- m3.com 電子書籍
- 脳血管内治療兵法書
商品情報
内容
本書は、症例集や基本的な手技を綴ったテキストではなく、それよりももっとpracticalな理論を伝える参考書となり、「体の章」「技の章」「心の章」と3つの章からの構成で、イラストなどを通して治療理論を説いた一冊。
一つ一つの項目で、筆者の体験を小説を読むように場面を想像しながら、本書でイメージトレーニングができます。
序文
兵法とは何と大げさで物騒な,と思われるかもしれない.しかし英訳のtactics やstrategy は要するに「戦略」である.「戦う」われわれの相手とは何か? 無論疾患である.それにどのような方策で立ち向かい勝利を得るかは,兵や武器ではなくデバイスを用いる違いだけで,考え方は等しいと思われる.その根本は,孫子に書かれているような大局的な治療デザインや戦略の哲学と,宮本武蔵の『五輪書』に述べられているような実際のデバイスの理解や使用方法および心構えなどについての両方の知識が必要と思われる.
さて,脳血管内治療について考えてみると,かつて「脳血管内手術」とよばれたように,これはカテーテルを用いた外科治療の一つである.しかし,通常の直視下の外科手術と大きく異なる点は,手指の動きである.観血的手術は,触れる,押さえる,引っ張る,切る,裂く,結ぶなどの三次元的な動きなのに対し,血管内手術は基本的には押し引きとねじるだけのほとんど単純な操作である.単純がゆえに,他の人がやっているのをみるとすぐできそうな気がして,やってみるとうまくいかないことは多々ある. それはなぜだろうか?
かつて細いカテーテルも適切なデバイスも塞栓物質もない時代に,とりあえずあるものでやっていた手技は,技術というよりはきわめて職人的な勘による幸運を期待する場面が多かった.現在使用する機器は,ありとあらゆる形状やサイズや材質がラインアップされている.これは同じ絵を描くときに,大筆と三原色しかないという条件と,筆の太さや毛の質まで選べ,色は何万色もあり,塗料の種類までいろいろあるという条件では,おのずと細やかな色使いや細部の輪郭まで異なるのと似ている.しかしながら,逆に後者ではどれを選んで,何を組み合わせれば一番速くうまく描けるのか迷ってしまうのではないだろうか?
昨今,血管内治療に携わる人が増えてくるにつれて,基本手技やコツ,トラブルシューティングなどについてのテキストやハウツーものも多く世に出てきた.これらは主として特異的な症例や困難な症例について,「こんな工夫で切り抜けた」また「こういうことをするとはまる」といった特異的な教訓として役に立っている.しかしながら,全く同じ症例は一例もないのであるから,似たような困難症例に直面したときに,「あそこで読んだ技が役に立つかもしれない」ということはありうるが,詰め将棋と同じで根本的なところが誤っていると,その後どうやっても挽回できない.血管内治療の成功は,7 割がstrategy,2 割が技術,1 割が運(ツキ)である.strategy の立て方はそれぞれpioneer の先生をはじめとする先達から脈々と伝えられてきた流儀に依存する.それはもちろん理にかなっていることが多いが,本当にこれでいいのかということを実際は他の方法を知らないから,または先輩から否定されるから,よいと信じてやっているしかないというケースもあるのではないだろうか?
これらを考えるに,自慢話的な症例集や基本的な手技を綴ったテキストより,もっとpractical な理論を伝えるような参考書が必要ではないかと考えた.また,実際の手技は「百聞は一見にしかず」であるが,上手な術者の何気ない手技をみて,「なるほど」とそのコツが会得できた人はかなりの達人である.名古屋大学名誉教授の故杉田虔一郎先生は,「人の手術ビデオをみてこれくらい自分でもやれると思ったら,ビデオの術者のほうが数段うまいと思え」と生前おっしゃった.症例から学ぶことはきわめて大切であるが,一つ一つの細かい配慮や手技の工夫から失敗しない治療を身につけることが,我流とならないスタンダードな脳血管内治療医への王道と思われる.
したがって,本書では一例一例の症例をもとにした解説をせず,むしろイラストなどを通して治療理論を説くこととした.すなわち,ノンフィクションの「本」であって,「写真集」でも「公認教科書」でもない.かつて孫子などの表した兵法書には,「あのときの戦いではこのように布陣をしたら勝利した」などと図をつけて説明していない.一つ一つの項目で,小説を読むように場面を想像しながら,イメージトレーニングをしていただきたい.これこそ本書を「兵法書」とした背景である.
