臨床研究法と本誌の対応

平成25年夏に発覚した高血圧治療薬に関する臨床研究の不正問題を発端として，臨床研究の信頼性，利益相反，研究倫理等に関する問題が顕在化した．これを受け，平成27年4月に「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」が発布され，さらに平成29年4月「臨床研究法案」が公示され，本年4月，まもなく施行される予定である．日本皮膚科学会は昨年12月に，個人情報保護指針を明文化し，ホームページに掲載した．診療で得られた経験なのか，研究で得られた新たな知見なのかを明確にすることを前提に，以下のように分類した．

1．症例報告（診療で得られた経験の共有）

「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス」を遵守し，十分に匿名化して発表する場合には手続は必要ない．

2．観察研究

①診療で得られた経験を研究としてとりまとめる②通常の診療に上乗せして軽微な侵襲（アンケートや検査項目など）を追加し，その結果をとりまとめる③通常の診療に上乗せして侵襲的行為（生検など）を追加し，その結果をとりまとめる

「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」に従って，研究計画書の作成，倫理審査委員会の審査，機関の長の許可等が必要

3．介入研究

①医薬品・医療機器でないもの（生活習慣や食品等）を使用した研究

「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」に従って，研究計画書の作成，倫理審査委員会の審査，機関の長の許可等が必要

②承認済みの医薬品・医療機器を適用の範囲内で使用した研究

臨床研究法に従って，研究計画書の作成，認定臨床研究審査委員会の審査，医療機関の管理者の承認が必要

③未承認又は適用外の医薬品・医療機器を使用した研究④製薬会社等から資金提供を受け，その会社が販売する医薬品・医療機器を使用した研究

臨床研究法に従って，研究計画書の作成，認定臨床研究審査委員会の審査，医療機関の管理者の承認，国への届出が必要

以上のように，臨床研究の多くは認定臨床研究審査委員会や医学系指針の倫理審査委員会での審査が必要になる．自前の倫理審査委員会を持たない中小病院，ましてや開業医は，他施設に依頼しなけらばならない．本誌に掲載される症例は，多くの場合，学会で発表された症例であるから，すでに症例報告にあたり遵守すべき手続が行われていると判断して進めさせていただくが，「個人情報保護への配慮が不足していないか」「倫理指針を遵守すべき介入試験を手続なしに行っていないか」について確認する必要があるので，ご留意いただきたい．

浅井 俊弥