創刊の辞

IoMT学会の紀要としてこの『Journal of Internet of Medical Things (IoMT)』が刊行されることとなりました．一般社団法人IoMT学会はIoMTの普及，浸透を目的に活動しておりますが，この度さらなる充実を図るべく，広く一般社会への情報提供を目的として，『Journal of IoMT』を発行することといたしました．

昨今の医療は，医療の高度化，専門による細分化，iPS 細胞による再生医療，遺伝子診断，さらにはロボット手術やA（I artificial intelligence），IoMTの導入など凄まじい勢いで進歩しています．しかし，一方で高齢化社会，医療費の増大，新臨床研修医制度や専門医制度，地方での深刻な医師不足，医師の働き方改革，医師のバーンアウト，医療起訴など新しい問題が顕在化しています．

これらの新しい進歩への対応と問題の解決にはこれまでの医学部教育から学ぶことだけではなく，テクノロジー全般のみならず，データマネジメントや経営マネジメントなどの学習が必要になってきます．

そこで，『Journal of IoMT』は医療におけるIoT(IoMT)，AI，ロボティクスやそこから収集されるビッグデータならびに新しいテクノロジーへの挑戦をキーワードとして新しい情報発信を行います．特に，IoMT のマーケットは2021 年までに136.8 億ドルに拡大するといわれ，現在でも，370 万個のIoMT 機器が診療の方針の決定に関与しているといわれています．特に高齢化社会により慢性疾患は増加傾向にありますが，ウェアラブル機器によるモニタリングはこれまでの診療を抜本的に改革し，医療費の削減と診療アウトカムの増加をもたらす可能性があります．

また，2017 年8 月からスタートしました「医師の働き方改革に関する検討会」でも医師の業務の効率化にタスクシフティング，タスクシェアリングが挙げられ，その具体的な方法としてICT の利活用が述べられています．本邦においても，Wi-Fi の標準整備や病院におけるセキュリティー問題など行政レベルで整備することができれば，よりIoMT は発展するでしょう．

本誌がこれまでのジャーナルと異にする点として，アカデミアだけでなく，産官学の連携を意識した内容を盛り込むようにしました．IoMT の発展のためには長期的・戦略的な視点が必要であり，アカデミアのもつアイデアや技術を産業へ転換していくためには企業のもつノウハウが必要です．IoMT 学会はIoMT の発展へ向けたプラットフォームとして産官学連携を進め，アイデアや技術を，商品・サービスに転換させて，ヘルスケアにイノベーションを起こし，医療の成長につなげることを目標とします．

『Journal of IoMT』の第1 号では，「IoMT の可能性と未来」として，" 遠隔診療，ResearchKit® を使った臨床研究，デジタルメディスン，AI" に関する可能性と未来について，専門家やその領域のトップランナーに寄稿していただきました．どれも今をときめく内容であり，まさに最新の医療テクノロジーの現在と未来を学ぶ上でこの上ない内容と自負しております．

今後ともIoMT 学会の紀要として存在意義が世に認めれるべく，一層発展に向けて邁進して参ります．

どうぞ温かいご支援を賜りたくお願い申し上げます．

2018年4月

IoMT学会代表理事

猪俣 武範