また,手術や手技には必ず道理があり,理由のつかない行為は自己満足的で無駄である.本書ではなぜそうするのかという屁理屈(言い訳?)も併せて理解いただけるように配慮した.しかしながら,これは主として名古屋大学および大阪医科大学で筆者が信じて実践してきたことを記したものであり,かなり独断的な内容である.また,学会などで聞いて,「これはいい」と思って自分なりにかみ砕いて取り入れた裏技的な内容もある.これについてのオリジナリティーについては問題があるだろうが,それぞれについて引用,参考文献はあえてつけていない.発案者や発明者の意図と異なる我流の解釈かもしれないからである.また,中には商品名がいくつも出てくるが,これは,特定メーカーのその製品の特性があるsituation では唯一の「はまり役」となることがあるからであり,筆者のある意味固執したポリシーに基づく.メーカーやユーザーからは自社または他社製品でもっとよいものがあるといわれるかもしれないが,お試しいただいても損はないという情報のみ紹介させていただいた.
以上のように,この本の内容はかなりマニアックなところがあり,必ずしも真実または最良の方法とは限らず,むしろ自分のやり方のほうがよいという部分も多々あろうと思われる.公に認められていない名称,考え方,技術も出てくるので,専門医受験者には余計混乱させるかもしれない.また,筆者の使用経験のない範疇で,今後デバイスや技術の改良,もしくは新規適用開拓やリバイバルなどにより,推奨していることが無意味になったり,不要になったりすることもあると思われる.さらにいえば,偉そうに哲学的な,または教育者的な視点からのアドバイスもしたためた.熟年の戯言として一読いただければ結構である.書かれたとおりに実践していただくというよりは,あくまでも個人的な見解とご了解いただき,むしろ批判的に読んで実臨床に応用していただければ幸いである.
2015年 3月
大阪医科大学 脳神経外科・脳血管内治療科宮地 茂
目次
【体之章】
<A> 装置と環境
◆血管撮影装置
◆操作台
◆器材の管理
◆器材の収納
◆シリンジ,ヘパリン生食,造影剤の管理
<B> セットアップと基本手技
◆脳血管撮影法
◆血管内治療器材のセットアップ
◆カテーテリゼーション
・経大腿セルジンガー法
・経腕セルジンガー法
・経橈骨動脈アプローチ
・頚動脈直接穿刺法
◆撮影
・撮影のポリシー
・撮影の準備
・撮影の方法
・造影剤の量
・造影する順序
・カテーテリゼーションに伴うトラブル
◆止血
◆脊髄血管撮影
・セットアップ
・カテーテリゼーションと撮影法
◆小児脳血管撮影
<C> 術者と助手
◆ガイディングカテーテルの誘導
◆カテーテル交換
◆マイクロカテーテルの誘導
◆動脈瘤の塞栓
◆バルーンカテーテルの操作
◆ステント留置
◆液体塞栓物質による塞栓
◆固体塞栓物質による塞栓
◆その他
◆精神的セットアップとサポート
<D> インフォームドコンセント
<E> 合併症発生時の対応
【技之章】
<A> 動脈瘤
◆はじめに
◆セットアップ
・前処置
・ガイディング
・ワーキングアングル
・マイクロカテーテルとマイクロガイドワイヤーの選択
・ガイドワイヤーのshaping
・カテーテル先端のreshaping
・各論
◆誘導
◆strategy
・framing
・filling
・finishing
◆各論
・瘤形別
・大きさ別
・部位別
・再発瘤
・破裂か未破裂か
◆アシストテクニック
・バルーンアシスト
・ステントアシスト
・ダブルカテーテル法
◆flow diverter(FD)
・総論
・strategy
◆トラッピング
・総論
・各論
◆その他の瘤内塞栓法
・液体塞栓物質の注入
・flow disrupter による瘤内塞栓
◆トラブルシューティング
・瘤の穿孔
・虚血性合併症
・コイルのstretching
・コイルのmigration
・コイルの離脱不能
◆抗血小板,抗凝固療法
・抗血小板療法
・抗凝固療法
<B> 動静脈奇形
◆はじめに
◆脳動静脈奇形
・総論
・各論
◆脊髄動静脈奇形
◆乳児の動静脈奇形
◆トラブルシューティング
<C> 硬膜動静脈瘻
◆病態
◆総論
・経静脈的塞栓術
・経動脈的塞栓術
◆各論
・海綿静脈洞部硬膜動静脈瘻(CS-DAVF)
・横静脈洞,S 状静脈洞部硬膜動静脈瘻(TS-SS DAVF)
・anterior condylar confluence 部硬膜動静脈瘻(ACC-DAVF)
・上矢状静脈洞部硬膜動静脈瘻(SSS-DAVF)
・テント部硬膜動静脈瘻(tentorial DAVF)
・前頭蓋底部硬膜動静脈瘻(ethmoidal DAVF)
・頭蓋頚椎移行部硬膜動静脈瘻〔cranio-cervical junction( CCJ)DAVF〕
・穹隆部のDAVF
・脊髄硬膜動静脈瘻(spinal DAVF)
