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- シリーズ生命倫理学 第12巻 先端医療
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内容
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序文
緒言
本巻のテーマは先端医療(advanced medicine)である.先端医療ということで明確に枠付けされる領域があるわけではないが,この用語は一般に研究開発途 上にある新しい医療技術とその臨床応用を指し示すものと見なされている.その中心をなすのはゲノム遺伝子医療と再生医療であり,それらに関連する生殖補助医療,移植(臓器・組織・細胞)医療,脳神経科学,臨床医工学を含めて,医学研究の前線=フロンティアに位置する分野では,世界各国で熾烈な研究開発競争が繰り広げられている.
生命科学(発生生物学,遺伝学など)を軸に工学諸分野(遺伝子工学,生体組織工学,画像工学,機械工学,ロボット工学,ナノテクノロジー,情報工学など)との融合を視野に入れた研究が中心的位置を占め,将来の臨床応用を目指すといった点に先端医療の特徴がある.確立した治療法のない疾患に苦しむ患者・家族からの強い期待,産業化による巨大な利益を追求する関連業界やビジネス界,国家戦略の柱の一つとして推進を図る政府,そして疾患克服・患者救済とともに未踏の領域への挑戦という研究者の意欲,こうした推進力に駆動されて研究が進められている.
何よりもまず当該医療技術の科学的な根拠(安全性と有効性)を示すことが求められるが,人への臨床応用に至る前に確定的な根拠を提出することは容易ではないことが多い.予期せぬ有害事象が長期の使用後に出現する可能性や,異分野の融合という形を取る場合は評価尺度が一様ではないことなどがその背景に存する.さらには,研究業績や研究資金獲得のために臨床研究段階で成果公表が行われたり,特許を始めとする知的財産権との絡みで情報コントロールが行われる可能性も,事態を複雑化する要因である.こうした事情に加えて,臨床研究においては被験者への正確かつ十分な情報提供が不可欠であるが,インフォームド・コンセントを含む研究計画のチェック機関(倫理審査委員会)に過重な負担がのしかかることも珍しくない.
いわゆる「(高度)先進医療」,すなわち従来の治療法の延長線上にあって新たな戦略のもとに進められる治療法,例えばがんの免疫療法や骨髄幹細胞による血管新生治療など,すでにある程度のエビデンスが得られて臨床での実践が進んでいる治療法も,広義の先端医療に含まれる.
しかし,本巻で取り上げるトピックの多くは,こうした治療法との間に根本的な違いを含んでいる.それは,端的に言うと「医療」というカテゴリーからはみ出る可能性,あるいは「生命」や「人間」という概念の存立基盤を変容させる可能性である.そこでは,DNA・遺伝子や細胞・組織といった生命の基本的な構成要素に手を加えることで,生命の発生や成長(形質発現)への介入が行われ,人為的な選別・改変・作製への道が拡がる.さらに,脳,意識,精神,性向,行動などのメカニズムが解明されるのに伴い,これら人間的特質への操作的介入が推し進められ,また,人間と他の生物種および機械(ロボットを含む)との境界が流動化することになるかもしれない.
本巻は次のような構成からなる.総論にあたる2 つの章(第1 ~ 2 章)で先端医療全般に関わる問題の枠組みを概観した上で,再生医療(第3 ~ 6 章),脳神経科学(第7 ~ 10 章)の部では,主要なトピックそれぞれについて科学(医学)的な側面に加えて法,倫理,政策等の社会的な視点も含めて考察を展開し,未来の医療(第11 ~ 12 章)では,先端医療のなかでもすでに実用化ないし普及しつつある2 つのトピックを取り上げて現状と課題を探る.各章の執筆は当該分野でめざましい業績をあげてきた異なるタイプの研究者が担当しており,読者は先端医療の直面する多様な問題点を幅広いパースペクティブから描き出した論考に出会うことができるであろう.
第12巻編集委員 霜田 求
虫明 茂
目次
第1章 先端医療をめぐる倫理
第2章 先端医療をめぐる法と政策
第3章 ES細胞と生命の発生
第4章 幹細胞医療
第5章 クローン・キメラ・ハイブリッド
第6章 人工臓器
第7章 脳と倫理――ニューロエシックスの諸問題
第8章 脳と精神
第9章 脳と行動
第10章 脳と社会――自由意思と責任をめぐる実践のゆくえ
第11章 パーソナルゲノム解読の倫理的・社会的課題
第12章 ナノ医療
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書籍情報
- ISBN:9784621084892
- ページ数:274頁
- 書籍発行日:2012年7月
- 電子版発売日:2018年5月25日
- 判:A5判
- 種別:eBook版 → 詳細はこちら
- 同時利用可能端末数:3
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