新・血栓止血血管学 検査と診療

  • ページ数 : 219頁
  • 書籍発行日 : 2015年10月
  • 電子版発売日 : 2016年4月1日
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商品情報

内容

血栓症と出血症の、多様化する各種検査と治療法をわかりやすくコンパクトにまとめ、将来をも見据えた一冊!

血栓症と出血症について臨床に必須な情報をあつめた。検査においては血小板系・線溶系・線溶系など多岐にわたる血液検査から、次世代シーケンサーを使ったGWASやOmics分析まで網羅しています。

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序文

定着を促進する"記憶の場"としてのテキスト

◆ ヒトの身体は高度なシステム体としてダイナミックに躍動している

ヒトの身体は約60 兆個,200 種類以上の細胞から成っていると言われている(最近,「その根拠を求めて試算し直したところ,37 兆個である」という説がでている.参照://informahealthcare.com/doi/abs/10.3109/03014460.2013.807878)が,いずれにしろ驚くほどの数である.これらの細胞のうち血球は,基本的に1 個1 個血液に浮遊して血管内を流れているが,その他の細胞は,同種の細胞同士あるいは異なった細胞と秩序だって集合し,【組織】⇒【臓器】⇒【個体】を形成する.これらの【細胞】-【組織】-【臓器】,そして【個体】が日々ダイナミックに,しなやかに生存するためには,お互いが融通無碍にコミュニケートする必要がある.すなわちダイナミック・システムを構築する必要がある.

◆ ダイナミック・システム体はハイウエイと一般道路,小路,あぜ道から成っている

このダイナミック・システムを保障しているのが,動脈・静脈・毛細血管,リンパ管,すなわち脈管,循環系Circulatory system である.心臓を開始基点とするCirculatory system は,進化論的には,節足生物(バッタやキリギリスなど)以降から発生してきている.すなわち腔腸生物はまだ無循環系生物で,節足生物になり循環系が発生してきたが,それでも節足生物では心臓から拍出された血液は脈管で運ばれるものの,一旦脈管外に出て,組織を還流してから,再び心臓に還ってくるという"開放循環系"である.我々のもつ「心臓⇒動脈⇒毛細血管⇒静脈⇒心臓」という閉鎖循環系が具備されてくるのは,節足生物以降のことである.

◆ 閉鎖循環系のメリットとデメリット

血液は流れることで,新たな"意味,意義"を付加した.それまで考えられていたように「肝臓で厖大な量の血液を造る」ということであれば,相当の無駄が生ずるが,血液は流れるのでそのような無駄は無いわけである.その上,酸素や栄養物を送り,炭酸ガスや老廃物を持ち帰ることで,心臓という中枢は末梢の状態を時々刻々と知ることが出来るようになった.文字通り,閉鎖循環系こそ,フィードバック-フィードフォアワードというダイナミックなシステムの基本をなしているのである.

「心臓から出て行った血液が,再び心臓に還ってくる」という血液循環説は,周知のごとくウイリアム・ハーヴェイ(William Harvey,1578‒1657)によって確立された.血液循環説は,今では小学生でも知っている地動説と同じ頃,奇しくも同じ大学,北イタリアのパドバ大学で誕生している.

恐らく「物事が巡る,循環する」というコンセプトをハーヴェイは同じ環境の中で思いついたのであろう.

心血管系を一つのシステムとして眺め,心血管系は閉じていること,そして生理学的視点,血液は【心臓】⇒【動脈】-(毛細血管)⇒【静脈】を巡って,再び【心臓】に還ってくるという血液循環説(ただし,ハーヴェイは毛細血管については記載していない)を,ハーヴェイは1628 年に「動物における心臓と血液の運動に関する解剖学的研究」として『プリンキピア』に発表した.「少量の血液が何度も何度も体内を循環する」という,当時にあっては画期的な説である.ちょうど,この5 年あとの1633 年という年は,かのガリレオ・ガリレイが地動説に対する異端審問の裁判で終身刑を受けた年である.同時代には,天体の運行法則に関する「ケプラーの法則」を発見したヨハネス・ケプラー(Johannes Kepler,1571‒1630)などの天文学者のほかに,芸術でも,単なる美を超えて,躍動する人体の構造と機能を描いたレオナルド・ダビンチ(Leonardo da Vinci,1452‒1519 年)やミケランジェロ(Michelangelo di Lodovico Buonarroti Simoni,1475‒1564 年)も出ているので,時代はまさしく,人々の関心が,もっぱら自分らの存在する静的な世界から,常に運動し,躍動する空間に向けられたのである.

