はじめに

「救急」って聞くだけで尻込みしている人，「救急」とはほとんど縁がないのにたまに遭遇してしまう悪運の強い人，「救急」で重症疾患を見逃して痛い目に遭った人，「救急」の荒ぶる戦慄の中でむしろ血液がたぎってアドレナリンが出てしまう（変な）人，「救急」の深さ・面白さを若手に教育する立場の人，「救急」の本なのにパラパラ漫画がついていてつい手に取ってしまった人，そんなあなたに朗報です．

あなたに出会えるのを本書は待っておりました．

救急患者はみんながみんな救急車に乗ってくるわけではない．なんと歩いてくる患者さんの0.2 ～ 0.7％はすごい重症だというから，日常診療をしていれば一年のうち数回はお目にかかるものなのだ．そればかりか入院患者の急変，外来待合室での急変，見舞い人の急変，町内会の集まりでの急変など，さまざまな場面で医療者は救急に遭遇せざるを得ない．そんな「いざ」というときに備えてこそ，医療者の面目躍如っていうもの．

救急トリアージというとなんとなく難しそうに聞こえるが，狙いを絞って「緊急」に相当する疾患の看護診断学に精通すればどれも恐いものではない．楽勝だぁ，ハッハァ～♪　たとえ一見元気そうに見えても，本当に見逃してはいけない疾患さえ押さえておけば救急なんて怖くないのだ．そう，「疑う者は救われる」．よくある疾患（コモンディジーズ）と危険な疾患（ワーストケースシナリオ）とを常にリストアップできるように，頭を整理するために本書をぜひ活用していただきたい．

急性疾患は刻一刻と経時的に変化するのが当たり前で，最初のトリアージが最終的に間違っても，へこたれる必要はない．トリアージもダイナミックに繰り返して行えばいいだけだ．最終診断と比較してトリアージの精度を問うのは後出しじゃんけんに他ならない．最も大事なのは，重症疾患を取りこぼさないこと（オーバートリアージはOK）．「人生最大の突然の頭痛」といえばクモ膜下出血を疑うが，それでもCT に引っかかる本物のクモ膜下出血は約1 割だ．このトリアージで9 割の人が結果的に大丈夫であっても，残りの1 割の本物のクモ膜下出血を見逃さなければそれでいいのだ．さぁ，『名探偵コナン』よろしく，患者さんのキーワードをうまく拾って多くの命を助けよう．

救急は一期一会の場所．あなたのきらめきがまさしく病院の顔になる．病める患者さんの心を救うのも救急の醍醐味だ．知識や技術に偏重せず，心を救うバリバリナースになろう．すべての救急患者さんに「Love ＆ Respect」を．

本書を熟読した暁には「バリバリナース」になれること間違いなし！

なお，本書の副作用として，

●夜勤がひそかに楽しみになって，つい「今日ヒマね」と言って同僚から叱責を受けてしまう

●しっかり勉強した内容の救急患者さんが1 週間以内の夜勤で偶然受診してしまう「引き」の強さ

●救急車の音を聞くとワクワクしてしまう

などがありますが，筆者は一切の責任を負いかねます．あしからず！

2014年 10月吉日

林　寛之