褥創治療の常識非常識

  • ページ数 : 350頁
  • 書籍発行日 : 2005年8月
  • 電子版発売日 : 2011年5月20日
3,080
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内容

ラップ療法の元祖 Dr.鳥谷部が奥義を伝授した「褥創治療の常識非常識 ラップ療法から開放性ウエットドレッシングまで」が電子書籍になりました。

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序文

序にかえて
褥創予防治療対策の光と影

◆褥創対策は空前のブーム

 日本は未曽有の高齢社会を迎え,脳血管障害後遺症などに伴う長期臥床患者(いわゆる寝たきり老人)が急増しており,また,がん終末期患者,事故・災害による脊髄損傷患者のように身体機能が障害されている患者さんも増加しております。このような患者さんに発症する褥創は難治で長期間の治療を余儀なくされることが多く,社会問題化しております。

 そうした中,1999年秋に第1回日本褥瘡学会学術集会が開催され,回を重ねるごとにその規模は拡大しています。第6回学術集会(2004年)では400以上の一般演題が発表され,数多くの教育講演,シンポジウムが行われるに至りました。そして2005年には,学会主導による「ガイドライン」が発表される予定です。数多くのドレッシング材と外用薬,治療機材,介護器材(ベッド,除圧器具など)が市場に出回るようになり,その市場規模は,ドレッシングと外用薬だけで年間数百億円になろうと推定されております。褥創関連の教科書も医学看護書籍コーナーに平積みされ,数百人規模の研修会も全国各地で毎月のように開催されています。このように各界の関心が集中している褥創の予防・治療・研究は,量的拡大を遂げていますが,質的にはいかがなものでしょうか。第一線の医療・介護の現場からみると,決して満足する現状とはいえません。現場からは,悲鳴にも似た声が聞こえてきます。

●褥創対策チームはつくった。勉強会にも行った。学会にも参加した。学会で推奨されているドレッシングも使った。体位変換も2時間おきにやった!...でも治らない...。

●教科書に書かれているように,研修会で言われたとおりにやっているはずなのに,どうしても治らない。自分たちのやり方が間違っているのだろうか。

●少し良くなったと思うと,翌日また悪くなって,治療の方向が見えない。

●教科書の内容が矛盾している。消毒をしてはいけないと書いてあったり,別な教科書では消毒しなさいと書かれていて迷ってしまう。

●処置が煩雑で時間がかかるし,血液や膿があちこちにくっついてしまう。

●褥創の臭いを気にしている患者さんも多いので,これは何とかならないだろうか。

●ドレッシングを貼ってもすぐはがれたり,ドレッシングを貼ったところがただれたりしてしまうので,困っている。

●デブリドマン処置のとき,麻痺で声が出ない患者さんの顔が苦痛でゆがんでいる。もっと痛みのない方法はないのだろうか,本当にこれが最良の方法なのですかと,医師に問いかけたくなる。

●ポケットを切開している治療例の写真を見ると,直径わずか 3cm の褥創が切開後に10cmにもなっているのに,「良くなった」と書かれている。本当にそうなの?と疑問に思う。

●「創の状態によって治療法を変えなさい」といわれるけれど,肝心の創の見方が理解できない。理解できない自分が悪いのか,教科書が悪いのか。

●メーカー主催の研修会ではその会社の製品ばかり勧める。成功例ばかり選んで見せているのではないかと不審に思う。

●大きな褥創がいくつもある患者に,1 枚何千円もするドレッシングを何枚も使う。支払基金に査定されると月額何十万円もの損失になるので怖くて使えない。健康保険の支払い制限で2~3週間しか使えず,その後は軟膏・ガーゼ処置に結局逆戻りしてしまう。なんのためのドレッシングなのかわからない。

