詳説 非剛体レジストレーション―放射線治療領域―

  • ページ数 : 277頁
  • 書籍発行日 : 2020年12月
  • 電子版発売日 : 2020年12月4日
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商品情報

内容

DIRの114のギモンに答える

高精度放射線治療に欠かせないツールとなりつつあるDIR.臨床で非常に有用な技術であると同時に,正しい知識を持って使用しなければ医療事故に繋がりかねない危険性も孕んでいる.本書では2018年に公開されたガイドラインを補足する形で,DIRの利用や評価方法,臨床で利用するにあたっての注意点や疑問などを114のQ&A形式で解説.医学物理士や診療放射線技師,放射線腫瘍医など,放射線治療に関わる全ての医療従事者に役立つ1冊.

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序文

発刊に寄せて


放射線治療を取り巻く技術の発展は著しく,新しいコンピュータ技術を生かしたソフトウェアが近年多くの臨床現場で利用されている.Deformable Image Registration(DIR)を搭載したソフトウェアもその1つであり,画像を自由に変形させ,より自由度の高い画像の位置合わせを容易に行えるようになった.今日では,DIR は放射線治療計画を支援する技術として高精度放射線治療に欠かせないツールとなりつつある.その一方で,医学物理士や診療放射線技師はDIR の特性を十分に理解し,事前に適切な精度管理を行うことでDIR による画像の位置合わせの不確かさを把握しておくことが必須である.

2017年に米国医学物理学会(AAPM)からDIR技術の解説やコミッショニング手順,許容値などを含めたガイドラインが刊行され(TG‒132),その日本語訳版が2019年に公開されている.DIR技術は,以前は研究者がインハウスのソフトウェアを用いて研究を進めていたが,近年では商用の放射線治療計画装置でも利用可能となり,臨床現場においても普及している.しかしながら,DIR 技術は非常に便利なツールである一方で,使用方法を誤ると医療事故に繋がりかねない危険性を含んでいる.商用ソフトウェアの変形アルゴリズムはブラックボックスの部分もあり,無理な変形や過剰な変形を経験することも少なくない.そのため使用する場合には利用者が正しい知識を持って評価を行うことが必須であり,事前に適切なコミッショニングが行われなければならない.これらの現況を鑑み,日本放射線腫瘍学会QA 委員会のメンバーが中心となり,2018 年にその利用方法についてガイドラインの作成を起案した.

本書で展開される内容は,ガイドラインに準拠したDIR の利用や評価方法であり,DIR 技術を臨床利用するにあたっての注意点や疑問,コミッショニング方法についてもQ&A 形式で詳説している.本書には放射線治療関連機器を管理する医学物理士や診療放射線技師はもちろん,放射線治療に携わるすべての医療従事者にとって有益な知識が含まれており,ぜひ,放射線腫瘍医にも手に取ってほしい内容が数多く含まれている.DIR 技術がより安全に利用されることにより,近未来の高精度放射線治療がより多くの患者様に届けられることを心より期待している.

本プロジェクトを起案・執筆された諸氏が,これからの日本の放射線腫瘍学,医学物理学を発展させることは疑う余地がない.臨床で必要とされる様々な課題を基盤とし,新たな知見を積み上げ,胸躍るフォルムを作り上げる才能を皆が有しているようだ.本書が一つのきっかけとなり,本邦からの放射線治療に関する情報発信が,パンデミックになり,その流行が新たな歴史の一ページになることを祈念してやまない.


2020年11月

神戸大学医学部附属病院 教授
佐々木良平




監修者から


ここ5年ほどで非剛体レジストレーション(deformable image registration: DIR)を用いた機能は放射線治療分野において急速に発展してきました.DIRを搭載したソフトウェアは既に臨床導入され,日々の臨床でDIRは利用され始めています.2017年に米国医学物理学会(AAPM)からDIRを含む画像レジストレーションのガイドライン(TG‒132)が発刊されました.国内においても2018 年にJASTRO からDIRガイドラインが発刊され,そのガイドラインではAAPM TG‒132同様にDIRの使用方法や使用上の注意点などについて述べられています.ただ,実際にDIR を臨床で使用する場合にはガイドラインでは記載されていない多くの技術的・臨床的な問題に直面します.また,DIRはまだまだ発展途上の新興分野であるためDIR の技術的・臨床的な研究成果は日々更新されており,JASTROガイドラインが出版されてからも多くの研究成果が報告されています.そこで本書は,そのガイドラインを補足する位置付けとして企画されました.

