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- 心不全の病態と薬の使い方
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内容
序文
本書のめざすもの
―循環器内分泌代謝学から「心保護薬」を考える―
心不全とは心拍出量の低下や血液のうっ滞で生じる一つの症候群である.その原因は心臓のポンプ機能の低下であることはいうまでもない.長きにわたる循環器病学の歴史の中で当然ながら心血行力学の研究はその中心を成し,多くの先人のご努力により膨大な知見が蓄積されてきた.
しかしながら治療の領域では,一旦,心不全になると他の臓器の血流維持のために弱った心臓はむち打たれるという過酷なことが行われてきた.まさに心臓は休むことを許されない臓器であり,たるんでいるとさらに叱られ,挙げ句の果てに痙攣(心室細動)して卒倒(心停止)してしまうこともあった.それは,骨折すれば'副木(そえぎ)'があてられる治療とは正反対であり,心臓にしてみれば'優しい治療'をいつも羨ましく思っていたであろう.
さて,時代は過ぎ,神経体液性因子の立場から心不全を捉える動きが30年ほど前から徐々に起こってきた.心機能が低下すると心拍出量の減少や血圧低下が起こるが,それに対する代償機序として,内因性にレニン・アンジオテンシン・アルドステロン(RAA)系や交感神経系が活性化する.これらは体液量を増やし血管を収縮させ血圧を維持する.しかしながら,結果的にそれらの活性は過剰となり,かえって心不全を悪化させることになる.しかし,興味深いことに生体はこれに対しても防御機構を備えていることがわかってきた.その代表がナトリウム利尿ペプチド(ANP,BNP)である.これらを発見した松尾・寒川両博士の貢献は大きく,循環器病学をさらに高い舞台へと押し上げた.何らかの基礎疾患が元で心機能が低下すると心臓から多くのANP,BNPが分泌され,その多彩な作用でRAA系や交感神経系に対抗し,心不全の病態を鎮めようとする.近年,循環器病学は内分泌病学と一緒に大きく進展し,新たな局面を迎えているのである.
それに歩調を合わせるかのように心不全治療の中で一つの流れが起こってきた.これまで心不全の治療と言えば,前述のように心臓を何とか動かして心拍出量を上げる治療であった.もちろん今でも急性心不全,特に心原性ショックの時は同様であり,カテコラミンが中心となるが,少なくとも慢性心不全治療においてはそのやり方が大きく変わってきた.そのキーワードは「心保護」といってよいであろう.実は,むち打つより心保護をする方がいろいろな意味で調子が良くなるということに我々は漸く気づき始めたのである.心保護作用の強い薬剤は一見心機能にはあまり関与しない,むしろ一過性に心機能を落とすものがある.しかし,それを上手く使うと想像以上に生命予後が良くなることが徐々に示されてきたのである.
さらに,hANP(カルペリチド)の登場で,急性心不全の世界までも大きく変わってきた.hANPはガイドライン上もまさに「心保護薬」として位置づけられている.急性期から心臓を守ることこそが大事であるという考え方が広まっているのである.hANPは日本で生まれた新しい急性心不全治療薬であり,世界はこの治療法になかなか追いついてこられない.
蛇足ながらアルドステロンのことを少し付け加える.アルドステロンは副腎から分泌されるが,心血管系を初めとする細胞でも微量ながら合成され,その作用部位も腎の尿細管のみならず,全身の細胞に作用している.その生理的役割に関しては近年盛んに研究されているが,驚くべきは,心不全治療における抗アルドステロン薬の成績である.心不全においてはACE阻害薬やβ遮断薬が有効であることは有名であるが,それらに上乗せした形で抗アルドステロン薬を加えると心不全の軽症例から重症例まで生命予後が改善することが示されたのである.
本書を読んで頂き,心不全治療においても他の臓器と同様に「副木」をあてるべきなのだと少しでも思って頂ければ幸いである.他の臓器への血流を考慮しつつも,けなげに動き続ける心臓をいたわって欲しいのである.あらゆる薬剤を選択する上でほんの少しでもこのことを意識するとトータルとして良い方向性に向けることが可能かもしれない.
最後に,昨今は循環器領域においても専門性がとても進んでいる.しかし,心不全病学の場合はまさにいろいろな方面から病態を見ていく必要があり,一つの専門性だけでは全く太刀打ちできない.そのためにはまさに循環器内分泌代謝学という生まれたばかりの新しい学問領域を活用し,議論の場にして頂きたい.