●療養病棟・在宅医療は定額医療なので,高価なドレッシングは使えない。

●2時間おきの体位変換などは日本の看護師配置基準では不可能だと思う。在宅で家族に夜中も体位変換しなさいなどと,とても言えない。

●褥創の手術をした後の感染で,1 週間で亡くなった方がいる。外科手術は患者さんのために本当に行うべきだったのかと,思い悩むことがある。

●外科手術後に傷が開いて再手術になった際,医師から「術後の看護が悪いから再手術になった」と言われた。再手術でも治らず,結局,保存的治療(ドレッシング・外用薬・ケア)で1年以上かかって治した。手術をした意味ってなんだろう。本当に手術の適応があったのだろうか。

●褥創の手術は,体力のある丈夫な人にしかできない。術後に 1,000万円もする高機能ベッドに寝かせて治療している。同じベッドに寝たら手術をしなくても治るのではないか。

●栄養が大事なのはわかるけど,無理して食べさせてみたら肺炎になって,かえって褥創が悪くなってしまった。

●嚥下性肺炎の方に胃ろうを造って流動食を入れたら,肺炎を再発してもとの点滴に逆戻りしてしまったことがある。

●末期がんの患者の栄養状態を改善しなさい,1 日 1,200kcal カロリーにしなさいっていうけれど,そんなに食べられる人は末期がんではないと思う。この矛盾に気づいているのかな。

●中心静脈栄養で高カロリー輸液をしたら,高血糖や代謝障害で全身状態が悪化して早く亡くなったような経験がある。なんでもかんでも高カロリーにすれば褥創治療によいというわけでもない気がする。

◆医療現場の切実な声に応えるラップ療法

 このように,高齢者医療の第一線に携わる医療者の間ではより実際的な治療指針が切望されています。「ラップ療法」は,そうした切実な期待に応えるものです。ラップ療法を知り,勇気をもって実践した医療者・家族の方々から毎日のように「喜びの声」が届けられています。

●何年も治らなかったポケットが,たった1週間でふさがった。

●どんどん創が良くなるので,褥創の処置が楽しくなった。

●創を見ると,治療・ケアの善し悪しが一目瞭然。いったい今まで何をやってきたのだろうか。

●眼から何枚もうろこがぽろぽろ落ちた思い。褥創の治療に自信が持てるようになった。

●予防もうまくできるようになり,褥創の発生が減った。

●褥創の治り方が予測できるようになった。

●今まで20分かかった処置がわずか 3 分で済むようになった。往診先のご家族と語り合う時間が増えた。

●看護師主導で治療ができる。

●褥創が簡単に治せるので,「褥創恐怖症」がなくなった。

●ラップ療法なら早く感染が治ってしまうので,今では褥創の感染は怖くなくなった。

●高価なドレッシングや薬を使わないので,在宅・療養病棟に最適で,とても助かっている。

●入院中の褥創のことで,家族の方に不信感をもたれることがなくなった。

●家族でも処置ができる。

●褥創が臭わなくなったので,自宅にお客さんを招くことができるようになったと喜ばれている。

●お風呂に入れられるので,清潔にしてあげられる。

●体位変換をしなくて済む。

●褥創を作ってしまった,悪くしてしまったと自分を責めていたのがうそのよう(あるご家族)。

 この喜びをより多くの方々と分かち合いたいと考え,2001年にラップ療法のサイトを開設し,筆者の経験を披露してきました(//www.pressure-ulcer.net/)。ここには,自験例のみならず,全国の方々による治療例が,数多く引用されています。この場をお借りして御礼申し上げます。

 おかげさまでラップ療法の認知度はかなり高いものとなってきておりますが,ラップ療法に関する疑問や批判も聞かれるようになってきました。そのため,ラップ療法をきちんと理解していただいたうえで,ラップ療法を正しく実践していただくために,このたび本書を執筆いたしました。

