インターネット情報

図書室の様子が変わってきた．図書室から月刊雑誌が少なくなってきており，本棚の代わりにパソコンが並べられている机が多くなった．雑誌を購入する予算の問題，雑誌を保管する場所がなくなってきていることなども理由ではあるが，インターネットの普及が大きく関わっていることであろう．文献検索については，インターネットで必要な項目を入力さえすれば，容易に目的とする文献を探してくれるという，大変便利な世の中になった．診療中であっても手元のパソコンを使って資料を得ることができ，わざわざ図書室まで出向いて調べる必要がなくなった．

医学情報については，医学的知識の少ない一般の人であってもインターネットから情報を得ることができ，その資料を持参して受診してくる患者が少なくない．とくに治療に難渋する疾患では治療法，予後などの不安があるために少しでも自分にとって都合がよいと考えられる情報が得られれば，それに沿った治療を望んでくる．注意すべきことは，インターネットの情報がその患者の疾患と同じものであるかどうかや内容の真偽の判断などは患者には難しいことであり，さらにはエビデンスの乏しい情報や不確かな情報が存在していることだ．患者の体験談をみても，よくなったという情報を記載されることがほとんどで，治療効果がなかったという情報はあまりない．したがって，その治療をすればすべてがよくなるという錯覚に陥ることになりかねない．

インターネットの情報には掲載順位があり，多くの人は上位から順にみていくことになろう．最近では医療従事者や専門家，医療機関などから提供されるような，より信頼性が高く，有益な情報が上位に表示されやすくなっているとのことである．それでも疾患に対する不安から，自分に都合のよい情報を探しだそうとする傾向がある．

先日もいろいろな治療を受けているが，なかなかよくならないという円形脱毛症の患者から，ある施設での特殊な治療法をインターネットで知り，それを受けてよいかという相談があった．その治療法については一般的に行われているものではなく，日本皮膚科学会のガイドラインには載っていないものである．エビデンスに乏しく，その治療法を薦めてよいとする根拠がない．

慢性的な疾患，確実な治療方法が確立していない疾患などでは患者の不安はなかなか解消できないが，医療従事者はインターネット情報に惑わされることなく，患者が発する言葉に耳を傾け，不安を受け止め，正確な情報に従って，納得のゆく説明をするように努めたいものである．

斉藤 隆三