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- 無痛分娩の極意
商品情報
内容
欧米の産科麻酔の教科書に記載されてエビデンスベースの解説だけで日本で行われている無痛分娩に対応するのは難しい。教科書一辺倒ではない著者の経験知を1冊にまとめた。
序文
私が産科麻酔の世界に足を踏み入れた1993年ごろは日本語で書かれた産科麻酔の教科書はほとんどなかったが,四半世紀以上過ぎた今では,日本語の教科書がいくつか出版されている。はじめは海外の教科書の訳本が多かったが,次第にオリジナリティのある書籍も見られるようになった。その多くは,海外で研鑽を積んで産科麻酔をわが国で広めた,いわば日本の産科麻酔のパイオニア達の著書である。多くの麻酔科医だけでなく,おそらく産婦人科医も彼らの著書の恩恵を受けたのではないかと思う。
しかし,わが国の麻酔科学においてもっとも偉業を残したともいえる華岡清洲(1760-1835)はあえて薬物の製法を文字として残さなかった。それを秘密主義として批判する人も多い。「術」は昔であれば実際に門下生となり,見て盗むのが正攻法かもしれないが,今の時代そんなことをいうのは時代錯誤もはなはだしいし,実際不可能である。ただ誤解のないよう付記するが,青洲の場合は乱用防止のため秘法としたのであって,秘密主義とはかけ離れた人格の持ち主であり,「術(アート)」の大切さを徹底して教えた医師であったとされる。
さて自ら産科麻酔,特にいわゆる硬膜外鎮痛下無痛分娩を実践しようとすると,教科書どおりにいかない状況に数多く遭遇する。もちろん臨床とはそういうものだ。ただそう言ってしまうのは容易いが,教科書どおりにいかない状況こそいわば医業におけるアートの部分ではないかと思う。その部分のほんの一部でも何か形で伝えることができないものかと考えていた。しかし私の思いとは逆方向に,時代はどんどんマニュアル重視に傾いている。誰でも型どおりに行えば安全に確実に実践できると謳う本が医学界でも売れるようになり,わが国が誇る医業のアートは失われていったように少なくとも著者には感じられた。
医業にはサイエンス,アートどちらもなくしては完成しえないのだ。Medicine is a science of uncertainty and art of probability.というSir William Osler(1849-1919)の言葉にもあるようにサイエンス一辺倒では成しえない領域を忘れずに誰かが伝えないといけない。もちろん私のような未熟な者が文字でそれを伝えるのは無理なのは分かっている。おこがましいにも程がある。
そんなことを考えていた折,ぜひ,無痛分娩に関する本をと出版社から依頼があった。しかし長い間,お断りしていた。未熟である以上に,文字で伝えることがもっとも苦手だからである。仮に執筆するとしても定年退職間際が自分のライフワークの総まとめの意味でも相応しかろうと思っていた。しかし,2016年春に思いもよらず体調を崩したことをきっかけに,自分が自慢に思っているアートな産科麻酔を視覚的にこれ以上伝えることができないかもしれないという気持ちに襲われた。それゆえ退職前にこのような本を出版することにしたが,本の完成が近づくにつれ体調は戻り,以前のようにランニングやテニスを楽しめるようになってきた。
本書の目的は無痛分娩のアートな部分を伝えることである。したがって本書は,読んで分かるマニュアル本ではない。そして重要なことは,まだ未完成であるということである。十分覚悟して読んでいただきたい。そんな不完全な本とはいえ多くの人の協力がなくては上梓できなかった。産科麻酔の現場の3人の同僚,加藤里絵先生,細川幸希先生,藤田那恵先生は日々の臨床に忙しいなか力を貸してくれた。克誠堂出版の手塚雅子さんには快く粗雑な原稿を受け取っていただいた。スタッフの方はさぞ校正に苦労されたことと思う。そしていつも黙って見守ってくれている妻,明子と医療を志す二人の息子達にも感謝を捧げたい。
2017年10月
奥富 俊之
目次
第1章 無痛分娩の方法は筋肉注射や吸入麻酔/静脈麻酔でなく,なぜ,硬膜外鎮痛を第一とするのか
第2章 無痛分娩をする前に
1 無痛分娩をどのような妊婦に行うのか
2 無痛分娩前に必要な診察と検査
3 インフォームド・コンセント(説明と同意)
コラム1 脊麻禁!