本書は,DIRの研究・臨床経験が豊富な医学物理士や放射線治療専門技師が中心となり執筆されました.DIRの臨床利用においてはまだまだ解決すべき問題がたくさんある中で,最新のエビデンスやこれまでの臨床経験を基に臨床現場で直面する技術的・臨床的な疑問に対してQ&A方式でわかりやすく解説する書籍となっています.執筆時点での最新情報を含めるように執筆されているため,ガイドラインには含まれていない最新情報が反映されています.本書は,既にDIRを実施している施設のスタッフにおいては最新の知見を提供し,さらに安全なDIR の使用に導くものと期待します.また,DIRの技術的な解説も多く含まれているため,DIR をまだ導入していない施設における安全な臨床導入のワークフロー構築のための参考となります.

私がDIRに関する研究を始めて間もなく10年になろうとしています.その当時,DIRを学習したいと思っても適切な教科書がないことに大変困りました.本書は,その当時を振り返りそのようなDIR初学者にとってもわかりやすい本となるようにDIRの基礎的な部分についても記載し,DIRに対するハードルが高くならないように心がけて監修しました.多くの読者にとってDIR を理解する上で有益な本となれば監修者として大変喜ばしいことです.


※ DIRを活用した放射線治療の結果に対する最終的な判断と責任は,直接治療担当者に帰属すべきものであり,本書を作成した執筆者らが責任を負うものではありません.


2020年11月

東北大学病院放射線治療科 院内講師
角谷 倫之

目次

Ⅰ 概論

Q1 放射線治療領域におけるDIRの活用方法について教えてください.

Q2 本邦ではどのくらいDIRが放射線治療で活用されているか教えてください.

Q3 DIRソフトウェアはどのような流れで使用されるか教えてください.

Q4 DIRを臨床使用するにあたり,どこで,どのくらい教育を受ける必要がありますか?

Q5 臨床使用するにあたってどのくらいのDIRの性能が必要か教えてください.

Q6 どのような症例にDIRが有効か教えてください.

Q7 適応放射線治療でDIRを使うとどのくらい作業を効率化できるか教えてください.

Q8 参考となる書籍,ガイドライン,セミナーがあれば教えてください.

Q9 DIRに関する文献のレビューを教えてください.

Q10 DIRの臨床的側面からの有用性について教えてください.

Q11 画像レジストレーションの概要を教えてください.

Q12 画像レジストレーションにおける画像類似度の評価はどのように行われるか教えてください.

Q13 DIRのアルゴリズム(変形モデル)にはどのような種類がありますか? また,どのような違いがありますか?

Q14 幾何学的情報(解剖学的ランドマークや輪郭情報)を用いるアルゴリズムの特徴を教えてください.

Q15 画像レジストレーションの最適化はどのように行われるか教えてください.

Q16 DIRの正則化について教えてください.

Q17 DIRを行うときの過変形とは何ですか? どのように対処すればよいでしょうか?

Q18 DIRの誤差が生じやすいのは,どのような部位ですか?

Q19 DIRがうまくいかなかった場合の対処法があれば,教えてください.

Q20 DIRパラメータの1 つの変形グリッドサイズはどのように設定すべきですか?

Q21 DIRの計算領域を指定するためのROI や輪郭は設定すべきですか?

Q22 各DIRソフトウェアのパラメータはどのような働きをするか教えてください.

Q23 DIRパラメータ設定を選択する際の注意点はありますか? 使用するDIRパラメータは,ユーザで自由に決定してもよいものですか? それとも施設内で統一パラメータを使用すべきですか?

Q24 DIRソフトのパラメータは部位ごとに分けるべきですか?

Q25 CTとMRIなどのように異なるモダリティ間でもDIRできますか?

Q26 DVFを使ってco‒registrationする時の注意点について教えてください.

Ⅱ 品質保証・品質管理

Q27 DIRの精度検証方法について教えてください.

Q28 最も効率的なDIRの評価方法もしくは評価方法の組み合わせはどれか教えてください.

Q29 異なるモダリティ画像を用いてDIRしたときのDIR精度評価法について教えてください.

