大動脈解離―診断と治療のStandard

  • ページ数 : 192頁
  • 書籍発行日 : 2016年1月
  • 電子版発売日 : 2016年10月7日
7,260
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商品情報

内容

世界トップレベルのNippon大動脈外科治療のいま!

大動脈解離の診断と治療に携わる心臓血管外科,血管外科医師を対象に,現在,日本が世界をリードしている大動脈解離の診療における知見やノウハウなどをまとめた書。
いまだ未知の点が多い大動脈解離の発生と休息な解離進行のメカニズムを最新の知見から解き明かします。

序文

はじめに

わが国における大動脈外科治療は世界のトップレベルにあり,なかでも大動脈解離においては欧米諸国に比べはるかに良好な治療成績が得られています.この良好な成績の原動力となっているのが第一線で従事されている方の疾患に対する知見,および診断と治療の技術と思われます.2013 年1 月にこの素晴らしい知見,技術の交換を行い,さらに大動脈解離治療のレベルを向上させるべく,大動脈解離シンポジウムが発足しました.以後毎年開催され,ご講演いただいたup--to--date の講演内容を最新の教科書として1 冊の本とすべくこの「大動脈解離―診断と治療のstandard」が誕生しました."standard"とありますが旧来の古典的な"standard"ではなく最新の画像診断法と最新の治療方法に基づいた最新,最善の"診断と治療"のための"standard"であります.

大動脈解離は以前に比べ一般の方にも広く知られる疾患となりました.しかしながらその発生,急速な解離進行のメカニズムについてはいまだに未知の点も多く,その最新の知見について分子生物学的な立場と病理学的な立場から解説していただきました.特に解離発生の病理については30年以上にわたって病理学的に大動脈解離をみてこられたお二人の先生に執筆をお願いしました.

大動脈解離の臨床的診断は時として非常に困難な場合があります.これは大動脈自体の解離,破裂による症状のみならず,全身の臓器の虚血に伴う多彩な症状で発症することがあり,またこれらの症状が病状の変化とともに刻々変動する可能性のあるためです.一方で早期の診断ができないために手術の時期を逸し救命できない場合も少なくなく,昨今はこの診断の遅れによる死亡例についての医療訴訟も散見されます.本書では発症時における診断のポイント,および急速に進化しつつある画像診断法とその新たな知見による新しい大動脈解離病態の理解について解説していただきました.

急性A 型大動脈解離の手術成績はInternational Registry of Aortic Dissection(IRAD)2010 年の報告で急性期手術在院死亡率24%,German Registry for Acute Aortic Dissection Type A(2011 年)にて30 日死亡率17%,イタリアの6 施設のRegistry(2012 年)にて在院死亡率21%と欧米では20%前後の死亡率であるのに対し,我が国の成績は胸部外科学会の統計で在院死亡率約11%(2011 年)と良好であります.第一線で多数の急性A 型解離手術を行ってこられ方々に,良好な手術成績の要因である,biological glue の使用法,送血法,体外循環法を含めた,手術に対する基本的な考え方,手術のコツとpitfall,について記述していただきました.また我が国でも死亡率が10%未満とならない大きな原因の1 つが術前および術中の臓器虚血ですが,多数のご経験から良好な成績を出されている方々にこの対策について述べていただきました.

急性B 型大動脈解離においては臓器虚血症例の治療にステントグラフトをはじめとする血管内治療が導入され,低侵襲で早期に臓器再灌流が得られるため,飛躍的に早期成績が向上しました.破裂例においても限られた症例でステントグラフト治療により良好な成績が得られています.またuncomplicated type B においても,従来は外科治療に比し内科的降圧治療が早期成績,遠隔期成績ともに優れているとされていましたが,企業製の胸部大動脈ステントグラフトの登場により発症後6 カ月以内の比較的早期のステントグラフトによるエントリー閉鎖施行例では,内科的降圧治療のみの症例群に比べ,発症後5 年の大動脈関連死亡,大動脈関連イベントともに低かったと報告されました(INSTEAD trial).これを受けて,現在uncomplicated type B においても内科的降圧治療から早期ステントグラフト治療へのまさに転換期にあると思われますが,uncomplicated type B におけるステントグラフト治療のrisk とbenefit をどのように考えるか解説していただきました.

