はじめに

私は15年の手術室看護師のキャリアで忘れられない言葉が二つあります。それがこの本を書く理由，いやこの本を作る大きな励ましになったんだと思います。

看護学校を卒業し，1年目の手術室看護師として働いていたある日，プリセプターの先輩の一言が，とても印象的で，嬉しい言葉でした。

午前中いっぱい使っても，器械を並べきれずにモタモタしていた私。でも，先輩はそんな私のことをイライラすることなく見守ってくれました。「休憩時間も削ってしまい，本当に申し訳ありませんでした」と謝る私に対して，先輩が一言。「次，あなたが教える立場になったとき，その子に同じようにしてあげてね」と。

その病院で7年間勤めた後，縁あって別の病院に行くことになりましたが，私が最初に就職した手術室は，そうやって先輩から後輩へと，手術の技術的知識だけでなく，人としての優しさを教えてくれる場でもありました。

次の病院は，手術件数も多い病院。慌ただしい日々を送る中，プリセプターとして後輩ナースの指導を担当しました。ある日，ロッカーのある部屋の隅っこで新人ナースが泣いていました。声をかけてみると，今日は慣れていない手術ということもあって，器械出しの段取りが悪く，執刀医に散々怒られたというのです。まぁよくあることでもあり，「あんなに怒らなくても！ 先生ヒドい」とか，「手術室をやめたいです」とでも言うのかな～と思っていたら，彼女から出てきた言葉は「もっと器械出しがうまくなりたいです」だったのです。

手術室での勤務は，センスのあるなし，性格上の向き不向きがあるといわれます。実際にそういう部分は少なからずあると思います。私自身，向いていないという理由で，手術室を辞めていく看護師を何人もみてきました。

......でも，泣きながら手術の介助がうまくなりたいと言った彼女をみて，私は，自分に何ができるか，どうやったらうまく教えられるのかを真剣に考えました。彼女に必要なモノは何か，どうしたら彼女が楽しくこの仕事を続けていけるのかを。

この本は，私の思いが詰まった本です。保育園の頃から好きだった絵を描くことで，少しでも分かりやすく伝えられるようにと努力しました。いまより少しでもうまくなりたい！ という手術室看護師の方の助けになればと願っています。ただ,手術室での実際の手順や器械の名称（呼び方）などは，各施設・地域によっても違うと思います。そういう部分は，自分の病院だったらどうなのか，という視点で読んでもらえれば嬉しいです。

最後に，今回監修を引き受けてくださった東京女子医科大学看護学部の山口紀子先生にお礼を申し上げます。豊富な現場経験と体系的な知識をもつ先生のおかげで，この本を作り上げることができました。本当にありがとうございました！

はら カトリーナ いそこ