・脊髄硬膜外動静脈瘻(spinal epidural AVF: SEDAVF)
◆合併症とトラブルシューティング
・TVE に関するもの
・TAE に関するもの
・その他
・遺残したDAVF の後治療
<D> 外傷性血管障害
◆はじめに
◆動静脈瘻
・外傷性頚動脈海綿静脈洞瘻(traumatic carotid-cavernous fistula:TCCF)
・外傷性椎骨動静脈瘻(traumatic vertebral-vertebral fistula:TVVF)
・浅側頭動静脈シャント(STA-STV shunt)
・中硬膜動静脈シャント(MMA-MMV shunt)
・鎖骨下動静脈瘻
◆外傷性解離
・解離瘤
・解離性閉塞(狭窄)
◆外傷性出血
<E> 脳腫瘍
◆はじめに
◆脳腫瘍塞栓術
・アプローチとstrategy
・各論
◆悪性脳腫瘍に対する抗がん剤動注療法
<F> 頚動脈狭窄
◆頚部内頚動脈狭窄
・適応
・アプローチ
・strategy
・トラブルシューティング
・術後管理
◆左総頚動脈狭窄
・アプローチ
・strategy
◆左鎖骨下動脈狭窄(閉塞)
・アプローチとstrategy
◆右鎖骨下動脈狭窄(閉塞)
◆椎骨動脈起始部狭窄
・アプローチ
・strategy
<G> 頭蓋内動脈狭窄
◆はじめに
◆動脈硬化性狭窄
・適応
・アプローチ
・strategy
・術後管理
・トラブルシューティング
◆解離
◆血管攣縮(vasospasm)
<H> 脳塞栓症
◆はじめに
◆治療法の変遷
◆治療の実際
・適応
・アプローチ
・strategy
・トラブルシューティング
・術後管理
<I> tandem lesion の考え方
◆総論
◆各論
・頚部頚動脈狭窄+脳動脈瘤
・頚部頚動脈狭窄+頭蓋内狭窄
・頚部頚動脈狭窄(閉塞)+遠位塞栓
・動脈瘤+動脈瘤
・動脈瘤+ AVM
・動脈瘤(破裂)+血管攣縮
・頚動脈部のtandem lesion
<J> function test
◆balloon occlusion test( BOT)
◆Wada test
・strategy
◆誘発試験(provocation test)
◆venous sampling
【心之章】
<A> デリカシー
<B> バランス
<C> トレーニング
◆技術の習得について
◆戦略法の習得について
◆チームとしてのトレーニングシステム
<D> チャレンジ
◆日本の脳血管内治療の歴史
・society として
・専門医制度
・機関誌とテキスト
・脳血管造影
・治療法の変遷
・デバイス認可
・需要の拡大
◆わが国からの発信
・巻末資料/デバイスと取り扱い企業一覧
・巻末資料/脳血管内治療説明書
・side memo 一覧
・本書における略語一覧
・巻末言
・索引
・著者紹介
便利機能
- 対応
- 一部対応
- 未対応
-
全文・
串刺検索 -
目次・
索引リンク - PCブラウザ閲覧
- メモ・付箋
-
PubMed
リンク - 動画再生
- 音声再生
- 今日の治療薬リンク
- イヤーノートリンク
-
南山堂医学
大辞典
リンク
- 対応
- 一部対応
- 未対応
対応機種
-
iOS 最新バージョンのOSをご利用ください
外部メモリ:213.2MB以上(インストール時:463.6MB以上)
ダウンロード時に必要なメモリ:852.8MB以上
-
AndroidOS 最新バージョンのOSをご利用ください
外部メモリ:301.8MB以上(インストール時:754.6MB以上)
ダウンロード時に必要なメモリ:1.2GB以上
- コンテンツのインストールにあたり、無線LANへの接続環境が必要です(3G回線によるインストールも可能ですが、データ量の多い通信のため、通信料が高額となりますので、無線LANを推奨しております)。
- コンテンツの使用にあたり、m3.com電子書籍アプリが必要です。 導入方法の詳細はこちら
- Appleロゴは、Apple Inc.の商標です。
- Androidロゴは Google LLC の商標です。
書籍情報
- ISBN:9784840453646
- ページ数:420頁
- 書籍発行日:2015年4月
- 電子版発売日:2015年12月18日
- 判:B5判
- 種別:eBook版 → 詳細はこちら
- 同時利用可能端末数:3
お客様の声
まだ投稿されていません
特記事項
※今日リンク、YNリンク、南山リンクについて、AndroidOSは今後一部製品から順次対応予定です。製品毎の対応/非対応は上の「便利機能」のアイコンをご確認下さいませ。
※ご入金確認後、メールにてご案内するダウンロード方法によりダウンロードしていただくとご使用いただけます。
※コンテンツの使用にあたり、m3.com 電子書籍(iOS/iPhoneOS/AndroidOS)が必要です。
※書籍の体裁そのままで表示しますため、ディスプレイサイズが7インチ以上の端末でのご使用を推奨します。