2011年 8月
吉村 道博
目次
第1部 心不全の基本的病態
第1章 心不全と神経体液性因子の関係
A.病態生理と分子メカニズム
1.血行動態バランスとその調節因子
2.神経体液性因子について
B.交感神経系(カテコラミン)
1.心臓交感神経の構造とメカニズム
2.心不全時の交感神経活性
C.RAA系について
1.RAA系(昇圧系血管作動物質)
2.カリクレイン・キニン系(降圧系血管作動物質)
D.Na利尿ペプチドファミリー
1.BNP
2.ANP
3.その他の因子
E.心不全における神経体液性因子活性
第2章 急性心不全の病態
A.うっ血性心不全の診断基準(Framingham Criteria)
B.急性心不全の病態と分類
C.重症度分類
Nohria分類
D.原因
E.症状と身体所見
1.聴診
2.血圧
3.検査所見
4.12誘導心電図,心電図モニタリング
5.胸部X線
6.心臓超音波検査
F.治療
第3章 慢性心不全の病態
A.病因
1.神経体液性因子
2.心臓リモデリング
B.増悪因子
C.症状,症候
D.心不全重症度と治療方針
E.予後
第4章 収縮不全と拡張不全について
A.疫学研究から見た臨床像は?
B.形態学的観点から
C.病態学的観点から
1.左室が拡張できない
2.左室が拡張してしまう
3.収縮障害と拡張障害は合併する
4.拡張障害を起こす病因と機序は?
D.臨床・診断の観点から
1.収縮機能評価の実際
2.拡張機能評価の実際
E.治療方針とエビデンス
治療方針
第5章 高血圧と心不全
A.高血圧による急性の影響
B.疫学からみた高血圧と心不全
C.高血圧による慢性の影響
D.降圧による心肥大退縮
第6章 腎不全の影響
A.腎不全を合併した心不全の疫学
B.心腎連関の病態
C.心腎連関を踏まえた心不全治療の要点
D.心,腎,貧血症候群
E.心,腎,貧血症候群における貧血の管理
第2部 各薬剤の特徴について
第1章 カテコラミン
A.カテコラミン製剤
1.DOA
2.DOB
3.ノルアドレナリン
4.アドレナリン
5.イソプロテレノール
B.カテコラミン以外の強心剤
1.PDE阻害薬
2.フォルスコリン
C.Debate:医師間での考え方の相違について
β遮断薬投与下におけるカテコラミン製剤の使い方
第2章 カルペリチド(hANP)
A.作用機序
B.期待される効果
1.急性心不全治療における心筋保護について
2.急性心不全治療における腎保護作用について
C.副作用や問題点
D.知っておくべきEBM
E.Debate:医師間の考え方の相違について
第3章 利尿薬
a.ループ利尿薬
A.作用機序
B.期待される効果
C.副作用や問題点
D.知っておくべきEBM(急性心不全)
E.知っておくべきEBM(慢性心不全)
F.Debate:高齢者における医師間での考え方の相違について
b.サイアザイド系利尿薬
A.歴史
B.作用機序
C.期待される効果
D.副作用や問題点
1.電解質異常
2.脂質代謝異常
3.糖代謝異常
4.尿酸代謝異常
5.その他
6.副作用のまとめ
E.知っておくべきEBM
1.用量と予後に対する影響
2.少量のサイアザイド系利尿薬を用いた大規模介入試験
F.Debate:医師間での考え方の相違について
G.使用上のポイント
c.抗アルドステロン薬
A.作用機序
1.アルドステロンの心血管における局所合成のメカニズムとその病態生理学的意義
2.アルドステロンの心・腎・血管系への作用
3.インスリンシグナルとの相互作用
4.MR活性の病態生理学的意義
B.期待される効果
C.副作用や問題点
D.知っておくべきEBM
E.Debate:医師間での考え方の相違について
d.バゾプレッシン受容体拮抗薬
A.作用機序
1.従来の利尿薬の問題点
2.トルバプタンの薬理作用
B.期待される効果
1.どのような症例に用いるべきか?
2.初回投与量
3.継続する場合の投与量
C.副作用や問題点
1.高ナトリウム血症,意識障害
2.橋中心髄鞘崩壊症
3.リバウンドの問題
4.併用注意と禁忌
D.知っておくべきEBM
E.Debate:医師間での考え方の相違について
第4章 ACE阻害薬
A.作用機序
B.期待される効果
1.心不全改善作用
2.腎保護作用
3.冠動脈イベント抑制作用
4.血清K保持作用
5.その他副次的作用
C.副作用や問題点
1.低血圧
2.高カリウム血症
3.腎機能障害
4.咳
5.アナフィラキシー
6.脱水時の注意
7.禁忌
D.知っておくべきEBM
1.CONSENSUS
2.SOLVD treatment
3.SOLVD prevention
4.ATLAS
E.Debate:医師間での考え方の相違について
1.ACE阻害薬かARBか?
