レジデントノート増刊 Vol.18 No.2 輸液療法はじめの一歩

  • ページ数 : 236頁
  • 書籍発行日 : 2016年3月
  • 電子版発売日 : 2018年11月2日
4,950
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商品情報

内容

苦手意識をなくし適切な輸液ができるための1冊!

あらゆる場面で自信がもてる!輸液療法を行うための知識・原則とともに,あらゆる場面で対応できる考え方やよく出合う病態毎のピットフォールを実践さながらのシチュエーションをとりあげて解説!

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序文

およそ医師であれば,臨床現場にかかわる限り,「輸液と縁がない」,ということは稀であろう.それほど輸液は日常診療でコモンに行われているスキルである.また,輸液に関する書籍はそれこそ数多くある.一方で,昔から,輸液がわからない,困った,と言う声は初期研修医の間に蔓延している.なぜなのだろうか?


輸液治療はなぜ難しいのか?

原因はいろいろ考えられる.理由の1つとして,輸液にかかわる知識が複雑多岐にわたり,すべてを覚えきれず苦手意識をもってしまうことがあげられる.輸液の基本となる知識・原則の理解が曖昧なまま,多くの知識に触れると,逆にわけがわからなくなる.

ただ,原則を理解していたとしても,十分とはいえない.例えば細胞内容量不足と細胞外容量不足の区別は,基本的知識として重要である.しかしそれを理解していたとしても,容量そのものを直接知ることはできず,臨床的には多くの情報(身体所見,検査所見,エコーなど)からおよその病態を推定するしかない.適切な輸液のためにはこうした「推定」を仮説し,初期治療の反応をみながら検証・修正をくり返す,といった面倒な作業が必要になる.

病態ごとに,勘所が微妙に異なるのも悩ましい.同じ維持輸液でも,術後のようにADH が過剰気味になる病態では通常の維持輸液と考えかたを変える必要がある.またときに相反する病態が合併することもある.敗血症性ショックでは初期大量輸液を行うべきであるという.心不全では輸液はできるだけ絞れと指導される.では敗血症性ショックで心不全を合併していたらいったいどうしたらいいのだろうか?

一方で,人間の体はよくできているもので,輸液治療においても許容しうるある程度の幅がある.特に腎機能正常な健康な成人では,何も考えていなくても勝手に体が調整してくれる.適当に輸液治療を行っていても,たいていの患者ではうまくいってしまうので,誤った知識やスキルが修正される機会がなかったりする.このように,研修医が輸液治療を学ぶ際にはさまざまな困難やピットフォールがある.


どのように輸液を学ぶか

筆者自身も,系統的な輸液教育を受けた機会はなく,多くの医師も,自己流で学んできたというのが実情であろうし,現在の初期研修においても多くの施設でそのような実態ではないかと推察する.輸液は,現場で試行錯誤しながら学ぶ部分も多いように思うし,自ら学ぶことが重要であることは論をまたないが,ステップを意識することは大切と思う.

まずなんといっても,輸液治療のコアとなる知識を身につけることが重要だ.膨大な輸液についての知識のなかで,核となる部分をまず十分に理解しなければならない.本書では,第1章に輸液治療の原則,また輸液治療において重要なスキルである体液評価の臨床的評価方法について,総論として特に重要なポイントをまとめていただいた.この部分については,人に説明できるくらいに理解していただきたいと思う.

こうした基本的知識を身につけたうえで,病態ごとのポイントを各論的に修得したい.本書では病態ごとのポイントについて,第3章で特に輸液治療が重要である電解質異常について,また第4章で研修医が遭遇する頻度の高い疾患・病態について,記載していただいた.読んでいただくと,第1章に記述されているような原則がくり返し述べられるうえで,その病態に特異的なポイントが強調されていることが理解できる.ぜひ症例を経験するたびに参照し,振り返りを行うことに役立ててほしい.