Q30 DIRの精度評価は,部位や活用方法によって最適な方法は異なるのでしょうか.

Q31 ダイス係数と目標レジストレーション誤差の利点と欠点を教えてください.

Q32 精度検証ではダイス係数やジャッカード係数が高い数値を示せばよいのでしょうか?

Q33 精度評価のための解剖学的指標はどのような場所に設置すべきでしょうか? 注意すべき点はありますか?

Q34 どれほどのDIR精度を達成すべきでしょうか? DIR結果の精度の基準値,最低限の値はいくらでしょうか?

Q35 DIRの結果をどのように保存すればよいでしょうか?

Q36 DIRのQA を行える物理ファントムはありますか?

Q37 DIRのコミッショニングを行う前に必要な項目について教えてください.

Q38 DIRのコミッショニングはどのような手順で行えばよいでしょうか?

Q39 コミッショニングにおいて臨床での使用可否を判定する基準などはありますか?

Q40 DIRのコミッショニングおよびQA は必要でしょうか?

Q41 他施設と同じDIRソフトウェアを使用しているため,自施設での精度検証は省略してよいでしょうか?

Q42 コミッショニングに利用できるデジタルファントムはありますか?

Q43 定期的なQA はどのように行えばよいですか?

Q44 DIRソフトウェアはどのくらいの頻度でQA を行えばよいですか?

Q45 患者ごとのQA は必要でしょうか?

Q46 患者ごとのQA はどのようにすればよいですか?

Q47 患者ごとにDIR精度を評価する場合,どのくらいのDIR精度であれば臨床利用できますか?

Q48 DIRソフトウェアと治療計画装置や治療装置との通信において注意する点は何でしょうか?

Ⅲ 使用画像について

Q49 歯冠などによる金属アーチファクトの有無がDIR精度に与える影響について教えてください.

Q50 体内に金属インプラントがある場合,CT やMRI においてどのような対応策がありますか?

Q51 腸管ガスの有無はDIRの精度に影響するかどうか教えてください.

Q52 CTやMRIの撮像条件がDIR精度に与える影響について教えてください.

Q53 CT‒CT間DIRについて,頭頸部領域でどのくらいのDIR精度であるか教えてください.また,使用において注意すべき点があれば教えてください.

Q54 CT‒CT間DIRについて,胸部領域でどのくらいのDIR精度であるか教えてください.また,使用において注意すべき点があれば教えてください.

Q55 CT‒CT間DIRについて,腹部領域でどのくらいのDIR精度であるか教えてください.また,使用において注意すべき点があれば教えてください.

Q56 CT‒CT間DIRについて,骨盤領域でどのくらいのDIR精度であるか教えてください.

Q57 CT‒CBCT間DIRについてどのくらいのDIR精度であるか部位ごとに教えてください.

Q58 CT‒MRI間DIRについてどのくらいのDIR精度であるか部位ごとに教えてください.

Q59 CT‒PET間DIRについてどのくらいのDIR精度であるか教えてください.

Q60 CT 画像間のDIRで,造影効果はDIR精度に影響を与えますか?

Q61 DIRでMR 画像の歪みは補正できますか?

Q62 DIRでMR 画像を用いた線量計算が可能ですか?

Q63 MRIの撮像プロトコルを変更した場合,再度コミッショニングを実施する必要はありますか?

Q64 MRIやPET撮影はフラット天板を使用した方がよいのでしょうか?

Ⅳ 自動輪郭抽出

Q65 自動輪郭抽出について教えてください.

Q66 自動輪郭抽出を使った際の時間短縮はどの程度か教えてください.

Q67 セグメンテーションとプロパゲーションの違いは何ですか?

Q68 セグメンテーションにおけるアトラスベースとモデルベースの違いについて教えてください.

Q69 自動輪郭抽出のシングルアトラス選択法と,マルチアトラス選択法について教えてください.

Q70 アトラスベースセグメンテーションには何例くらい登録しておく必要があるか教えてください.

Q71 AIを使った自動輪郭抽出とDIRを使った自動輪郭抽出の違いについて教えてください.

Q72 DIRソフトウェアによって自動輪郭描出の精度にどのような差がありますか?

Q73 部位ごとに最適な自動輪郭抽出法はありますか?

