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- 進化医学 人への進化が生んだ疾患
商品情報
内容
人はなぜ病気になるのか?進化に刻まれた分子記憶から病気のメカニズムに迫る「進化医学」。診断、治療法の確立にも欠かせない、病気の新しい考え方をわかりやすく解説!
序文
“Nothing in biology makes sense except in the light of evolution”
(進化を考えない生物学には意味がない)
― Theodosius Dobzhansky
有名な遺伝学者,Theodosius Dobzhansky のこの言葉は,近年の進化学,ゲノム医学の進歩によってますます重みを増してきている.それはおよそ38 億年前に始まった生命進化の歴史が,ゲノム研究によってより深く理解できるようになったからである.去る2009 年は,チャールズ・ダーウィンの生誕200 年,『種の起源』の刊行150 年のメモリアルイヤーにあたり,さまざまな出版物や催しによって,進化論は脚光を浴びた年となった.そして進化論は,ゲノム研究の裏づけによって,進化学とよぶべき分野に発展したということができる.
ヒトもまた生物の一種であり,およそ38 億年前に地球に出現した生命体の後裔であることは疑いがない.そして医学はこの人体の構造と機能を明らかにするとともに,病気の成因を解明して,診断,治療法を確立することを目的としている.したがって医学の大部分は明らかに生物学の一分野であり,Dobzhansky の言うように進化の視点がなければ意味がないことになる. しかし従来医学の領域では,進化学の視点はきわめて乏しかった.「進化医学」あるいは「ダーウィン医学」のコンセプトが登場するのは1990 年代になってからで,1994年にRandolph M. Nesse とGeorge C. Williams の『Why We Get Sick』(Timesbooks)という書物と,あまり広くは知られていないが同じ年にMark Lappé の『EvolutionaryMedicine』(Sierra Club Books)が出版されてからである.これらの書物に触発されて,筆者は2000 年に『人はなぜ病気になるのか―進化医学の視点』(岩波書店)を出版した.これらの書物は病因論に進化学の視点を導入し,より遠因に遡って深い理解をしようとするものであった.しかしその内容は断片的,挿話的であり,体系化されたものではなかった.そして進化医学にかかわる書物で取り上げた病因論は1つの仮説,あるいは解釈としてとらえられ,科学的な根拠が不十分であると理解されることが多かった.また多くは直接診断や治療に結びつかないこともあって医師の関心を引くことが少なく,進化医学はなお医学のなかで市民権を得ていない状態である.
進化医学の試みが始まって20 年近く経過したが,この間の生命科学の進歩は誠にめざましいものがある.ウイルス,細菌に始まったゲノムの解読は,やがてヒトゲノムプロジェクトに進み,2003 年には標準的なヒトゲノム配列が決定された.その後さまざまな生物でゲノムの解読が進み,それらが生命進化の研究を,著しく深化させた.またヒトにおいてゲノムの個人差の研究が進み,ゲノムの個人差とヒトの表現型や病気との関係も次第に明らかになりつつある.医学が人間共通の医学から個の医学へ,そしてまた人種(人間の1つの集団という意味)の特徴に基づいた医学へと進みつつある.それとともに進化学の視点から,もう一度医学を見直そうという動きも出始めているように思われる.Dobzhansky の言葉を言い換えれば,「ゲノム進化の理解なしには,生物学も医学も意味をなさない」と言うことができるであろう.
本書はこのような学問の流れを医師,医学生のみでなく,広く生命科学の研究者に理解していただくべく執筆したものである.できるだけ挿話的にならないよう,体系化をめざして構成した.第1章では病因論における進化医学の意義を述べ,第2,3章では38 億年にわたる生命進化の歴史をヒトの病気の観点から概観した.第4,5章は進化医学の基礎となる進化生物学,進化ゲノム学を,医学との関連を中心に述べた.第6,7,8章では,進化の動因として重要な感染症,栄養エネルギー代謝,捕食- 被食関係や体の大きさなどと人の疾患の関係を,第9章では人の特徴ともいうべき脳と心の進化と疾患について述べた.しかし進化医学の範囲はきわめて広く,私の力の及ばないところ,理解が不十分なところ,あるいは細部に誤っているところがあるかもしれない.しかし人の体と心,そしてその病気を進化の視点で捉えようとする学問の方向を少しでもくみ取っていただければ幸いである.