慢性大動脈解離においては内科的降圧治療に加え,症例によってA 型,B 型ともにopen surgeryまたはステントグラフト治療が必要となってくる場合があり,follow--up 中の管理方法,治療のタイミング,治療戦略についても解説していただきました.

大動脈解離の病因,診断,治療について現在日本のトップレベルにあり,かつ第一線でご活躍中の方々の執筆による本書は,この疾患の理解を深め,診療レベルを向上させる上で必ずやお役に立てると考えております.

2015 年12 月

井元 清隆

目次

§1 大動脈解離の成因

1.大動脈解離の病因はどう考えられているか? 〈圷 宏一〉

1.解離の準備状態を作り出す中膜病変:病理所見

2.中膜病変を作り出す疾患各論

3.エントリーの形成のために必要なもの:血行力学的ストレス

4.エントリーがない解離の始まりに必要なもの

5.解離の進展

2.遺伝性血管疾患と大動脈解離 〈森崎隆幸 森崎裕子〉

1.Marfan症候群と原因遺伝子

2.Loeys―Dietz症候群とその病因遺伝子

3.TGF―βシグナルの変化をきたすLoeys―Dietz症候群類縁疾患

4.Marfan症候群・Loeys―Dietz症候群および類縁疾患の治療

5.血管型Ehlers―Danlos症候群と病因遺伝子

6.平滑筋収縮蛋白質の機能異常による遺伝性大動脈疾患と大動脈解離

7.大動脈疾患の病態とTGF―βシグナル系遺伝子とその異常

§2 大動脈解離の病理と疫学

1.急性大動脈解離の病理 〈中島 豊 中川和憲〉

1.大動脈の正常の構造―特に中膜の構造について―

2.大動脈解離の病理形態学―中膜の構造の変化―

3.intramural hematoma(IMH)とpenetrating atheroscleroticulcer(PAU)

4.今後の見通し―さらなる形態学的研究の発展と臨床への還元―

2.急性大動脈解離と突然死 〈村井達哉〉

1.東京都監察医務院とは

2.東京都監察医務院における急性大動脈解離剖検例の概要

3.東京都内の急性解離発生ならびに急性解離による突然死の動向

3.東京都大動脈スーパーネットワークの構築 〈吉野秀朗 下川智樹 長尾 建 高山守正〉

1.東京都CCUネットワーク

2.東京都大動脈スーパーネットワークシステム

3.急性大動脈解離の発生頻度

§3 急性大動脈解離の診断

1.症状と所見:多彩で変動することが特徴 〈安達秀雄〉

1.大動脈解離発生時の症状は多彩である

2.大動脈解離の症状は一時的に寛解する

3.解離の見逃しを防止するにはどうすればよいか

付)スポーツ中の急性大動脈解離の発生

2.CT 〈上田達夫 林 宏光〉

1.急性大動脈解離に対するCT診断

2.CT診断のポイント

3.PAU(penetrating atherosclerotic ulcer)

4.Adamkiewicz動脈の評価

3.心エコー図 〈加地修一郎〉

1.急性大動脈解離の存在診断

2.合併症の診断

4.経食道心エコー 〈渡橋和政〉

1.解離の存在とエントリー部位の決定

2.破裂の診断

3.大動脈弁逆流の評価

4.灌流障害の診断

5.術中新たに発症する灌流障害

6.TEEのメリットを得るために

5.血栓閉塞型大動脈解離 〈内田敬二〉

1.頻度

2.診断における問題点

3.治療における問題点

4.病態についての考察

§4 急性大動脈解離の治療

1.急性A型大動脈解離に対する標準的外科治療 〈井元清隆〉

1.急性A型大動脈解離の自然歴と手術適応

2.解離病変の置換範囲と術式

3.大動脈基部に対する処置

4.手術手順

5.大動脈解離による臓器灌流障害の対策

2.急性A型大動脈解離に対する上行―弓部置換術の適応とコツ 〈荻野 均〉

1.急性A型大動脈解離(AAAD)に対する外科治療全体の適応

2.上行―弓部大動脈置換術(TAR)の適応

3.上行―弓部大動脈置換術(TAR)の実際の手術手技(コツ)