Q74 頭部・頭頸部における自動輪郭抽出について,どのくらいの精度であるか教えてください.また,臨床利用する際の注意点についても教えてください.

Q75 胸部における自動輪郭抽出について,どのくらいの精度であるか教えてください.また,臨床利用する際の注意点についても教えてください.

Q76 腹部における自動輪郭抽出について,どのくらいの精度であるか教えてください.また,臨床利用する際の注意点についても教えてください.

Q77 骨盤部における自動輪郭抽出について,どのくらいの精度であるか教えてください.また,臨床利用する際の注意点についても教えてください.

Ⅴ 線量の変形と合算

Q78 DIRを用いた線量分布変形の利用法とワークフローを教えてください.

Q79 線量分布変形のアルゴリズムについて教えてください.

Q80 DVFを基にした線量分布変形はどのくらい正確ですか?

Q81 線量分布合算にDIRアルゴリズムの影響はありますか?

Q82 DIRの誤差が線量分布変形に及ぼす影響について教えてください.

Q83 線量分布合算に必要なDIR精度について,どこまでのDVF誤差が許容されますか?

Q84 合算をした線量分布の評価方法にはどのようなものがありますか?

Q85 Inverse consistency error によるDIRを用いた線量分布変形の不確実性評価法について教えてください.

Q86 目標画像と被変形画像の選択がDIRを用いた線量合算結果に及ぼす影響について教えてください.

Q87 DIRを用いた合算線量分布において,評価したいDVH パラメータによって注意すべき点は異なりますか?

Q88 IGRTで撮影されたCBCT画像とDIRを用いて実際に照射された線量を評価できますか?

Q89 DIRを用いた線量合算が有効な部位について教えてください.

Q90 DIRを用いた合算線量と臨床成績には相関があるでしょうか?

Q91 適応放射線治療においてDIRを用いた線量分布合算は有用でしょうか?

Q92 照射法や照射時期が異なる場合のDIRについて,どのような適応がありますか?

Q93 陽子線治療や重粒子線治療においてDIRによる線量合算は有用でしょうか? X線治療との違いがあれば教えてください.

Q94 4DCTとDIRを用いた4次元線量分布計算は呼吸性移動を考慮した線量評価に有効ですか?

Q95 4DCTとDIRを用いた4次元線量分布計算によりインタープレイ効果の影響を考慮できますか?

Q96 頭頸部における線量合算の利点と欠点を教えてください.

Q97 胸部における線量合算の利点と欠点を教えてください.

Q98 腹部における線量合算の利点と欠点を教えてください.

Q99 骨盤部における線量合算の利点と欠点を教えてください.

Q100 外部照射と永久挿入密封小線源治療を併用した前立腺癌症例におけるDIR利用の利点と欠点を教えてください.

Q101 婦人科領域においてDIRは有効でしょうか?

Q102 婦人科領域の小線源治療および外部照射におけるDIRで留意すべきことはありますか?

Q103 婦人科領域でDIRを実施した際,視覚評価で注視するべきポイントを教えてください.

Q104 小線源治療で使用するアプリケータのDIRに及ぼす影響とその対処法を教えてください.

Ⅵ 適応放射線治療と再照射

Q105 生理的変化がDIR精度に与える影響と対処法について教えてください.

Q106 DIRで撮影時の患者体位の違いを補うことはできますか?

Q107 再照射の治療計画においてDIRにより合算線量を正しく評価できますか?

Q108 再照射におけるDIRを用いた合算線量評価と臨床結果との関係を教えてください.

Q109 再照射時のDIRを用いた治療計画法について教えてください.

Ⅶ その他のDIR活用

Q110 DIRによって肺の換気能を画像化する(CT肺換気画像)メカニズムを教えてください.246

Q111 CT肺換気画像の精度を教えてください.

Q112 CT肺換気画像の利用方法を教えてください.

Q113 CT肺換気画像を臨床利用する際の注意点を教えてください.

Q114 機能画像における利用以外で,DIRを用いた最新の研究内容について教えてください.

DIR機能を搭載した治療計画支援装置および治療計画装置

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書籍情報

  • ISBN:9784498065284
  • ページ数:277頁
  • 書籍発行日:2020年12月
  • 電子版発売日:2020年12月4日
  • 判:B5判
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