総合診療科と皮膚科

これまで，本誌の巻頭言にも，皮膚科の将来を憂う，あるいは行く末を案じた内容がたびたび登場してきた．しかし自分自身，根拠のない楽観的な思いのためか，どこか遠いことのような気がして，あまり実感も危機感も沸かず真剣に考えてはこなかった気がする．さらに，expand our specialityというような謳い文句も，皮膚科の学会にしばしば登場してきた．しかし，われわれが自分たちの領域を広げようと考えるなら，同じことを他科が考えても不思議ではなく，自分たちがいい気になっている間に，総合診療科ができ，専門医制度が変わり，というように情勢は急激に変わりつつある．しかも総合診療科から，皮膚科が間違いなく狙い撃ちにされつつある．

数年前にできた家庭医療科も，褥瘡や足白癬を始めとするコモンディジーズは無論のこと，紅皮症まで診ている地域もある．紅皮症は皮膚科医でも手こずるので，原因や治療法をコンサルトされても，満足すべき返事は返せない．まずいことに，皮膚科にかかっても治らないからここに来た，と言う患者もいるかもしれない．そうすると，皮膚科が診ても自分たちが診ても変わらないじゃないかという，変な図式ができてしまうことも否めない．

たまたま最近，総合診療科の専門誌に，皮膚病が取り上げられる特集を手伝う機会があり，その編集委員会が出してきた内容をみて驚いた．これまでも，内科の雑誌に皮膚病特集が組まれることは珍しくなかった．しかし，それはこのような皮膚病があることをいわば知識として紹介するものであったが，今回の企画は，知識だけではなく，かなりの部分，診療を実践する気配が感じられる．嘘だと思うなら，一度本を手に取ってみてみるとよい．その延長で，例えば皮膚生検にまで手を出してくると少し厄介なことになり，検体を病理部に送ると，皮膚科の介在なしに，診断，治療がどんどん進んでしまうということも実際に起きそうである．これまで生検を皮膚科に依頼してくれた膠原病内科も，それに倣うところが出てくるかもしれない．そうなると，併診で皮疹だけ関与していた施設は，そのおこぼれに与れなくなる．今回，そういう雑誌の編集にたまたま関わったおかげで初めてわかった．そうでなければ，総合診療医がどこまで求めているか，ずっと気がつかなかっただろう．救急でお目にかかる皮膚疾患にしても，翌日皮膚科に紹介するまでの一時しのぎではなく，自分たちの守備範囲と思うかもしれない．真菌にしてもそうである．検査に出して陽性かどうか判定されることも（正確性はともかく）可能になってきた．そのうちダーモスコピー片手に，疥癬もみそうな勢いである．

他科から，やはり専門家は違うと思ってもらえるには，月並みだがこれまで以上に一層皮膚科医としての腕を磨く必要がある．他科の医師は自分の身近な皮膚科医をみて皮膚科の能力を判断するのだから．それは診断であっても治療でも同じであるが，本気で皮膚科の存在意義を考えないと，生き残っていけない時代に突入したかもしれない．

山本 俊幸