第3章 硬膜外鎮痛の具体的な基本計画
1 硬膜外鎮痛単独法か脊髄くも膜下硬膜外併用鎮痛法か
2 硬膜外鎮痛法の維持法について
3 硬膜外鎮痛法の維持薬について
4 脊髄くも膜下鎮痛薬および硬膜外鎮痛薬の具体例
コラム2 意図的硬膜穿刺後硬膜外鎮痛(DPE)という特殊な鎮痛法
第4章 無痛分娩の開始時期について
コラム3 鎮痛前に元気づけ!
第5章 無痛分娩の器材準備について
1 無痛分娩を行う環境
2 静脈路確保と輸液
3 薬物
4 救急用品(薬物を含む)
5 吸入麻酔薬用/気化器を備えた麻酔器
コラム4 安全な無痛分娩準備とは
第6章 無痛分娩開始の針穿刺/硬膜外カテーテル挿入について
1 体位について
2 硬膜外針穿刺の前の器材確認
3 硬膜外針穿刺の前の局所麻酔
4 針の刺入および硬膜外カテーテルの挿入方法
コラム5 原則はまず基本として,応用を忘れない体位取り
コラム6 硬膜外鎮痛のための穿刺部位はどう決定するか
コラム7 穿刺部決定のための「ヤコビー線」について
コラム8 脳脊髄液と局麻薬の鑑別
コラム9 用いる生食はどこまで許容されるか?
コラム10 硬膜外カテーテルの挿入の極意
コラム11 硬膜外腔が分かったところは5合目?
コラム12 日本人妊婦の坐位における皮膚から硬膜外腔,さらに脊髄くも膜下腔までの距離について
コラム13 血管穿刺した後の硬膜外鎮痛は効きにくい?
第7章 無痛分娩後の管理について:副作用の軽減に向けて
1 循環動態管理
2 呼吸管理
3 代謝管理(水分管理/排尿/体温管理)
4 疼痛管理
第8章 無痛分娩開始後の疼痛増強について
1 鎮痛範囲が胸髄10(T10)の皮膚のデルマトール領域より狭くなる場合
2 必要な鎮痛範囲〔胸髄10(T10)の皮膚のデルマトール領域以下の鎮痛〕がすでに得られている場合
3 鎮痛範囲が狭くなるひとつの因子としての持続注入
4 分娩後半に必要な鎮痛範囲が得られているのに疼痛を訴える場合の要因
コラム14 局所麻酔薬0.08%の意味
コラム15 アドレナリン添加の意味
コラム16 硬膜外腔はゴミ箱ではない!
第9章 母体合併症
1 局所麻酔薬の意図しない血管内注入
2 局所麻酔薬の意図しない脊髄くも膜下注入
3 硬膜穿刺後の対応
4 硬膜穿刺後頭痛
5 無痛分娩による神経障害
第10章 分娩への影響
1 分娩時間への影響
2 分娩様式(帝王切開術率,器械分娩率)への影響
3 母乳哺育への影響
4 回旋異常
第11章 胎児/新生児合併症
1 直接的影響(薬物の胎児移行)
2 間接的影響
第12章 無痛分娩妊婦の産科医/助産師対応について
1 産科医
2 助産師
第13章 合併症妊娠における無痛分娩
1 妊娠高血圧症候群(HDP)
2 心疾患合併妊婦
3 脊椎疾患合併妊婦
第14章 全身投与鎮痛薬による無痛分娩:レミフェンタニルを主体としたオピオイドを用いた自己調節鎮痛
1 自己調節鎮痛の具体的な実施方法
2 推奨される環境
第15章 持続脊髄くも膜下鎮痛法
1 適応/利点/欠点
2 使用薬物とその使用法
3 著者が用いている持続脊髄くも膜下鎮痛用カテーテル
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書籍情報
- ISBN:9784771904927
- ページ数:140頁
- 書籍発行日:2017年11月
- 電子版発売日:2019年1月1日
- 判:A5判
- 種別:eBook版 → 詳細はこちら
- 同時利用可能端末数:3
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