複雑な医療現場に応じた輸液

上記のような輸液の総論・各論という視点は多くの輸液の教科書に共通したものかと思われるが,本書では少し異なる視点でも原稿を書いていただいた.初期研修では,内科,外科,救急外来,地域医療,などさまざま診療の場をローテーションする.また患者さんも,急性期病院,療養型病床,診療所・在宅,と機能の異なる診療の場を転ずることが普通となっている.こうした「診療の場」を意識することは今日ますます重要となっており,適切な連携を図るうえで,例えば内科病棟とICUの医療の違い,入院と在宅での医療の違い,といったことを理解することが必須となっている.本書では第2章において,このような診療場面ごとの輸液治療のポイントを記載していただき,場を意識した診療・連携を図る一助としたいと考えた.

もう1点,第5章においては,看護師,薬剤師などの視点から記載いただいた.チーム医療の視点が輸液においても重要なことをぜひ学んでいただきたい.また最近の医学教育の流れからみた輸液治療の教育・学習方法についても記載いただいているのでぜひ参考にしてほしい.


はじめの一歩から

以上のように本書は輸液をテーマに,さまざまな視点から原稿を書いていただいた.研修医の皆さんの診療にすぐに役立つものと信じるが,あくまで「はじめの一歩」である.輸液の知識は幅広く,深く,また病態における考えかたも確立されたものばかりではない.皆さんにはぜひ本書を踏み台として,さらに深い知識・スキルを身につけていただくことを切望している.


2016年3月

天理よろづ相談所病院 総合診療教育部・救急診療部
石丸 裕康

目次

第1章 輸液療法の基本

1.総論:水分布の理解をもとにした輸液療法

1.輸液総論

2.輸液各論

2.栄養療法としての輸液

1.経静脈栄養法

2.末梢静脈栄養法(PPN)

3.中心静脈栄養法(TPN)

4.脂肪乳剤

5.TPN施行時のビタミン剤,微量元素製剤

3.体液バランスの把握のしかた・必要な検査

1.各用語の定義

2.身体診察 

◦Advanced Lecture:外頸静脈怒張 腹部頸静脈試験(abdomino-jugular reflux:AJR)カテーテルによるCVP,PCWP 下大静脈径(IVC径)虚脱率

3.検査所見

第2章 診療の場による輸液の考えかた

1.救急外来での輸液

1.ERでは,どのようなときに輸液を必要とするか

2.輸液療法の4段階モデル

◦Advanced Lecture

2.内科病棟での輸液について

1.急性期の輸液について

2.維持輸液について

3.維持輸液からの離脱

◦Advanced Lecture:維持輸液中の低ナトリウム血症

3.外科病棟・周術期での輸液

1.合併症のない患者の輸液

2.合併症を有する患者の輸液

◦Advanced Lecture:1.重症の手術患者の輸液

◦Advanced Lecture:2.最近の周術期輸液事情

4.集中治療・重症患者での輸液

1.1990年代

2.2000年代〜最近

3.重症患者に対する輸液方針

4.EGDT否定論文から学ぶこと

5.慢性期病棟での輸液

1.食思不振の患者への輸液

2.入院中に新たに症状を認めた患者への輸液

3.静脈確保が難しい患者への輸液

◦Advanced Lecture:静脈経路が確保できない場合の薬剤投与について

6.診療所での輸液

1.診療所で,輸液が必要となる代表的な場面

2.診療所での輸液の特徴

7.在宅での輸液

1.症例をみてみよう

2.抗菌薬投与について

3.皮下輸液について

4.皮下輸液の穿刺・実際の使用

5.皮下輸液開始後のトラブル

6.在宅輸液と多職種

7.在宅でのTIPS

第3章 電解質異常を治療する輸液戦略

1.高ナトリウム血症

1.高ナトリウム血症とは

2.高ナトリウム血症の症状

3.高ナトリウム血症の原因・鑑別方法

4.治療について

5.症例提示

2.低ナトリウム血症

1.低ナトリウム血症の原因

2.低ナトリウム血症の治療

3.低ナトリウム血症の経過

3.高カルシウム血症

1.高カルシウム血症の評価

2.高カルシウム血症の臨床症状と鑑別診断

3.高カルシウム血症の治療法

4.低カリウム血症

1.アプローチ:K+欠乏量の評価

2.低カリウム血症の補正

3.治療のモニタリング 

◦Advanced Lecture:特殊な治療法

5.高カリウム血症の緊急対応

1.なぜ高カリウムが起こるのか?

