医療相談にて

日常会話のなかで，こちらの意向が相手に十分に伝わらないか，誤って受け取られることを経験する．相手の理解度によっては納得してもらえないことがあり，言葉遣いの難しさを感ずることがある．

　毎年円形脱毛症の患者相談を行っている．その相談内容をみると，患者の思いと医師の説明との間にズレがあるのではないかと思われることがある．病気のこと，治療方針のこと，医師との関係など，患者はさまざまな悩みを抱えている現実があり，さらには，お子様が患者の場合には学校内の問題，友人関係，いじめの問題，日常生活の中での些細な問題，そして最も重要な心のケアなど，親の抱える問題が山積している．ゆっくり話を聞いているだけで，30分以上の時間が必要になる．忙しい日常の診療の中では患者の訴えにどれほどの時間を取ることができるのか考えさせられる．

　自分の脱毛症が治る病気であるのか，もしかして進行して毛が生えてこないのではないか，という不安を訴えることが多くみられる．それに答えるためには症状の経過や全身状態，臨床検査成績などを総合する必要があり，一度の面談で答えをだすのは困難である．多くの患者は脱毛症を専門にしている大学病院ないしは診療病院に通院しており，こちらに相談にくるまでもないと思われるが，セカンドオピニオンを求めているのだろうか．主治医の説明の内容に対して，患者が納得できず，不安を解決できないのではないかと考えられる．遠慮して聞きたい事を医師に伝えられないという患者がいる一方で，医師から疾患の内容や治療方針の話を受けてはいるものの，患者が十分に理解できないか，もしくは患者の受け取り方が不十分である様子もみられる．脱毛症自体がすぐに治る疾患ではなく，それなりの時間が必要であるが，患者の心理としては早く元に戻りたい願望があり，心の時間的余裕がないのであろう．医師としては患者の心理状態を理解したうえで，繰り返し説明を丁寧に行うことが重要となる．まずは患者の訴えをよく聞くことであり，傾聴が求められる．

　日常生活上での問題点や学校での対応のノウハウについては，医療相談会と平行して行われている患者同士の話し合いが大変参考になっている．深刻な心の悩みについては皮膚科医も精神・心理学的対応が求められる．

　相談の最後には納得のいくように，主治医とよく話しをすることを勧めているが，医師としては，患者の欲していることは何かを理解したうえで，丁寧に説明することを心がけたいものである．

斉藤　隆三