皮膚科診療は遠隔で行えるか

平成27年6月，内閣総理大臣の諮問機関である規制改革会議がとりまとめた，規制改革実施計画が公表された．「健康・医療」も重点分野の1つとして掲げられ，いくつかの措置項目が示されたが，その中に「遠隔モニタリングの推進」があり，患者側の利便性を勘案し，直接の対面診療と適切に組み合わせれば，遠隔診療を行うことが可能であるという考え方が示された．これを受けて，昨秋からインターネットを用いた遠隔診療を手掛ける事業者が増え，文字や写真のみによって得られる情報で診察を行い，対面を行わずに診療を完結させる事業者も現れたという．東京都は本年3月，こういった医療行為が「無診察治療を禁止した医師法第20条に違反すると解してよいか」と照会．これに厚労省は「貴見のとおり」と回答した．すなわち，対面を行わない遠隔診療は医師法違反であるという判断が明確に示されたのである．

　皮膚科の診療にとって視診が重要であることは間違いない．もちろん腫瘤や皮下結節では触診も必須だが，表在性の皮膚疾患であれば，1枚の臨床写真だけで，ほかに何の情報がなくてもある程度の診断は可能だし，治療方針を指示できる場合もある．ただし，それが可能なのは，病変の特徴を捉えた写真であればこそで，逆に言えば，熟練した皮膚科医は，疾患の特徴を捉えた臨床写真の撮り方を熟知しているのである．ダーモスコピーや病理組織の写真も同様で，疾患の特徴的所見を表現する写真を撮る知識や能力がなければ成り立たない．CTやMRIの読影を遠隔で行うことは一般的だが，提供される情報はあくまでも所見であり，診断名までは断定できないが，それは診療上重要な情報となり得る．しかし，皮膚科に置き換えてみれば，臨床写真の所見，すなわち，これは紅斑だ，丘疹だといった情報を提供しても，疾患の解決にはならないのである．

　横浜市が進めている在宅医療支援事業の一環として，小生が所属する医師会も在宅医療相談室を設置し，個人的には皮膚科担当の専門アドバイス医として協力している．ときおり，地域の在宅専門医や訪問看護師，ケアマネージャーから，在宅患者の皮膚病変の写真が電子メールで送られてくる．クオリティのよい写真であれば，おおむね診断の方向性はつくが，それが正しいかどうかは，やはり往診して確認することが通常である．今のところICTの活用は電子メールのみであるが，以前に比べれば格段に進歩した．今年6月の日本皮膚科学会総会の在宅医療のセッションで，鶴岡市の三原一郎先生と面談する機会があった．先生は昨年度まで山形県鶴岡地区医師会の会長を務められ，ICTを用いた地域連携パスや在宅患者の多職種連携を推し進め，数多くの功績を残された．多職種の関係者が在宅患者のカルテを共用するNet4Uは，運用が始まってから12年が経過しているという．Net4Uが成功を収めている理由は，利用する医師やコ・メディカルに，顔の見える関係が構築されているためであるとおっしゃっていた．

　経済活性化のための規制改革が，今後の医療制度にどのような影響を与えるのかは注視しなければならない．遠隔医療を全国的に展開する事業への取り組みも，今後は学会や医会の課題となろう．現時点では，皮膚科の遠隔医療は，地域医療を基盤として，顔の見える関係の中で発展していくべきだと考えているが，読者諸氏からもご意見をいただければ幸いである．

浅井　俊弥