はじめに

統計学の本を開くのははじめてですか？

中学や高校の数学の教科書に，「確率と統計」という章があったのを覚えていますか．既に統計学の授業を受けたことがある人もいるでしょう．なかには仕事上必要に迫られて，書店で数冊買い込んでそのまま本棚に眠っているけれど，さらに1 冊買ってしまったという人もおられるかもしれません．

多くの人が統計学に対して抱いているのは，「数式が多い」，「用語が分かりにくい」，「使い方が分からない」・・・といったネガティブイメージです．試験があるから，上司に命じられたから，「忍」の一字で耐えるしかないと暗澹とした思いで本書を手にしている人も少なくないでしょう．

本書は，医療分野を目指す学生やさまざまな職種の医療従事者が，はじめて統計を学ぶことを想定しています．もし，これが何度目かの挑戦であっても心配は無用です．数式は少ししか出てきません（計算はコンピュータの仕事です）．身近な具体例を日常用語で説明します（簡単な統計用語やコンピュータ用語辞典も付いています）．統計学的な表現方法も身に付けられます（医療分野でもプレゼンテーション能力が必要です）．

今や世界の情報を伝えるメディアでは統計データが多用され，私たちは日常的に「不確実性」に直面します．私たち一人一人が，識字や計算の能力に加えて，統計リテラシー（統計的なものの考え方）を身につけなければならない時代になったのです．統計学は，あなたが選んだ医療職を自信を持って全うするための道具に過ぎません．

本書の目標は，「統計学を道具として使いこなす」ことです．具体的には，

（1）ものごとに対する疑問を統計学的に表現できる．

（2）疑問に答えるために必要なデータを集められる．

（3）集めたデータを分かりやすくまとめられる．

（4）データ全体の特性を読み取ることができる．

（5）統計手法を選んでデータ解析ができる．

（6）得られた結果を統計学的に表現できる．

（7） 解析結果を現実の問題に当てはめて結論を引き出し，そこから新たな問題を見つけられる．

情報化社会にあって統計学を使いこなすには，コンピュータソフトやインターネットを利用する必要があります．統計リテラシーは，コンピュータ・リテラシーやインターネット・リテラシーが前提となっていると言っても過言ではありません．本書では，表計算ソフトExcel（Windows 7 上でMicrosoftExcel 2010）を使ったり，インターネットで問題解決に必要なデータを探したりしながら，これらの能力を同時に身に付けることができます．

本書は既に出版した1）「親切な医療統計学」，および，2）「医薬研究者の視点から見た道具としての統計学（改訂2 版）」と共通のコンセプトで作成しました．まず，本書で統計学の概念を理解した上で，医療研究で用いられる基本的な統計解析手法を使いこなすためには1）を，さらに高度な解析法が必要な場合は2）をお読みください．

本書，並びに，これまでの著書の執筆を支え続けて下さった金芳堂の村上裕子氏に深く感謝いたします．

2015年4月

奥田 千恵子