糖尿病と妊娠の医学 第3版糖尿病妊婦治療の歴史と展望

  • ページ数 : 156頁
  • 書籍発行日 : 2020年10月
  • 電子版発売日 : 2020年12月30日
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内容

糖尿病妊婦診療の第一人者である著者が,世界と日本における糖尿病と妊娠の医学の歩み,および最新のスタンダードな診療をまとめたテキスト.好評であった2013年の第2版に,最新データを加えた待望の第3版.糖尿病があっても安全な妊娠・出産ができるように,死産や,生まれる子に奇形や障害が起こらないように,糖尿病と妊娠の医学を日本に確立し,発展させてきた著者の臨床と研究の集大成であり,後世への遺産ともいえる1冊.

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序文

第3版改訂に寄せて

医学の進歩は急速で, 特に分子レヴェルの理論摂理が素晴らしくなっているが, 前回改訂時にも記載したように, 本書は「糖尿病と妊娠」の分野における基本的臨床にお役に立てることを主眼にしているので基礎医学的な改訂は行っていない.しかし,「糖代謝異常合併妊娠とサイトカイン」を書いてくださっている柳沢慶香准教授と「妊娠に伴う内分泌環境の変化とその影響」の對馬敏夫名誉教授が,進歩項目を追加してくださっている.学会の流れと新規項目を追加し見やすくした程度の改訂である.


感謝をこめて 2020年8月

大森安惠

はじめに

私の恩師の一人,東京女子医科大学糖尿病センター名誉所長平田幸正先生は,定年に際し1,000頁に及ぶ「糖尿病の治療」という大作を完成されて,糖尿病治療のみならず,糖尿病学を学ぶ人々に大きな刺激と啓示を与えられた.1997年(平成9年),私の定年の時も,文光堂の酒井茂氏から,平田先生と同じように糖尿病と妊娠に関する本を出版して欲しいという依頼を受けた.しかし,定年直後の5月に私は第40回日本糖尿病学会会長を引き受けていて,その準備のためとても本を書く余力などなかった.

学会が終わってもセミナー主催や,Textbookの執筆やらこまごまとした仕事は後を絶たず,「来年になったらね, 来年になったらね……」を繰り返しながら10年があっという間に過ぎてしまった.編集担当の酒井氏はその後定年を迎え,新たに担当してくださった頼高氏を再び困らせながら,いまようやくその完成をみたところである.

我が国における糖尿病と妊娠に関する著書は,1986年(昭和61年),医師・コメディカル向きに医歯薬出版(株)から,糖尿病と妊娠に関する研究会が共同で執筆した「糖尿病妊婦治療のてびき」が初めてである.次いで,一般患者さん向けに私が書いた「女性のための糖尿病教室─安全な妊娠・出産のために─」(合同出版,次いでプラネット)が1987 年(昭和62年)に出版され,同じく大森の書いた「糖尿病の治療はあなたも主治医─安全で健やかな妊娠・出産のために」(プラネット)が1995年(平成7年)に出版された.その後,(株)メジカルビュー社から出された共同執筆の1冊の本があるだけであった.

糖尿病と妊娠に関する長い歴史を刻んでいる欧米においても,1961年出版の名著Hagbardの『Pregnancy and Diabetes Mellitus』から二十数冊を数えるに過ぎない.

本書は共同執筆でなく単独で書かれた,医師,コメディカル向けの本として初めてのものである.「第4章:糖尿病合併妊娠の病態」の中で,東京女子医科大学糖尿病センターの新進気鋭の柳沢慶香先生が「糖代謝異常合併妊娠とサイトカイン」を,名誉教授の對馬敏夫先生がご専門の立場から,「妊娠に伴う内分泌環境の変化とその影響」を特別にご執筆くださった以外は,すべて単独執筆である.

本書は新しい医学を求めて書いたものではない.糖尿病があるだけでも人生の負担である若い人々に,医療の未熟がもたらす妊娠,出産の不利を避けられるように,患者さんの「幸せ」をひたすら祈念して執筆したものである.文献をいっぱい載せるのではなく,私が学び歩んできた経験を通して,外国の真似でない,日本人による,日本人のための糖尿病と妊娠の医学の基本を書いたつもりである.読者の皆様が今を勉強すれば,進歩は自ずから解るはずである.

内科学の名教授と讃えられている東京大学の冲中重雄名誉教授は,「書かれた医学は過去の医学であり,目前に悩む患者のなかに明日の医学の教科書の中身がある」と医局員に薫陶を与えたと聞いている.本書が,明日の医学を開く礎となれば幸いである.

私がなぜ糖尿病と妊娠の分野に取り組もうとしたかについては,前述の「女性のための糖尿病教室」に書いた「生と死と」の一部分を序章として転載させていただいたので,先ずそこから読んでいただきたい.もし私に死産という筆舌に尽くし難い悲しみがなかったら,糖尿病と妊娠の医学は日本にどのような形で誕生しただろうか,と時々思いを巡らすことがある.

弾圧のもとに自由を求めて名曲を書いたショスタコーヴィチの苦難や,聞こえない苦しみのなかで作曲し続けたベートーヴェンの苦業を思えば比べるべくもないが,私にとって糖尿病と妊娠の医学は,死産によって生を受けることなく,また母の腕に抱かれることもなく天の星になった子供の導きによって開かれた一筋の道であると思っている.

