特集にあたって

1 骨折・脱臼診療の難しさ

研修医にとって，ER において骨折や脱臼の患者を診療する機会は多いと思われます．しかしながら一方では「X 線画像での骨折がわかりにくい，診断に苦慮する」「骨折の整復をしてシーネを固定する自信がない」「脱臼の整復はハードルが高く難しい」「だから最初から整形外科医にお任せしたいけど，呼ぶとよい顔をされない」などといった声が寄せられています．また，ER での研修医による見逃し症例は（つまり指導医も！？），整形外科系疾患が多いということもまた事実です．ER や当直業務で整形外科医以外が整形外科関連の疾患に対応しなくてはならない場合は多々あると思われますが，骨折の見逃しがないか，処置はこれでよいのだろうかと常に不安を抱えながらの診療となろうかと思います．もちろん骨折の症例が来院したら，整形外科医による整復操作とその後のシーネ固定が最も望ましいと思われますが，整形外科医が常に当直でいる大学病院を除くと，時間外に整形外科医が対応できない施設の方が圧倒的に多いのがわが国の現状であると思います．

2 本特集の内容

そこで今回，骨折・脱臼の画像読影のポイントや，ER において最低限身につけておきたい脱臼整復などの手技を学ぶ特集を企画しました．

まずER での外固定はシーネを用いることになりますが，外固定の基本的な考え方から上手なシーネの巻き方までを，高畑智嗣先生に研修医にわかりやすく解説をしていただきました（pp.1726 〜1734）．また，小児の骨折ではX 線の読影から治療の迅速性まで成人とはだいぶ勝手が違ってきます．小児で注意すべきは成長軟骨板の評価で，ここの損傷に気づかないと，今後の成長過程で成長障害・機能障害をきたすことになってしまいます．

（中略）

脊椎外傷では，交通事故で首が痛い，という患者を診察するとき，本当に骨折がないのか自信がもてない，という状況もあるかと思います．また脊椎圧迫骨折も，もともとの圧迫骨折なのか新鮮な骨折なのかわかりづらいことも多いと思います．診断から治療にいたるプロセス，まれにある緊急手術の適応などについて，岡田英次朗先生に解説をお願いしました（pp.1783 〜1790）．

各方面の一線で活躍する外傷整形外科医の先生方に，実臨床で明日からでもすぐに役立つ特集となるよう症例をベースに解説をお願いしました．また巻頭では，ER における整形外傷治療の考え方について，整形外科医でありかつ救急医である拙者が，両者の立場を踏まえ解説をしました（pp.1719 〜1725）．本特集が，若手の先生方のER での診療の質の向上に寄与し，また心強い味方となってくれることを願っています．

2017年9月

田島 康介