序説

「全身性疾患をテーマに特集を」というお話をいただいた時，本当にどうしたら良いのかわからなかった．全身性疾患と銘打つ特集はこれまで様々な雑誌で取り上げられ，多くが頭部・胸部・腹部・骨軟部といった具合に，臓器別に項立てされてきた．ただ，臓器別にした場合，疾患名と多彩な画像所見を羅列するにとどまり，内容が薄くなるという欠点があるのでは，と感じていた．比較的稀な疾患の画像を収集するのに時間を取られ，内容の充実に労力を割けない可能性もある．こうして，読み物としての面白さは半減していくことになる．今回の限られた誌面では，なおさらこの弱点が際立つ可能性がある．このような状況で，全身性疾患というテーマで読者の興味を引く内容にするにはどうしたら良いか，非常に悩んだ．そして時間をかけず，私の力ではどうにもならないことを悟り，他の優秀な方々の力をお借りすることに思い至った．

わが国の画像診断医の特徴は，世界に冠たる全身の読影が可能なエキスパートが多数いることだ．こうした方々は，レクチャーやカンファレンス，画像診断クイズで名を轟かせていることが多く，多くの人々が知るところであろう．画像診断クイズに対する情熱が高いのは，わが国の特徴である．私も以前熱中したことがある．時に"クイズ王"と揶揄されることもあるが，日常臨床で数多くの症例を経験し，文献やカンファレンスなどからの絶え間ない知識とセンスの研鑽を行わない限り，決して高い正解率は保てない．このような方々が特にその能力を発揮するのが，全身性疾患だ．そして彼らは，画像診断についていろいろな念いを持ち，教育者としても優れている．

そこで本特集では，わが国を代表するエキスパートの方々に，彼らが注目している話題，実際の読影法，さらにはその哲学を含めて自由に語っていただく場を提供できないかと考えた．本特集で読者は，新たな知識を得るにとどまらず，単なる総説では得られないエキスパートの千思万考をトレースすることができるのでは，と期待した．私がしたことは，最低限内容が被らないように疾患群の指定をしただけである．人選は，私が出会った素晴らしい先生方を思い出すだけだったので，難しくはなかった．私よりも若手...といっても私としては同世代と思っている（思いたい），木口先生，服部先生，黒川先生，横山先生，山本先生，井上先生，ベテランで私自身もたくさんのことを学ばせていただいた佐藤先生，小山先生に依頼させていただいた．お忙しいことは重々承知しているつもりだが，それでも快く引き受けてくださった．また，近畿大学の松木充先生には多大な助力をいただいた．方々に，この場で心からの感謝を述べたい．

さて，企画の結果は，ご覧の通りである．各人の個性溢れる，口調は違えども，画像診断に対する情熱に満ちた特集となった．編者という立場上，一字一句すべての文章を読ませていただいたが，小説をあまり読まなくなって久しいものの，これほど読み物として面白いものに久しぶりに出会えた．ともすれば退屈になるかもしれない日常臨床の中，はっと目を覚まさせてくれるものがここにはある．"Radiology is fun!"ということを改めて感じさせてくれるものがここにはある．この喜びを，読者の皆様と共有できることを幸せに思う．

横田 元