2.低血圧の患者にも使えるのか?
3.拡張不全の患者に有用なのか?
第5章 ARB
A.序論
B.作用機序
C.期待される効果
D.副作用や問題点
E.知っておくべきEBM
1.ELITE II
2.VALIANT
3.JIKEI Heart Study
4.ONTARGET
F.Debate:医師間での考え方の相違について
血圧の低い重症心不全におけるARBとACE阻害薬の使い方について
第6章 β遮断薬
A.作用機序
B.期待される効果
C.副作用や問題点
1.適応と禁忌―いつ心不全にβ遮断薬を始めるか?
2.どのβ遮断薬を使うのか?
3.投与開始および増量の実際
D.知っておくべきEBM
1.カルベジロール
2.ビソプロロール
3.メトプロロール
E.Debate:医師間での考え方の相違について
1.目標とする投与量について
2.β遮断薬とACE阻害薬について
第7章 抗不整脈薬
A.背景
B.期待される効果と知っておくべきEBM
1.心不全症例における上室性不整脈治療
2.心不全症例における心室性不整脈治療
C.副作用と問題点
D.Debate:医師間での考え方の相違について
第8章 ジギタリス・経口強心剤
A.作用機序と期待される効果
B.副作用や問題点
C.知っておくべきEBM
D.Debate:医師間での考え方の相違について
第9章 硝酸薬
A.作用機序
1.硝酸系化合物
2.ニコランジル
B.期待される効果
1.硝酸系化合物
2.ニコランジル
C.副作用や問題点
D.知っておくべきEBM
E.Debate:医師間での考え方の相違
第10章 少量利尿薬とACE阻害薬/ARBの併用はなぜよいのか?
A.作用機序
B.期待される効果
1.少量利尿薬の有効性
2.ACE阻害薬やARBによるRAA系抑制治療
C.副作用や問題点
D.知っておくべきEBM
E.Debate:医師間での考え方の相違について
1.RAA系抑制薬の合剤について
2.その他のRAA系抑制薬と利尿薬
第3部 主な基礎疾患別の心不全管理法
第1章 虚血性心疾患
A.虚血性心不全の病態
1.心筋梗塞後の左室リモデリング
2.心筋虚血,スタンニング,Hibernation
B.虚血性心不全の治療
1.薬物的心不全治療
2.非薬物的心不全治療
第2章 拡張型心筋症
A.病態・症状・疫学
B.内科的薬物治療
1.アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害薬)
2.アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)
3.抗アルドステロン薬
4.β遮断薬
C.非薬物治療
第3章 肥大型心筋症
A.定義
B.疫学
C.病態
D.治療
1.薬物療法
2.非薬物療法
第4章 弁膜症,大動脈弁疾患,僧帽弁疾患の薬剤選択と手術のタイミングについて
A.弁膜症総論
B.弁膜症の薬物治療
1.利尿薬
2.ACE阻害薬(あるいはARB),少量のβ遮断薬
3.抗アルドステロン薬
4.Ca拮抗薬
5.ジギタリス
6.抗凝固療法
C.僧帽弁膜症
1.僧帽弁狭窄症(MS:mitral stenosis)
2.僧帽弁逆流症(MR:mitral regurgitation)
D.大動脈弁疾患
1.大動脈弁狭窄症(AS:aortic stenosis)
2.大動脈弁閉鎖不全症
第5章 徐脈性不整脈と心不全
A.徐脈による心不全発症機序
B.徐脈の原疾患
1.洞不全症候群
2.房室ブロック
C.薬剤による治療
1.アトロピン
2.交感神経作動薬
3.テオフィリン
4.シロスタゾール
D.ペースメーカーによる治療
E.ペーシングモードと心機能低下
F.心室ペーシングによる心室リモデリング
G.ペーシングモードとBNP値
H.右室中隔ペーシング
I.両室ペーシングによる心室再同期療法
第6章 頻脈性不整脈と心不全
A.総論
1.急性心不全
2.慢性心不全
B.各論
1.心房細動と心不全の密接な関係
2.心室性期外収縮に伴う心機能低下
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書籍情報
- ISBN:9784498136243
- ページ数:234頁
- 書籍発行日:2011年10月
- 電子版発売日:2012年11月17日
- 判:A5判
- 種別:eBook版 → 詳細はこちら
- 同時利用可能端末数:3
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