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- 実験医学増刊 Vol.34 No.2 「解明」から「制御」へ 肥満症のメディカルサイエンス
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序文
序
世界保健機関(WHO)によれば,2014 年において19 億人の成人,すなわち18 歳以上の世界人口の約39%が,体重過多もしくは肥満と試算されている.この世界的な「肥満人口」と,肥満に伴う肥満症の増加は,現代における最も深刻な健康問題の1つと言っても過言ではないだろう.肥満とは体脂肪が過剰に蓄積した状態であるのに対して,肥満症とは「肥満に起因ないし関連する健康障害を合併するか,その合併が予測される場合で,医学的に減量を必要とする病態」を指す.肥満度の判定指標としてBMI(body mass index),すなわち体重(kg)÷身長(m)2の値が広く用いられており,国際的にはBMI30以上を肥満と規定しているが,日本人は欧米人に比べて肥満症のリスクが高い(より軽微な体重過多でも肥満症を発症しやすい)ことなどから,日本肥満学会ではBMI25以上を肥満と定義している.しかし肥満および肥満症の要因はきわめて多様であるため,BMIによる基準のみならず,内臓脂肪量など個々人のケースに沿った理解が不可欠である.
肥満人口の急激な増加にもかかわらず「肥満は単なる自己管理不足」という意識がいまだに高く,食事制限と運動以外に効果的な解決策に欠けるのが現状である.しかし近年,肥満研究は大きな転換期を迎えている.例えば,白色・褐色脂肪細胞の分化機構を明らかにし,脂肪組織の代謝を亢進することでエネルギー代謝を上げる試みや,外科的手法によりエネルギー摂取を抑制する治療法,脂肪組織とさまざまな組織との臓器間ネットワークの理解などが進み,肥満を分子レベルで「解明」するのみならず,肥満を「制御」するステージへと移行しつつある.さらに,胎児の発育環境が将来的な肥満のなりやすさに及ぼすこと,腸内細菌がエネルギー代謝に調節作用を及ぼすことからも明らかなように,肥満を単純に自己責任論のみで片付けることはもはやできないだろう.
本書では,エネルギー摂取や代謝をはじめとする肥満の分子基盤にかかわる最新の知見に加えて,肥満症の発症メカニズムや,治療への新たなアプローチについて,国内外の第一線の先生方に執筆していただいた.日本肥満学会を中心として提唱された「肥満症」の概念が国際的に定着しつつあるように,日本における肥満研究は世界的にも非常に重要な貢献を果たしてきた.きわめて多様な遺伝的・環境要因が複雑に絡み合う肥満と肥満症を,今後抜本的に改善していくには,医師・研究者のみならず,看護師,薬剤師,管理栄養士などさまざまな分野のエキスパートがさらに手を組んで取り組む必要がある.本書を通じてさらに多くの方々に肥満研究の面白さと重要性を感じていただき,肥満研究の発展へとつながれば大変幸いである.
2015年12月
梶村 真吾,箕越 靖彦
目次
概論
肥満症:いま,何を知るべきか?何をするべきか?
第1章 エネルギー代謝の制御機構
1.脂肪細胞の発生と機能―白色脂肪細胞を中心に
2.褐色脂肪細胞の分化・発生
3.ヒト褐色脂肪組織の活性化・増量―その評価法と肥満対策への応用
4.骨格筋のエネルギー代謝
5.過栄養に応答した肝臓の代謝リモデリング
6.腸内細菌と肥満症
7.アディポネクチンの生理機能―肥満・2型糖尿病治療に向けて
8.エピゲノムと脂肪細胞
9.胆汁酸シグナルによる代謝調節
10.FGF21の生理作用・薬理作用―新たな抗肥満治療法の開発に向けて
11.視床下部と脂肪組織をつなぐエネルギー代謝と老化・寿命の全身性制御機構
第2章 エネルギー摂取の制御機構
1.食欲の中枢性制御
2.迷走神経求心路を介する摂食調節
3.肥満症における報酬系の役割と病態的意義
4.ヒトの摂食調節:レプチンを中心に
5.過食の病理とメカニズム
第3章 肥満がもたらす病態生理の発症メカニズム
1.インスリンシグナルの制御異常とインスリン抵抗性
2.肥満における脂肪組織の炎症
3.肥満と非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)
4.肥満と慢性腎臓病
5.肥満と動脈硬化疾患―アディポネクチンの心血管組織集積のメカニズム
6.肥満と骨代謝異常
7.肥満関連遺伝子:同定の現状と展望
8.肥満とDOHaD仮説
第4章 新たな肥満治療へのアプローチ
1.肥満症治療薬の現状と展望
2.肥満と糖尿病治療薬・抗精神病薬
3.肥満症外科治療Update
4.運動による抗肥満効果
5.低炭水化物ダイエットによる体重減少メカニズム
6.神経シグナルを介した臓器間・栄養素間ネットワーク
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書籍情報
- ISBN:9784758103527
- ページ数:212頁
- 書籍発行日:2016年1月
- 電子版発売日:2018年12月19日
- 判:B5判
- 種別:eBook版 → 詳細はこちら
- 同時利用可能端末数:3
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