翻って,ハーヴェイの確立した"閉鎖循環系"が十全に機能するためには,決して循環系内部が閉鎖されてはならない,常に円滑に循環すること,そして,逆に脈管破綻時には,"速やかに,そして自動的"にその部位で止血すること,という質,難易度共に高い"ヤーヌス守護神"の如き両全性が求められる.

不断に円滑に循環することと,血管が破綻したら直ちに止血,そして修復すること,その仕組みとしてのサイエンス,これが,止血血栓学のセントラルドグマ,中心教条である.

この「通常は不断に流れ,破綻時にはただちに当該部位のみで凝固・血小板反応が起きて止血する」というセントラルドグマが破綻した病態が血栓や出血である.前者は,凝固・血小板反応が不必要な部位で不必要な時期に惹起された結果であり,怪我(の出血)との戦いが最重要であった時代には思いも寄らぬ「閉鎖循環系のデメリット」である.我が国は世界に先駆けて超高齢社会に突入したので,21 世紀は血栓症の時代であり,我々はこの「国民病」を制圧せねばならない.

本書はこのセントラルドグマの理解を目的として編纂された.何よりも「血栓症と出血症の症例を救命するために」.

◆ 記憶の場としてのテキストを目指して

我々はモノを文書で覚える際に,一緒にその記載「場所」をも覚える.すなわち"右のページの左上に書いてあった"とか.そして確かめる時には,その場所をオリエンテーション(目標;目じるし)としながらパラパラと本をめくり,「早捜し」をする.これは書物でのナビゲーションのメリットである.動物が匂いで記憶し,場所や敵味方を記憶識別するように,我々は書物の記載部位で,まず大まかな記憶をする.次には,そこを頼りに,記憶を確かめる.これはインターネットにはない,書物のメリットである.


血栓止血学の理解のみでなく,"記憶の場"を提供することを期待して,この本を編纂した.


