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海から生まれた毒と薬
Anthony T. Tu , 比嘉 辰雄 (著) / 丸善出版
商品情報
内容
自然界にはさまざまな毒があり、天然由来の薬があるが、本書では、海洋生物に焦点をあてて、海産の毒、海洋生物由来の薬や、毒の研究から発展してきた薬の研究、さらに海藻由来の天然物質やDHAをはじめとする健康食品について紹介する。 フグ毒テトロドトキシン、海ヘビやイソギンチャク、クラゲなどのタンパク毒など、海洋生物の持つ毒は特異で、強力な毒が多いことがわかり、毒性学、生理学、薬理学、生化学、有機化学などさまざまな分野の科学者の関心を引いている。一方、毒と不可分の関係にある薬についても、ナマコからの水虫薬、ホヤや海綿から生まれた抗がん剤、その他の健康食品などを紹介する。
序文
まえがき
すべての生命は古代の海に誕生した微生物から進化していったといわれている.何億年もの時間の流れの中で,あるものは海に留まり,またあるものは陸に上がって進化を続けて,今日みる多様な生物体系が築き上げられてきたと考えられている.生命の源泉である海は今も私たち人類に多くの幸をもたらし,重要な食料供給源である.しかし,中には食中毒をもたらすもの,接触すると毒を注入して痛い目に遭わせたり,場合によっては死に至らしめる生物もいる.このような海洋生物の毒は,はじめは公衆衛生上の問題として浮上してきた.研究が進むにつれて海洋生物のもつ毒は特異で,強力な毒が多いことがわかり,毒性学,生理学,薬理学,生化学,有機化学などさまざまな分野の科学者を魅了してきた.
1964年にフグ毒テトロドトキシン(4章)の化学構造が解明された後,サキシトキシン,ブレベトキシン,パリトキシン,シガトキシン,マイトトキシンなどのユニークな低分子毒(2,3章),海蛇やイソギンチャク,クラゲなどのタンパク毒(4,5,6章)など,海洋生物に特有な多くの毒素が分子レベルで解明され,生体に対する作用が明らかにされてきた.本書ではまだ研究例の少ない魚の刺毒(5章)や,海産毒の解説書で取り上げられることがほとんどない魚の腐敗とアレルギー症(7章)についても紹介している.
海洋生物の毒には生化学や生理学,薬理学の研究試薬として重要なものも多い.たとえば,カイニン酸(9章)やテトロドトキシンは神経生理学の研究を大きく進展させた.その他,細胞学や腫瘍学などの研究にもいろいろな海産毒がツールとして使用され,新たな知見をもたらしている.
一般にはあまり知られていないが,海産毒に関して人類の負の遺産ともいうべき生物・化学兵器やスパイ戦への応用研究がある.どんな毒が研究対象となってきたか付録で取り上げた.
一方,毒と薬は不可分の関係にある(1章)ことから,海からの薬を求める動き(8章)も1970年代以降活発になった.1971年までに知られていた海洋生物由来の有機化合物は200ほどであったが,現在30,000以上知られている.この40年間に150倍になったのである.その多くは医薬品探索を指向した研究の成果である.
海からの薬としては,これまでに駆虫薬カイニン酸(9章),抗かび薬ホロスリン(10章),コノトキシン類の鎮痛薬(8章),抗がん剤ヨンデリス(12章)とハラヴェン(13章),抗動脈硬化・高脂血症薬イコサペント酸エチル(14章)がある.ヌクレオシド系抗ウイルス薬(11章)の起源も海洋生物の化学的研究にある.最後の15章では予防医学推進の観点から重要視されている海産健康食品について2,3の例を挙げた.
著者らは1989年インドのゴアで開催された「海洋生物活性物質に関するインド・USA二国間会議」で初めて会った.その後アメリカ化学会の年会や国際シンポジウムなどで会う度に意見交換を重ねていく中で,海洋生物活性物質の分野で解説書を共同執筆しようという話が持ち上がった.両者とも2010年に公職を退いて,この度ようやく実現する運びとなったのが本書である.1章から8章と付録はTuが担当し,主に毒を中心に,毒と薬の接点についても解説した.9章から15章は比嘉が担当し,実際に薬として開発されたものを中心に述べた.
本書は基本的に大学学部程度の知識を有する読者を念頭に原著論文や専門書からの情報を多く取り入れたが,より多くの方々に読んでもらえるよう内容や表現をやさしくしたつもりである.それぞれの章はそこで完結する内容としたので,どの章から読みはじめてもよい.各章末にあげた参考文献は最小限にとどめた.
また,最近の研究の進歩を丸善出版株式会社のホームページ(http://pub.maruzen.co.jp/book_magazine/support/support.html)で紹介しているので,参照されたい.
本書の執筆にあたり,資料の提供や原稿の校閲をしていただいた宮沢啓輔教授(広島大学),中川秀幸教授(徳島大学),宮下和夫教授(北海道大学),酒井隆一教授(北海道大学),新井哲秀社長(ホロスリン製薬),星野毅部長(エーザイ・ジャパン九州エリア沖縄医薬部),Dr.Carmen Cuevas(PharmaMar社)に深謝いたします.また,出版をお薦めいただきました宮林正恭教授(千葉科学大学)に感謝申し上げます.最後に本書の出版に際して種々ご支援いただいた丸善出版の糠塚さやかさんに厚く御礼申し上げます.
2012年 早春
Anthony T. Tu(杜祖健)・比嘉辰雄
目次
1 毒のしくみと薬のしくみ
2 多くの海産毒の源泉は藻
3 赤潮はどうしておきるか
4 フグ毒と海蛇毒作用の比較
5 魚の刺毒
6 刺されると痛いクラゲやイソギンチャク
7 魚の腐敗とアレルギー症
8 海産毒からの薬―その原理
9 駆虫薬海人草と興奮毒性物質
10 ナマコからの水虫薬
11 海綿由来の特異なヌクレオシドと抗ウイルス薬
12 カリブ海産ホヤからの抗がん剤
13 日本産海綿から生まれた抗がん剤
14 魚油からの抗動脈硬化症・高脂血症薬
15 海産健康食品
付録 スパイ戦や生物兵器に使われる海産毒
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書籍情報
- ISBN:9784621085981
- ページ数:144頁
- 書籍発行日:2012年4月
- 電子版発売日:2019年1月30日
- 判:A5判
- 種別:eBook版 → 詳細はこちら
- 同時利用可能端末数:3
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