今回「Q＆A 皮膚科診療ケースファイル─ 見逃しやすい症例51」を企画・編集する機会を得ることができ，とても光栄に思います．

皮膚科では臨床症状を入念に診察し，鑑別診断を考え，必要な検査を十分して，診断を確定した上で，治療方針を決定することが，診療の基本と考えます．しかし，日常診療においては，皮膚症状の部位や性状を診察して短い時間で診断する（blink diagnosis）ことが多いと思います．そのような時に陥りやすい落とし穴にはまり，誤診してしまうことがあります．本書はそのようなケースファイルを紹介し，その対処法をわかりやすく解説することを目的としました．皮膚症状のどの部分に注目したら良いのか，どのような鑑別疾患を考えたら良いのか，どのような検査方法を選択したら良いのか，を丁寧に解説しています．

本書は皮膚科を専門にしている若手医師とベテランの医師はもちろん，内科や外科が専門でかつ皮膚科疾患も診療している先生方にも読んでいただきたいと思います．

本書では，誤診しやすい症例でかつ典型的な51 症例をセレクトしました．皮膚症状の特徴から，「結節」，「丘疹」，「紅斑」，「紅斑以外の色素斑」，「水疱」，「膿疱」，「鱗屑・角化」，「びらん・潰瘍」，「爪」，「粘膜」，「浮腫・硬結」，「毛」，「瘻孔」，「妊娠」と大きく分類し，その中にそれぞれの症例を提示しています．最初のページに症例のプロフィールと臨床写真があります．ここで写真をじっくり観察して，皮膚症状の特徴をつかんでいただき，鑑別診断を頭に浮かべていただきたいと思います．それから，Question の解答を考えていただきたいと思います．そのあとで2 ページ目以降のAnswer の解説を読んでもらえば理解が深まると思います．

通常の教科書と違い，どこからでもクイズ感覚で，気楽に読むことができる2 頁か4 頁の読み切りのスタイルになっています．また何度か繰り返し読むことによって，それぞれの皮膚疾患が自分の中にイメージとして定着していくと思います．

執筆をお願いしました先生方はいずれも皮膚科臨床に強いベテランの方々です．特に臨床写真にはこだわっていただき，最高の写真を提供してもらいました． 最近の皮膚科の論文や教科書の写真をみていますと，アングル，ピント，背景，色合いなどが今ひとつのものがしばしばみられます．本書の写真はそういった部分が優れているだけでなく，診察した先生方の強いメッセージが感じられると思います．これらの写真は典型的であり，かつ疾患の特徴を備えています．これを頭に置いて実際の症例を診察すれば，典型的な部分と非典型的な部分を判断し，より正しい診断へのアプローチができると思います．

本書が皆様方の皮膚科診療において少しでもお役にたつことを望んでいます．

平成27年 1月

川田　暁