本書は、トゥレット症候群に対する、包括的な心理療法のひとつである、Comprehensive Behavioral Intervention for Tics（以下、CBITと略す）の治療者用テキストです。主に、欧米で精神科医師や臨床心理士、作業療法士、精神保健福祉士、その他こころの健康に関連する専門職向けのCBITの公式トレーニングプログラムの主教材として利用されているものです。本書を熟読されると、ある程度、この治療的介入の方法が実践的に理解できると思われます。現時点では、本邦でのCBITの公式トレーニングプログラムは実施されていませんが、数年以内には、アメリカ合衆国の有資格者のトレーナーにおいでいただき、公式のトレーニングが実現される予定となっておりますので、それまでの間のつなぎとして御利用いただくこともできます。本書には、姉妹篇としてご家族向けテキストと患者様用テキストがありますが（現在、翻訳作業中）、その完成までの間、このテキストを臨床的にご利用いただけるよう、付録としてCBITで使用する記録用紙等を巻末に用意させていただいておりますのでご利用ください。

本書には、トゥレット症候群との付き合い方のエッセンスが凝縮されており、薬物療法ではコントロールしきれない、この難しい障害に対する比較的有効な対処のための様々な工夫が網羅されています。すなわち、本邦では情報があまり十分ではないこの障害について、外来で簡便に利用できる心理教育の要点や様々なシチュエーションに応じた環境調整などの治療的介入のサンプルが具体的に記載されています。また、行動療法的介入の基本的スタンスについても簡潔にまとめられており、トゥレット症候群の治療成績を向上させるために皆様の日常臨床で有効にご活用いただける書であると思われます。ちなみに、本書に詳述されているCBIT は、薬物療法と併用することも、単独で利用することもできます。

本書に記載された方法を皆様の日常臨床で実際にご利用いただけると、だんだんその有効性をご実感いただけるのではないかと思われます。その際、必ずしも、セッション数などはテキスト通りではなくとも、患者様やご家族、あるいは学校、職場などの状況などに応じて、適切に運用していただくことにより、抑うつ状態や不安に対する認知行動療法等と同等かそれ以上に臨床的に有効に機能するアプローチとなると思われます。

治療成績の向上が難しく、情報量の少ないこの障害に苦しんでいる方々の苦悩を少しでも軽減できるようこのテキストが皆様に十分ご利用いただけることを希望しております。

平成30年5月3日

日本語版監訳者　浅井 逸郎