2.症状・心電図変化について

3.高カリウム血症の緊急対応

4.初期治療に成功した後

◦Advanced Lecture:1.偽性高カリウム血症

◦Advanced Lecture:2.DKAやHHSに随伴する高カリウム血症

◦Advanced Lecture:3.高カリウムが原因の心停止

第4章 病態ごとの輸液療法の考えかた

1.脱水症の輸液

1.脱水症とは

2.輸液製剤の選び方

3.必要な水分量

4.必要な電解質量

5.脱水のときは?

◦Advanced Lecture:経口脱水補正液(ORS)

6.脱水症の症例

2.ショック状態での輸液

1.基本的な考え方

2.出血性ショック

3.敗血症性ショック

4.心原性ショック

◦Advanced Lecture

3.脳血管障害での輸液

1.脳血管障害患者への一般的な輸液療法

2.脳梗塞

3.高血圧性脳出血

◦Advanced Lecture

4.くも膜下出血

◦Advanced Lecture

4.敗血症での輸液

1.SSCGとは

2.補液のメニューについて

3.過剰補液について

5.心不全での輸液〜心不全の輸液は初期評価+再評価

1.心不全の輸液に関係した病態生理~初期輸液量に関して

2.輸液ではなくて,利尿かけるんですか?

3.電解質に想いを馳せる〜輸液は量・電解質・ブドウ糖

6.多発外傷での輸液

1.静脈路の確保

2.輸液製剤の選択

3.初期輸液療法の反応による治療方針

4.輸血の要否の判断

5.輸液・輸血の目標

7.熱中症・低体温での輸液

1.熱中症

2.偶発的低体温症

8.肝硬変での輸液

1.肝硬変における水・電解質異常

2.肝硬変症例のマネジメント

9.糖尿病の輸液

1.DKAの治療

2.HHSの治療

3.絶食時の治療

◦Advanced Lecture

10.腎不全・透析患者での輸液

1.慢性腎臓病(CKD)と急性腎傷害(AKI)に対する輸液

◦Advanced Lecture:過剰なCl負荷は腎臓に悪い?

2.透析患者に対する輸液

◦Advanced Lecture:造影剤腎症の予防

3.栄養輸液

11.高齢者での輸液

1.高齢者の水分コントロール

2.高齢者に対する輸液

12.小児科での輸液

1.小児の脱水の評価

2.治療法の選択

◦Advanced Lecture:低ナトリウム血症の急速補正 経口補水液 経鼻胃管を用いた補水療法

3.輸液治療の評価

13.精神科での輸液

1.昏迷状態の症例に対する輸液

2.拒薬・拒食状態の症例への輸液

3.神経性食欲不振症に対する輸液

14.終末期の輸液

1.終末期患者の栄養状態

2.輸液の適応

3.患者・家族への対応

◦Advanced Lecture:皮下輸液

15.困難な事例での輸液

困難1.輸液投与ルートの選択

困難2.インフォームド・コンセント(説明と同意)の施行

第5章 研修医にわかってほしい「輸液」

1.看護師からみた輸液

1.看護師がみた! 研修医の輸液あるあるケース

2.輸液はときに患者の害になる

3.輸液療法が成功するために

2.薬剤師からみた輸液・注射薬の配合変化

1.物理的配合変化

2.化学反応による配合変化

3.配合変化の回避方法

3.輸液教育の工夫

1.シンプルに考える

2.輸液の学習もアウトカム基盤型で

3.マイルストーン表をつくってみよう

4.マイルストーンの運用

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書籍情報

  • ISBN:9784758115674
  • ページ数:236頁
  • 書籍発行日:2016年3月
  • 電子版発売日:2018年11月2日
  • 判:B5判
  • 種別:eBook版 → 詳細はこちら
  • 同時利用可能端末数:3

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