3.急性A型解離に対するオープンステント治療 〈内田直里〉

1.解離に対するオープンステントの歴史

2.急性A型解離に対するオープンステント治療の利点

3.急性A型解離に対するオープンステント治療の適応

4.急性A型解離に対するオープンステントのグラフト選択

5.急性A型解離に対するオープンステント手術方法

6.急性A型解離に対するオープンステント治療の脊髄障害について

7.J graft open stent graftを用いた急性A型解離手術

4.急性A型大動脈解離手術における送脱血部位と体外循環 〈上田敏彦〉

1.急性A型大動脈解離手術の体外循環

2.急性A型大動脈解離手術の送血路

3.送血路の選択

5.臓器虚血への対応

a.脳虚血 〈築部卓郎〉

1.発生原因と頻度

2.治療方針の変遷

3.超急性期手術の有用性の根拠について

4.目標とすべき時間・術前管理について

5.手術術式・術後管理の工夫:自験例を中心に

6.遠隔期手術成績

7.早く手術を開始できる体制作り

b.心筋虚血 〈川人宏次〉

1.心筋虚血のメカニズム

2.心筋虚血の発症時期

3.解離発症直後に生じる心筋虚血

4.大動脈解離の手術中に生じる心筋虚血

5.術後に生じる心筋虚血

c.腸管虚血 〈安達晃一〉

1.診断

2.治療

d.四肢虚血 〈輕部義久〉

1.病態

2.頻度

3.診断

4.治療

5.治療成績

e.トピックス:グルーについて 〈鈴木伸一〉

1.GRF glue

2.Fibrin glue

3.BioGlue

6.急性大動脈解離の降圧治療とリハビリテーション 〈萩谷健一 桃原哲也〉

1.急性大動脈解離の降圧治療

2.急性大動脈解離のリハビリテーション

7.B型大動脈解離に対するオープン手術 〈北原大翔 志水秀行〉

1.急性B型大動脈解離

2.慢性B型大動脈解離

8.B型解離に対するステントグラフト治療 〈倉谷 徹〉

1.B型大動脈解離に対する治療戦略

2.ステントグラフトデバイス

3.解離性大動脈瘤に対するステントグラフト治療

4.急性B型大動脈解離

5.慢性B型大動脈解離

§5 慢性期の大動脈解離

1.A型大動脈解離のフォローアップ 〈木村直行〉

1.急性A型大動脈解離近位側再建後の遠隔成績

2.遠位大動脈に残存する偽腔開存が急性A型大動脈解離の予後に及ぼす影響

2.B型大動脈解離のフォローアップ 〈坂倉建一〉

1.B型大動脈解離の慢性期の薬物療法

2.B型大動脈解離の慢性期に影響する急性期指標

3.実際にどのようなフォローアップが望ましいのか?

3.手術治療のタイミングと手術術式(胸腹部置換を中心に) 〈尾?健介 山本 晋〉

1.適応

2.術式

3.当院の成績

§6 今後の課題

1.医療安全と大動脈解離 〈安達秀雄〉

1.急性大動脈解離の診断で問題になる事項

2.急性大動脈解離の治療で問題になる事項

3.鑑定医,臨床評価医の注意点

2.大動脈センターの設立と発展について 〜大動脈チーム形成の有用性と今後の課題〜 〈田中亜由美 山本 晋〉

1.設立と発展

2.大動脈センター職員の構成

3.診療の流れに伴う各部署の役割

4.今後の課題

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書籍情報

  • ISBN:9784498039124
  • ページ数:192頁
  • 書籍発行日:2016年1月
  • 電子版発売日:2016年10月7日
  • 判:B5判
  • 種別:eBook版 → 詳細はこちら
  • 同時利用可能端末数:3

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