編者 一瀬白帝
丸山征郎



目次


推薦の言葉

巻頭言


1部 出血病と血栓症の検査・診断

1. 血栓止血関連検査:オーバービュー

1. 血栓止血学における臨床検査の意義

2. 止血のメカニズム,止血異常/血栓傾向の評価

3. 止血異常,血栓症,血栓性素因の検査・診断

4. 血栓子血管連検査の最近の動向 

2. 血小板系検査

1. 検査に関するQuality control,採血

2. 各種の血小板凝集能検査法

3. 血小板凝集能検査を用いた抗血小板薬の効果判定

3. 凝固系検査・抗凝固検査:POCT検査を含む

1. 凝固系

2. 抗凝固検査

3. 止血血栓領域におけるpoint of care testingの概念の導入の重要性

4. 線溶検査

1. ユーグロブリンクロット溶解時間

2. プラスミノゲン

3. PAI-1

4. α2-PI

5. プラスミン-α2-PI複合体

6. フィブリノゲン・フィブリン分解産物

7. Dダイマー

8. 白血球エラスターゼによるフィブリン分解産物

5. 血栓・血管・血流の包括的検査

1. 血流下における血栓形成の解析

2. PL-chip

3. AR-chip

6. 凝固波形解析

1. 凝固波形解析の測定原理

2. 凝固波形解析の意義・応用

3. 今後の展望

7. 静脈血栓塞栓症の検査診断

1. 静脈血栓塞栓症

2. 生体内におけるAPC凝固制御系の重要性

3. APC凝固制御系の遺伝子検査診断

4. APC凝固制御系因子に関連するトロンボモジュリンやプロテインC受容体の遺伝子異常と静脈血栓塞栓症

5. 血栓性素因スクリーニングとしてのプロテインS比活性測定

8. 血栓症の分子疫学とSNPs

1. 心筋梗塞のゲノム疫学研究

2. 脳梗塞のGWAS

3. 心筋梗塞・脳梗塞の個別化予防

9. 止血・血栓症に関連するOmics網羅的解析の動向

1. 血管内皮におけるトランスクリプトーム

2. 止血・血管生物学分野における次世代シーケンサーの活用

10. 遺伝子組換え動物

1. 発生・発育における凝固・線溶・血小板に関係する遺伝子の欠損の影響

2. 出血病と血栓症


2部 出血病と血栓症の治療

11. 出血病と血栓症の治療:オーバービュー

1. 血液の整理と病態:出血と血栓症

2. 止血機序と血栓症

3. 血管内皮の抗血栓機序

4. 血栓症の特徴と対処法

5. 血栓症の分類

6. 抗血栓療法の考え方

7. 出血性疾患の種類と対処法

12. 血液製剤

1. アルブミン製剤

2. グロブリン製剤

3. 凝固因子製剤

4. フィブリノゲン製剤

5. 第XIII/13因子製剤

6. アンチトロンビン製剤

7. そのほかの血漿分画製剤

13. 輸血のパラダイムシフト

1. 赤血球輸血

2. 新鮮凍結血漿輸血

3. 血小板輸血

14. 新規経口抗凝固薬(DOACs):オーバービュー

1. DOACsの薬理作用

2. DOACsの薬物動態

3. DOACsを用いた大規模臨床試験

4. DOACsのもつ課題

15. 心房細動とDOACs

1. AF治療の進め方

2. 非弁膜症性AFに対する抗凝固薬としてのDOACsの位置づけ

3. DOACsの特徴

4. 非弁膜症AFに対するDOACsのエビデンス

16. 静脈血栓塞栓症とDOACs

1. 静脈血栓塞栓症に対して使用される抗凝固薬

2. 静脈血栓塞栓症に対する抗凝固療法の使用方法

3. エドキサバンのエビデンス

4. DOACsを使用した静脈血栓塞栓症の臨床

17. DOACsと凝固検査

1. 直接経口トロンビン阻害薬の作用点と凝固検査

2. 経口FXa阻害薬

3. DOACs血中濃度測定の臨床検査利用

4. ワルファリンとDOACsにおける凝固検査の評価

18. 血栓溶解療法の進歩

1. 血栓溶解薬の種類

2. 急性心筋梗塞に対する血栓溶解療法

3. 急性肺血栓塞栓症に対する血栓溶解療法

4. 急性期脳梗塞に対する血栓溶解療法

19. 虚血性脳血管障害の抗血小板療法

1. 非心原性脳梗塞の臨床病型と抗血小板療法

2. 脳梗塞再発予防における抗血小板療法

3. 新規抗血小板薬

4. 抗血小板療法中の出血合併症の予防

5. 抗血小板薬の薬効評価

6. 非心原性脳梗塞再発予防における抗血小板療法と抗凝固療法

20. 抗血小板併用療法

1. 抗血栓療法は諸刃の剣(使わないで済めば使わないほうがよい薬)

2. 抗血小板併用療法が始まった歴史的経緯

3. 抗血小板併用療法をどのように行うか?

4. PSY12 ADP受容体とチクロピジン・クロピドレル後のADP受容体阻害薬

5. 急性冠症候群以外にも抗血小板併用療法は使用するか?

6. エビデンスベースから個別最適化へ

21. 冠動脈疾患の治療:ステント血栓症を含む

1. 不安定狭心症

2. カテーテルインターベンション

3. 慢性期虚血性心疾患

22. 血栓症の血管内治療・外科的治療

1. 動脈血栓症

2. 静脈血栓症

23. 血栓止血領域における抗体医薬

1. 抗体医薬の特徴

2. 血栓性疾患に対する抗体医薬開発

3. 出血性疾患に対する抗体医薬開発

24. iPS細胞の医療応用

1. iPS細胞の再生医療における役割

2. iPS細胞を用いた血液分野の再生医療

3. iPS細胞を介さない新たな再生医療へのアプローチ

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書籍情報

  • ISBN:9784765316514
  • ページ数:219頁
  • 書籍発行日:2015年10月
  • 電子版発売日:2016年4月1日
  • 判:B5判
  • 種別:eBook版 → 詳細はこちら
  • 同時利用可能端末数:3

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