40周年を迎えて

本誌は1978年に発刊されて以来，40年という歳月を重ねることになった．皮膚病という病気をめぐって，毎号1つのテーマのもとに，それに関連した症例を集め特集号としている．臨床症状からどのような疾患を考え，鑑別診断をあげ，必要な検査を行い，確定診断に至ったのか，その考え方を中心に症例報告をさせてもらっており，このことが臨床をみるうえで，非常に役立っていると確信している．この方針は多くの方々の賛同を得ているが，ともすれば内容に新鮮味が少なくなっていることも否定できない．40年という節目の年を迎え，これまで以上に魅力的な雑誌にしたいものと考えている．

活字離れがいわれてから久しいが，ここにきて地方都市から本屋がなくなってきたとの報道があった．大型の本屋の出現，インターネットでの注文が可能となっていることなど，街中の本屋の存在意義が薄れてきているものであろうが，必要な資料はインターネットで求めることが容易にでき，本を読むという習慣が減ってきているのであろう．本を読むことにより，自分が関わったことのない世界を知ることができ，また，新しい知識を得ることができるという楽しみは失いたくないものである．

臨床医は日進月歩の医学的知識や技術の習得が常に求められ，そのためにも医学論文を読み，学会や研究会などに出席して新しい情報を得ることが必要である．一方で，さまざまな顔をもち，多種多様な性格を有する患者と相対したときに，一律な医療行為では相手が納得しないケースが経験される．機械的な検査を行い，そのデータを用いて診断と治療を行うことのみでは患者が満足しないことがある．各々の患者にとっての心の通った医療行為を考えなければならない．医学的な情報を文献により得ることは必要であるが，広い心をもって患者と接することが何より重要である．自分の置かれている世界と患者の置かれている世界は自ずと異なるもので，相手の立場を理解するためにはさまざまな世界を知ることも必要である．雑誌を読むという行為は自分が探している論文のみを読むことで終わりにするにはもったいない．ほかの論文や記事を読むことにより，周辺の情報も得られ，さらには医学以外の話題をも目にすることができるからで，そのよ うに雑誌を愛読して欲しいものである．そのためには雑誌もその要望に応えうる魅力的な内容でなければならない．

40巻1号は「心に残る症例」のテーマで，長年の臨床経験を積んだ皮膚科医から貴重な症例を提示していただいた．それぞれ思い入れのある症例報告で，診断，治療に難渋した症例，新たな知見が得られた症例，新しい疾患として発表した症例など，その経緯を読むことができることに大変な感動を覚える．40周年の節目を飾るのに相応しい症例集である．

新たなスタートを切った本誌は編集の基本姿勢は変えることなく，時代に則して内容を充実させ，心に残る症例集を目指し，読み応えのある魅力的な雑誌にすべく努力をしたいと考えている．引き続きご支援，ご鞭撻をお願い申し上げます．

斉藤 隆三