まえがき

自立を助け、尊厳を守る介護を行うために......

我が国の65歳以上の人口は、2010年には23％を超え、2055年には40％に達すると推定されています。このように我が国は、かつて人類が経験したことのない超高齢社会を迎えることになります。社会の高齢化の世界におけるトップランナーとして、その対処策は我が国が見出していく必要があり、我が国が超高齢社会にどのように対処していくかを世界の国々は注目しています。

ご高齢の方の望みは、可能な限り健康寿命を保ち、自立した生活を送ることです。現在、我が国の高齢者の健康寿命の長さは世界一であり、お元気な高齢者が増えてきています。その意味で、今のところ、高齢社会にうまく対処できているといえるでしょう。しかし、残念ながら、現在でもまた将来も、ご高齢の方はある頻度で要介護の状態となります。要介護の状態になってもQOLを維持し、可能な限り自立した生活をというところに、ご高齢の方の強い希望があることには変わりありません。

ご高齢の方には、足腰が衰える、ものが飲み込みにくい、記憶力が衰える、尿を漏らしてしまうなど自立した生活を困難にし、自尊心を傷つけるようなことが多く起こります。このような状態に陥ったご高齢の方には、自立を助け、お一人おひとりの尊厳を守るケアが必要です。

ご高齢の方のケアにあたられるケアワーカーの方々に、ご高齢の方の体や心の特徴、ご高齢の方に多い病気の特徴、生活支援技術のあり方を知っていただくという意図で本書を編集しました。

生活支援技術のあり方は、ついつい個人の経験や、技に頼りがちな分野ですが、現在は多くの情報が入手できる時代となりました。そこで、可能な限り、科学的な根拠のある生活支援技術を集め、写真によりわかりやすく示すことを心がけていただきたいということを執筆にあたられた先生方にお願いし、本書が作成されました。

ハードルの高い編集者の要望に応えて、素晴らしい、またすぐに役に立つ原稿を書いていただいた執筆者の先生方に、改めて御礼を申し上げたいと思います。

本書は、ご高齢の方のケアにあたっておられるケアワーカーの方々の日々のケアの質を向上させ、また新たなチャレンジを生み出すことに有用な本であると確信しています。

本書の姉妹書であり、看護師を主な対象として作成された「写真でわかる高齢者ケア...高齢者の心と体を理解し、生活の営みを支える...／編著：東京都健康長寿医療センター看護部、2010年3月インターメディカ刊」とともに、ケアワーカーの方々の座右の書として長く活用されることを期待してやみません。

2011年1月

地方独立行政法人 東京都健康長寿医療センター

センター長　井藤 英喜