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- 実験医学増刊 Vol.38 No.15 ゲノム医療時代のがん分子標的薬と診断薬研究
商品情報
内容
ゲノム医療が本格的に始動した今,その成果を反映させ患者さんに合った治療を行うための分子標的薬開発の重要性が増しています.本書では,分子標的薬とそれを支える診断技術研究の最前線を解説します.
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序文
序
2019年はゲノム医療元年ともいわれ,がん遺伝子パネル検査が保険収載され,がん臨床の転換点となった.実装化へ向けた努力は医療現場で続けられている.
従来の臓器別の診療から遺伝子変化ごとのがん診療へと移り変わりつつあるなか,ドライバー変異が同定されても,実際に患者に合った治療薬が見つかる割合は,国内においてもそれほど高くないことが示されている.
現在では,ドライバー遺伝子を有する腫瘍に対してチロシンキナーゼ阻害薬等の小分子化合物や抗体が用いられ,それ以外に免疫チェックポイント阻害薬が用いられることも多くなってきたが,プレシジョンメディスンは分子標的薬を中心に実施されているといっても過言ではない.一方で,現状では,パネル検査の併用療法に対する情報提供は十分ではないと感じることもある.いずれにしろ,パネル検査により実際に患者が薬を使用する機会を増やすことが急務であると考えられている.そのため,わが国においては,患者申出療養制度の効率化やプロファイリング検査をtreatment naive な時点で実施できるようにならないかなどが議論されている.
しかし,さまざまな遺伝子変化に対し,実際に使える治療法を増やすには,それらの候補となる分子標的薬等が数多く創り出されることが最も重要である.審査・承認の過程においては,その迅速化とともに横断的CDx に向けた取り組みが進められている.
このように,新しい標的に対するがん分子標的薬の創生が今,改めて求められている.一時は停滞期に入ったとみられていたがん分子標的治療薬の開発は,新たな創薬モダリティ,適応患者の層別化といった変化を追い風に,再び加速の機運が高まっているとの声が多く寄せられている.
そこで本書では,今後の分子標的治療薬の充実に必要な基礎研究は何なのか,トレンドを整理して学びたいという声に応えるべく,分子標的薬とそれを支える分子診断技術の研究最前線を,各テーマの最前線の研究者により,複数の視点から執筆いただいた.
本書の「第1章 新しい標的」では,古くて新しいものも含めて,融合遺伝子,RAS,がん代謝・ミトコンドリア,メチル化,腸内細菌叢,リポジショニング,ADC,核酸医薬を取り上げた.コンセプトから,臨床試験段階まで,さまざまなフェーズの取り組みが紹介される.
「第2章 ゲノム医療時代のコンパニオン診断薬開発の在り方」では,今や標的に対して,診断薬と分子標的薬は創薬の段階から同時に考えていくべきことであるという観点から,承認・申請における考え方と臨床試験デザインについても執筆いただいた.
「第3章 遺伝子パネル検査を分子標的薬から考える」では,先に述べた潮流から,今改めて分子標的薬とパネル検査の関係を論じていただいた.
「第4章 より精密ながんゲノム医療を目指して」では,がんのプレシジョンメディスンの現場において時に悩ましい点について基礎的に論じていただくことで,新しい創薬のヒントになることを意図した.
「第5章 耐性メカニズムとその克服方法」では,分子標的薬の特徴である獲得耐性とその克服の展望をTKI,血管新生阻害薬,免疫チェックポイント阻害薬について説明いただくことで,その比較から耐性克服に向けた創薬のヒントとなることを目指した.
「第6章 未来志向の分子標的薬」では新しく注目すべきモダリティについて紹介いただいた.
本書が読者の皆さまに研究の次の一手を考えるきっかけを提供できれば幸いである.
最後に,本書の編集に当たり,上記趣旨を勘案いただき,快く執筆いただいた執筆者の皆さまにこの場を借り深謝申し上げます.
2020年8月
西尾和人
目次
序【西尾和人】
第1章 新しい標的
1.融合遺伝子によるがんと治療薬―NTRK融合遺伝子【片山量平】
2.RAS標的治療の夜明け【内堀 健】
3.がん細胞の代謝を標的とする治療戦略の可能性【岡崎慶斗,本橋ほづみ】
4.DNAとヒストンのメチル化を標的とした抗がん剤の開発【鈴木孝禎】
5.腸内細菌叢を標的とした新規がん治療法【角田卓也】
6.細胞内分子変動情報を活用したドラッグリポジショニングとその拡張【川井 洋,北澤将史,木卜貴之,堀本勝久】
7.進歩するADC(抗体薬物複合体)【米阪仁雄,中川和彦】
8.核酸医薬【山本佑樹,田原栄俊】
第2章 ゲノム医療時代のコンパニオン診断薬開発の在り方
1.これまでのコンパニオン診断薬(CDx)の考え方【平瀬主税】
2.「横断的コンパニオン診断薬」とはなにか【矢花直幸】
3.マルチコンパニオン診断【武田真幸】
4.バイオマーカーに基づく臨床試験―マスタープロトコール,バスケット試験,アンブレラ試験【角南久仁子】
5.コンパニオン診断におけるLiquid Biopsyの可能性【岩間映二】
6.Liquid Biopsyの臨床応用―がん種による違い,MRDモニタリングなど【西尾和人】
第3章 遺伝子パネル検査を分子標的薬から考える
1.殺細胞性抗がん薬の位置づけ【濵西潤三,万代昌紀】
2.希少がんのための個別化治療開発:MASTER KEYプロジェクト【大熊ひとみ,米盛 勧】
3.パネル検査による併用療法―安全性・現状と今後の展望【清水俊雄】
第4章 より精密ながんゲノム医療を目指して
1.ドライバー遺伝子の定量化【坂井和子】
2.非小細胞肺がんのドライバー遺伝子を標的とした分子標的薬【古賀教将,光冨徹哉】
3.非ドライバー遺伝子を標的とした分子標的薬【西尾和人】
4.免疫チェックポイント阻害薬と分子標的治療薬の併用【林 秀敏】
5.抗体医薬品のプレシジョンメディシン―低分子薬剤との対比の観点で【秋永士朗,中村康司】
第5章 耐性メカニズムとその克服方法
1.チロシンキナーゼ阻害薬(TKI)耐性の分子機構アップデート【矢野聖二】
2.血管新生阻害剤に対する耐性獲得メカニズム【三橋惇志,西岡安彦】
3.免疫チェックポイント阻害剤の耐性メカニズム【冨樫庸介】
第6章 未来志向の分子標的薬
1.創薬に向けた大規模全ゲノム解析プロジェクト【土原一哉】
2.人工知能を活用した創薬やヘルスケアへの展開【海東和麻,山西芳裕】
3.p53を標的とするがん治療薬【人羅勇気,塚本佐知子】
4.PDCはがん治療展開の新たなカードとなりえるか?【近藤英作】
5.標的タンパク質を分解する新しい低分子医薬モダリティ【大岡伸通,内藤幹彦】
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書籍情報
- ISBN:9784758103893
- ページ数:210頁
- 書籍発行日:2020年9月
- 電子版発売日:2020年9月7日
- 判:B5判
- 種別:eBook版 → 詳細はこちら
- 同時利用可能端末数:3
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