この道をさらに遠く遥かな美しい道に繋いでくださるのは,読者の皆様であると信じている.


平成20年11月 月の輝く日に

大森安惠

目次

第1章 糖尿病と妊娠の歴史

1.世界における歴史

(1)はじめに

(2)欧米における糖尿病と妊娠の歴史

(3)コペンハーゲン大学の貢献

2.日本における歴史

(1)はじめに

(2)我が国における「糖尿病と妊娠」の夜明け

(3)我が国における糖尿病と妊娠分野の確立

(4)我が国における糖尿病と妊娠の臨床分野の発展

(5)糖尿病と妊娠における全国実態調査

3.糖尿病と妊娠に関する研究の歴史

(1)糖尿病母体から生まれた児の剖検所見

(2)Priscilla White 女史とJørgen Pedersen教授の偉業

(3)Accelerated starvation その他

(4)Diabetes Pregnancy Study Group(DPSG)について

第2章 糖尿病と妊娠に関する学会,研究会

1.日本における「糖尿病と妊娠に関する研究会」

2.日本糖尿病・妊娠学会への発展

3.ヨーロッパ糖尿病学会の分科会としてのDPSG

4.国際糖尿病・妊娠学会 International Association of Diabetes Pregnancy Study Group(IADPSG)

5.妊娠糖尿病に関する国際ワークショップ-カンファランス(International Workshop-Conference on Gestational Diabetes)

第3章 糖尿病と妊娠の関わり合い

1.母体・胎児間の栄養とホルモンの交流

2.糖尿病と妊娠の相互作用

3.妊娠はdiabetogenicである

第4章 糖尿病合併妊娠の病態

1.妊娠による母体の変化

(1)インスリン

(2)脂質

(3)胎盤産生ホルモン

(4)インスリン需要量の変化

(5)妊娠における1,5AG とGlycated albumin(グリコアルブミン)

2.糖代謝異常合併妊娠とサイトカイン

(1)サイトカインとは

(2)妊娠とインスリン抵抗性

(3)TNF-α

(4)レプチン

(5)アディポネクチン

(6)レジスチン

(7)ビスファチン

(8)Retinol-binding protein-4

(9)Adipocyte fatty acid-binding protein

3.妊娠に伴う内分泌環境の変化とその影響

(1)胎盤由来のホルモン,成長因子

(2)その他のホルモン/成長因子

(3)TSH/甲状腺ホルモン

(4)ACTH/副腎ホルモン

(5)下垂体ホルモンと関連因子

(6)消化管ホルモン

第5章 妊娠糖尿病

1.妊娠糖尿病とは

(1)定義と診断基準の変遷

(2)新しいIADPSGの定義と診断基準

2.妊娠糖尿病と糖尿病合併妊娠の違い

3.妊娠糖尿病の疫学

4.妊娠糖尿病の治療

5.妊娠糖尿病のスクリーニングと予後

第6章 糖尿病妊婦の分類

1.はじめに

2.Whiteの分類

3.Pedersenの分類を用いた糖尿病妊婦の分類

4.2つの簡潔な分類

5.WHO(World Health Organization)の分類

6.アメリカ糖尿病学会の糖尿病妊婦の分類

7.日本糖尿病学会におけるGDMの定義と診断基準

第7章 糖尿病妊婦の臨床― 一般的基礎知識として―

1.1型糖尿病妊婦と2型糖尿病妊婦の違い

2.計画妊娠について

(1)計画妊娠の目的と対策

(2)計画妊娠の実際

第8章 糖尿病妊婦の治療― 合併症をもたない糖尿病妊婦の場合―

1.糖尿病妊婦治療の問題点

2.糖尿病妊婦治療の目標は血糖正常化

3.糖尿病妊婦治療の流れ

4.糖尿病妊婦治療の実際

(1)妊娠前管理

(2)妊娠中の治療

5.糖尿病妊婦の産科的治療,出産時の治療

第9章 糖尿病合併症をもつ人の妊娠

1.肥満者の妊娠

2.網膜症をもつ人の妊娠

(1)糖尿病網膜症と妊娠の関係

(2)妊娠中の網膜症の変化

(3)妊娠中の網膜症の治療

(4)光凝固療法,硝子体摘出術の効用

3.糖尿病腎症をもつ人の妊娠

(1)糖尿病腎症をもつ妊娠の頻度

(2)糖尿病腎症と妊娠の相互関係

(3)糖尿病腎症をもつ母体から生まれた児と分娩を終了した母体の予後(自験例より)

(4)糖尿病腎症をもつ症例の妊娠許可条件

(5)糖尿病腎症合併妊婦の治療

(6)腎移植後の妊娠(White Class T)

4.高血圧と心血管障害をもつ人の妊婦

第10章 糖尿病母体から生まれた児の特徴,合併症,予後

1.糖尿病母体から生まれた児の特徴

2.糖尿病母体から生まれた新生児の合併症

3.糖尿病母体から生まれた児の予後

4.残されている問題と今後の展望

第11章 妊娠を経過した糖尿病婦人の予後

巻末付録 東京女子医科大学における三世代,年代区分別にみた糖尿病腎症合併妊娠の実態からその予防対策を考える

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書籍情報

  • ISBN:9784830613951
  • ページ数:156頁
  • 書籍発行日:2020年10月
  • 電子版発売日:2020年12月30日
  • 判:B5判
  • 種別:eBook版 → 詳細はこちら
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