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- シリーズ生命倫理学 第7巻 周産期・新生児・小児医療
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内容
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序文
緒言
周産期医療は出生という人間が一番生命の危険に晒される時という医学的特徴に加え,母親と児(胎児・新生児)という二つの命の生きる権利の相克が起こる倫理的特異性を有している.さらにまだ社会的な認知を受けていない胎児や新生児のみならず,その権利を主張する能力を有していない小児まで,親権という名の下に容易にその生きる権利が侵害され得る,という倫理利的問題を孕んでいる.それに加え,近年の急速な医学と医療の進歩は,胎児も成人とほぼ同様な能力を有していること,さらにこれまで救命できなかった超早産児や極めて重症な児が生存可能となってきたことが,胎児・新生児さらに小児の人間としての権利に,新たな倫理的考察の必要性を生み出している.第7巻では,自らの意思を表明できない(informed consent では論じられない)仲間である胎児・新生児・子どもを,私たち社会がどのような倫理的観点からその権利に配慮するかが,各専門家によって論じられている.
北里大学病院の倫理委員会は,A委員会(生命倫理の基本的事柄を議論する:人間とは・命とは,等)・B委員会(病院という組織内での倫理的取り決めを論じる:患者の権利の担保,新技術の導入の手順,等)・C委員会(医療現場起こった事例の倫理的判断する),の3つからなっているが,北里大学の倫理委員であった共同編集者(家永登)は,そこで論じられる倫理と実際の医療現場の当事者との相克を述べている.正に,生命倫理には正解は無く,当事者である医療者と患者側の「模索するという実践」から,絶え間なく「何がより良いか」を追い求めるものであり,その思考過程に益するであろう最新情報が,本書から得られることを確信している.
第7巻編集委員 仁志田 博司
私がはじめて「生命倫理」問題に直面したのは,今から20年近く前のことである.当時所属していた大学病院の倫理委員会に小児科医から1件の申請がなされた.両親が治療を拒否している重い障害をもった新生児に対する治療の可否をめぐる問題だった.
こういう問題は臨床現場で各医師が個人的に解決すべき問題であり,いちいち倫理委員会で検討する問題ではないという医療側委員の意見もあったが,申請は受理され審議が始まった.審議の過程で法律家として意見を求められた私は,「最終的な決定権をもつのは子の長期的なケアに責任を負う親であり,長期的なケアに責任を負わない医師に決定権はない」という発言をした.申請者である小児科医は,「長期的ケアに責任を負わない医師に決定権はありませんか」と言って嘆息された.
その後この小児科医は大学病院をやめて,障害をもった子どもたちを地域で長期的に支えるクリニックを開いて現在に至っている.私はあの時の自分の発言をいまだに忘れることができない.一般的に子の長期的ケアに責任を負うのは親であろうが,なかには子を施設に預けたまま全くケアにかかわらない親もいる.他方,子を退院させたらそれっきりの医師もいれば,障害をもった子にずっと寄り添い支える医師もある.いずれにしても子のケアに全くかかわらない私のような法律家があのような発言をする資格があったのだろうか.この経験以来,私は臨床現場から提起される問題に対して,法律の世界で通用している一般命題を当てはめることで対処するような態度はやめることにした.そして,個別の事案ごとに患者およびその家族らが率直に気持ちを表明できる環境を整えて下さい,臨床の現場で患者と医療者とが双方の考えを語り合いながら解決への道筋を模索して下さいという助言しかできなくなった.
「法は倫理の最小限」という格言がある.人の生命,身体,自由などにかかわる問題について,法律家は法によって担保されるべき最小限の規範を示すことができる場合もあろう.さらには法律家も交えた審議会などによって当該問題に関する「ガイドライン」が制定されることもある.医療者に指針を与える「ガイドライン」の制定に一定の意義があることは否定しないが,法律家が,あるいは「ガイドライン」がこう言っているのだからそれに従っていれば事足れりとする風潮が医療者の間に生ずることを私は危惧する.臨床の現場で医療者が直面する困難な問題の倫理的な解決は,結局は個々の医療者が日々の臨床現場において患者やその家族らと相互に交流しながら望ましい道を模索するという実践のなかからしか生まれないのではないだろうか.
本巻では,周産期,新生児,小児医療の臨床現場で日々生ずる多くの問題に対処してこられた医療者がその経験と思索を語った論考を中心に,いくつかの問題には法律や生命倫理の側からの発言を交えるという構成をとった.医療側からの諸論考の背後に彼らの臨床における実践があることを読み取っていただくことができると思う.本書によって医療者の方々が臨床現場で生ずる問題を見つめなおす端緒となり,非医療者にとっては臨床現場で生じている問題と臨床家の経験知を知る機会を得ることができるなら幸いである.