最後に本書の執筆にあたって種々ご教示あるいは討論をしていただき,また査読をいただいた宮田 隆(京都大学名誉教授),鍋島陽一(京都大学名誉教授,先端医療センター長),高畑尚之(総合研究大学院大学学長),石野史敏(東京医科歯科大学教授),伊藤 裕(慶應義塾大学教授),今井眞一郎(ワシントン大学Associate Professor),小川佳宏(東京医科歯科大学教授),笠倉新平(神戸市立医療センター中央市民病院参与),神庭重信(九州大学教授),越山裕行(北野病院内分泌・糖尿病内科部長),光山正雄(京都大学教授)の各氏に心からのお礼を申し上げる.また本書の出版にあたって細部にわたって校正し,図表の作成などにご尽力をいただいた株式会社羊土社編集部の間馬彬大,中川由香の両氏に感謝申し上げる.
2012年 11月
井村裕夫
目次
スタートアップ 心エコー図を理解するための超音波解剖
Advanced Technique
第1章 心エコーでどこまでわかるのか
1. 心エコーをどう検査するか,どう上達するか?
Advanced Technique
はじめに
第1章 病因論と進化医学
1 病因論について ─ゲノム研究に基づく進歩
2 単一遺伝子性疾患と進化
3 多因子疾患における進化の分子記憶
4 病因論の新しい展開 ─集団遺伝学
5 進化医学とは
第2章 生命進化38億年の歩みと疾患
1 生命の誕生と階層進化
2 原核生物の出現
3 真核生物の出現
4 性の進化
5 多細胞生物への進化
6 脊椎動物への進化
7 地上への進出
8 哺乳動物への進化
9 そして人類へ
第3章 人類への進化と疾患
1 人類の誕生 ─二足歩行を始めたヒトの祖先
2 原人への進化と脳の発達
3 現生人類(ホモ・サピエンス)への進化
4 ヒトの全地球への拡散と適応
5 農業・牧畜から都市の形成へ
第4章 進化生物学と医学
1 自然選択と適応
2 自然選択の生物学的要因
3 自然選択の地球物理学的要因
4 自然選択の特徴
5 社会進化 ─進化のいま1つの要因?
6 性選択 ─異性から選ばれることによる進化
7 種はどのように分岐するのか
8 進化論と遺伝学の矛盾を解決した総合学説
第5章 進化ゲノム学
1 ゲノムの構成
2 遺伝子発現の調節
3 インプリンティングとせめぎあい仮説
4 インプリンティング異常疾患とトレードオフ
5 エピジェネティクスと疾患
6 ゲノムの進化 ─遺伝子重複の役割と試練
7 ゲノムの多型と疾患
8 分子進化の中立説と分子時計
9 進化発生生物学(Evo-Devo)が解き明かす形態の進化
第6章 感染と防御機構の進化
1 感染症 ─生物を最も苦しめてきた疾患
2 温和な,しかし時として宿主に牙を剥く共生微生物
3 生体防御系の進化 ─自然免疫
4 生体防御系の進化 ─獲得免疫
5 寄生体の宿主への対応 ─巧妙なゲリラ戦略
6 抗生物質への耐性菌の出現
7 微生物の病原性,ビルレンス
8 感染症によって選択されたヒトの遺伝性疾患
9 自己免疫
10 アレルギー ─進化医学の難題
111 腫瘍免疫
第7章 栄養・エネルギー代謝と進化
1 生物とエネルギーの代謝
2 オートファジー(自食) ─飢餓への備えから細胞機能の維持へ
3 貯蔵脂肪 ─飢餓に備えた貯蔵庫
4 糖質 ─利用しやすい重要なエネルギー
5 インスリンの進化
6 エネルギーホメオスタシスの調節?
7 肥満 ─太りゆく人類
8 2型糖尿病 ─"大流行"の兆し
9 メタボリックシンドロームと高血圧
第8章 捕食- 被食関係,体の大きさ,寿命の進化医学
1 捕食-被食関係と進化
2 体の大きさと進化
3 生活史1 ─成長
4 生活史2 ─生殖
5 寿命
6 加齢に伴う疾患の進化医学
第9章 脳と心の進化と疾患
1 脳と心の進化
2 社会性の進化とその異常
3 脳の発達とその異常
4 精神疾患の進化医学
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書籍情報
- ISBN:9784758120388
- ページ数:239頁
- 書籍発行日:2013年1月
- 電子版発売日:2014年7月11日
- 判:B5判
- 種別:eBook版 → 詳細はこちら
- 同時利用可能端末数:3
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