたことがありますが，杉山先生の書かれる本の共通項は，あたかも杉山先生が私たちに直接語りかけてくるかのような書き方で，押さえるべき本質・秘訣が散りばめられ，しかも明快で面白いという点にあると思います．今回のテキストも読み始めるとその"杉山ワールド"に引き込まれ，一気に読破することが出来ました．

まず心電図を読む前に行うべきこととしてきちんと心電図をとること，背景情報を集めること（年齢，性別，自覚症状や既往歴，過去の心電図など）など，普通の教科書ではアイントーベンの三角形とかが出てきてそこからすでに嫌気がさしてしまいそうですが，現場感覚で納得しながらこの本に入り込むことができます．心電図には12誘導心電図のみならずホルター心電図，運動負荷心電図，イベントレコーダー...と様々なものがありますが，不整脈診断はすなわち"現行犯逮捕"であるという表現など，本質を端的に示すキーワードが示されており，それを頭に叩き込むと心電図診断の本質が見えてくるように思います．心電図の診断の基本は"調律診断"と"波形診断"の2つの大きな柱があります．前者の調律診断として，"心拍数のとらえ方"や"洞調律を知る"という項目がありますが，私自身も駆け出しのころ，"正常洞調律"と発言すると指導医の先生から"正常でない洞調律とはどのようなものがありますか"と尋ねられ当惑したことがありましたが，正常の調律・不整脈の診断について目から鱗という明快さで理解できるようになっています．また後者の波形診断についても心電図を読む時にどの向きから心臓を見ているのか考える，杉山先生の絵ごころを感じながら"こういう説明もあるのか"と感心して，東京出張で車窓にふけっていた時，たまたま見えた東京スカイツリーがR波で，はるか遠くに見える山々がT波に見え，すっかり杉山先生の世界観に引き込まれている自分に気付きました．最後の11，12章で総まとめとして心電図の読み方を様々な疾患を提示しつつオーバービューできます．ここまで読み切ると明日から心電図を一段高い視点で読めるようになっている自分自身に気付かれることと思います．

さあ是非このテキストを手に取り，自身の新たな武器としようではありませんか．この本は"心電図ワールド"に漕ぎ出す自信と意欲を与えてくれる方位図になることでしょう．

2016年12月

自治医科大学内科学講座循環器内科学部門准教授　今井靖