第7巻編集委員 家永 登
目次
第1章 周産期医療・新生児医療・小児医療における倫理的特徴(1)医学的側面
1 小児医療における医学的観点からの倫理的特徴
2 子どもを対象とした研究の倫理的時異性
3 小児における医療参加の意思表示
4 新生児医療の倫理的特徴
5 新生児医療における倫理的意思決定の実際
6 周産期医療における倫理的特徴
7 連続と不連続の思想
第2章 周産期医療・新生児医療・小児医療における倫理的特徴(2)(法的側面)
1 小児医療の範囲と特徴
2 小児医療の法的側面
第3章 予後不良児の倫理的考察(超重症心身障害児・重症新生児仮死)
1 予後不良児とは
2 予後不良児に対する治療の歴史的背景
3 予後不良児における意思決定の具体的内容
4 現在の予後不良児への対応
5 新生児蘇生と倫理
第4章 超低出生体重児の「成育限界」を巡って
1 「超低出生体重児」をめぐる歴史
2 母体保護法と新生児医療
3 「妊娠満22週未満」への変更がもたらした様々な影響
4 在胎22・23週出生児の医療:「生育限界」はどこに
5 在胎22・23週出生児の医療:「成育限界」を巡る議論
6 超低出生体重児の医療がもたらしたものとこれから
第5章 胎児治療
1 胎児治療と倫理的問題点
2 胎児治療法の倫理的評価
第6章 帝王切開・無痛(和痛)分娩と自然分娩(1)分娩の医学的問題
1 帝王切開
2 無痛(和痛)分娩
3 自然分娩
第7章 帝王切開・無痛(和痛)分娩と自然分娩(2)分娩方法選択の法的問題
1 治療法選択に関する医師の裁量と患者の自己決定権
2 説明内容決定についての医師の裁量
3 分娩の場面における説明義務と患者の自己決定権
第8章 ハイリスク分娩における母体・胎児に対する倫理的配慮
1 母体と胎児の権利・産む権利と医学的リスク
2 出征前診断の光と影
3 ハイリスク妊娠
第9章 法律学からみた母体内にある出生前の生命の保護
1 刑法領域における胎児保護
2 民法における胎児保護
3 妊婦の生命や身体に対する利益と胎児の生命や身体に対する利益のさらなる問題
第10章 重篤な疾患を持つ新生児の家族と医療スタッフの話し合いのガイドライン解説
1 諸言
2 背景
3 ガイドライン作製の手順と経過
4 「重篤な疾患を持つ新生児の家族と医療スタッフの話し合いのガイドライン」
5 ガイドライン解説
第11章 出生前診断(1)医療の側から
1 出生前診断の歴史:概観
2 出生前診断の諸問題
3 超音波検査による出生前診断
第12章 出生前診断(2)生命倫理の側から
1 中絶をめぐる出生前診断の倫理問題
2 日本産科婦人科学会の「出生前に行われる検査および診断に関する見解」について
3 非確定的検査(母体血清マーカー検査など)
4 着床前診断(受精卵診断)
第13章 障害児の地域,学校における支援
1 障害児の人権とその擁護
2 障害児の実態
3 障害児の福祉制度と生育支援
4 重症児の在宅生活支援
5 発達障害児への地域における生育支援
第14章 児童虐待への対応(1)医療の側から
1 Child Maltretment
2 児童虐待の背景
3 児童虐待の本質と子どもへの影響
4 児童虐待発生の芽に対する気付き
5 児童虐待への対応
6 医療機関における児童虐待対応の理想像
7 児童虐待対応における地域社会全体としての取り組みの必要性
第15章 児童虐待への対応(2)法律・児童福祉の側から
1 児童虐待への刑事法的対応
2 民法・福祉法による児童虐待対応法制
3 医療現場で問題になる法的対応
4 虐待死亡事例の示すもの
第16章 小児医療における子どもの権利(1)医療の側から
1 子どもの権利と法的枠組みとその歴史
2 我が国の医療現場で子どもの権利施行の現状
3 子どもの脳死臓器移植での子供の人権
4 重篤な疾患を持つ子どもの権利に関して
第17章 小児医療における子どもの権利(2)法律の側から
1 医療水準にかなった医療を受ける権利
2 説明を受ける権利,治療に同意する権利
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書籍情報
- ISBN:9784621084847
- ページ数:252頁
- 書籍発行日:2012年12月
- 電子版発売日:2018年5月11日
- 判:A5判
- 種別:eBook版 → 詳細はこちら
- 同時利用可能端末数:3
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