症例報告

臨床の知識を豊かにするには多くの疾患を経験し，患者からの情報を整理し，病態生理などについてよく考えるようにすることが重要であるが，限られた診療の中では対象とするさまざまな疾患に巡り合える機会は十分とは言い切れない．そのために，学会に出席して症例報告を聞き，また，論文からの症例を参考にすることが要求される．診断，原因，治療などに苦慮していた症例を抱えている折に，学会報告や論文を読むことにより，その解決の糸口が見つかったという経験は少なくない．

学会報告では重要なことを聞きもらしてしまうことがあり，大きな会場ではスライドがよくみえない場合もおこりうる．この点で，症例報告の論文を読むことは，これまでに経験したことがない症例や比較的珍しい症例を目の当たりにすることができ，症状の特徴，鑑別診断，診断に至った経緯などが理解でき，大変参考になる．しかも，論文であれば，繰り返し読むことが可能であることもありがたい．

現れた皮膚の変化から，その病態生理を考察し，発症誘因などの考えを巡らせることは皮膚科医としての大いなる楽しみである．症例報告の中で，どのような鑑別診断があげられているのかについても，自分の考えと比較してみると面白い．

そこで，症例報告を論文にするときには，それを読んだ人に十分に理解してもらうように書き手も努力し，この論文で何を訴えたいのかを示す必要がある．症例の内容についてはできるだけ正確に記載することが要求される．行った臨床検査成績を羅列している報告がみられるが，その疾患にとって重要ではない検査成績は簡単に触れるのみで十分であろう．皮膚疾患にとってはその症状の特徴を示すことがもっとも重要であり，症状の詳記が求められる．症状を示すために，臨床写真を掲載することになるが，症状の特徴を捉えたピントの合った写真が1枚あれば十分に説得でき，それを提示することが重要である．

臨床写真についてはカメラの機能の向上により，誰しも簡単に写真をとることができるようになった．印刷技術も相当に進化しており，多少の色の違いは修正することが可能であるが，論文として掲載するのに耐えかねる写真をみることがある．問題は皮膚科医の目でいかに疾患の特徴を捉えることができるかにかかっており，芸術写真を要求しているものではない．この点を先輩は後輩によく指導して欲しい．論文となれば記録として残るため，特徴を示した写真を使用してもらいたいものである．

最近は活字離れが指摘され，書物を読むことが少なくなっているとのことである．必要な情報はインターネットを使ってピンポイントで手に入れることができる．これも必要なことではあるが，医学雑誌を読むことにより，求めていた情報とは関係がなくともさまざまな知見を得ることができるので，雑誌との付き合いも忘れないようにしたいものである．

斉藤 隆三