 本書の執筆にあたって,筆者はラップ療法の新しい名称を提唱いたします。それは開放性ウエットドレッシング療法という名称です。ラップ療法という呼称はそもそも食品用ラップを創に貼って治療することに由来していますが,食品用ラップというイメージのみが先行して,「台所用品を創に貼るなんて!」という感情的な意見が飛び交っています。もしそこで,「食品用ラップで治すなんて!」ではなく,「なぜ(食品用)ラップで治るのだろうか」という疑問をもっていただければ,そこから正しい褥創の治癒過程の理解へとつながっていくはずです。食品用ラップは素材的にいえば,フィルムドレッシングです。またラップを貼ると褥創はウエット(湿潤)環境になるのでウエットドレッシングにあたります。そしてラップは創を閉鎖しないので,閉鎖性ドレッシングではなく開放性ウエットドレッシングであるという理論が導き出されます。褥創治療に苦慮されているかたこそ,開放性ウエットドレッシングが,最適な創傷の治療であることを理解されることでしょう。「ラップでなぜ治るのか」を理解することによって,「なぜ今までの治療法では治らなかったのか」「なぜ今までのウエットドレッシングではだめなのか」「褥創はどのように治癒するのか」「褥創治療に最適な治療環境とは何か」が理解できます。

 また開放性ウエットドレッシング療法(ラップ療法)では「褥瘡註)」のかわりに「褥創」という用語の使用を提唱します。瘡は「カサブタのある治りにくい傷」の意ですが,ラップ療法で治療すると「カサブタのない治りやすい傷」になると考えているからです。本書でも創に統一しています。

 褥創治療に真摯に取り組まれている,あるいはこれから取り組もうとされている方に本書をお読みいただいて,褥創でお困りの患者さんが一人でも多く救われることを願っています。

 ラップ療法の交流の場でもある筆者のサイトを訪問していただき,本書に対するご意見や治療に関する疑問,ご感想などをお寄せいただけたら幸いです。


2005年 8月

鳥谷部 俊一

目次

序にかえて― 褥創予防治療対策の光と影

ラップ療法事始

開放性ウエットドレッシング宣言

第1章 創傷治療の基礎知識

1.消毒とガーゼの常識非常識

2.ウエットドレッシングとは― 乾燥環境から湿潤環境へ

第2章 ラップ療法の創傷治癒理論

1.発症機序から読み解く褥創の深達度分類(NPUAP)

2.褥創の治癒過程― ラップ療法ではこう治る

3.ラップ療法における創の評価と治療法の選択

4.ラップ療法の基本的な処置方法

5.医療用ラップ・医療用紙おむつの開発に成功!

6.進化しつづけるラップ療法

第3章 ラップ療法による治療例

1.感染のない症例からラップ療法をはじめてみよう

2.感染と壊死組織、ポケットをもつ症例こそラップ療法

3.在宅でもラップ療法

第4章 だれにでもできる褥創の予防とケア

1.さよなら神学論争、こんにちはラップ療法

2.褥創の予防とケア

3.栄養・口腔管理によるQOLの改善

4.高齢者終末期医療・ケアにおける褥創とラップ療法

付録 高齢者終末期医療・緩和医療について

第5章 ラップ療法のQ&A

おわりにかえて―開放性ウエットドレッシング療法のまとめ

特別寄稿―ラップ療法をもっと知るために

資料編

―褥創の予防・治療についての説明と同意書

―ラップ療法を実施することについて、および検査結果、記録などの学術発表についての同意書

―皮下注射による補液(点滴)に関する説明と同意書

―誤嚥性肺炎に関する説明と同意書

特別付録

―Food-wrap as wet dressing for pressure ulcers : Open Wet-dressing Therapy (OWT)

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書籍情報

  • ISBN:9784895902342
  • ページ数:350頁
  • 書籍発行日:2005年8月
  • 電子版発売日:2011年5月20日
  • 判:A5変型
  • 種別:eBook版 → 詳細はこちら
  • 同時利用可能端末数:3

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