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臨牀消化器内科 2020 Vol.35 No.12 除菌後時代を迎えた胃癌診療

  • ページ数 : 120頁
  • 書籍発行日 : 2020年10月
  • 電子版発売日 : 2021年2月12日
3,300
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内容

特集「除菌後時代を迎えた胃癌診療」

本特集はH. pylori 除菌療法普及に伴って,その様相を変えつつある胃癌診療の現況を俯瞰し,これからの時代が直面する課題について整理を試みたものである.(巻頭言より抜粋)

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序文

巻頭言

一瀬 雅夫*


 2013 年に Helicobacter pylor(i H. pylori)感染胃炎に対する除菌療法の保険適応が認められて以来,すでに7 年以上の時が経過した.消化性潰瘍再発予防では劇的な効果を発揮し,多大な恩恵をもたらした除菌療法が,わが国が直面する最大の厄災の一つである胃癌による死亡率減少に大きく貢献するものとの期待が込められていたわけであるが,本療法の胃癌発生抑制効果に関するデータは当初喧伝されていたほど劇的なものではなく,限定的であることが明確に認識されるに至っている.すなわち,診療の現場でも,胃がん検診においても,除菌後症例は現感染例と同様,胃癌ハイリスクとして慎重なfollow‒up の対象として扱われている.H. pylori 感染持続の結果である胃粘膜萎縮が進行することでpoint of noreturn を越えた場合,最終的にはH. pylori 感染の有無にかかわらず,胃癌が発生する状態に至るというH. pylori 感染胃炎の自然史を理解していれば,当然予想されたことであるが,胃癌診療の前線では除菌後胃癌を加えた新たな闘いが展開している.このH. pylori 除菌がもたらす新たな戦線では,当初,生物学的悪性度が低く扱いやすい癌との闘いが中心になるものと予想されていたが,短期間で進行癌に進展する難敵も少なからず出没することが明らかとなり,第一線の内視鏡医にとっては,除菌療法により炎症軽度となり穏やかな胃内風景が展開するにもかかわらず,胃癌診断に関するこれまでの経験値では対応し難い,あたかもゲリラのように身を潜めた敵とも対峙することを強いられる,気を抜くことが許されない状況となっている.

 本特集はH. pylori 除菌療法普及に伴って,その様相を変えつつある胃癌診療の現況を俯瞰し,これからの時代が直面する課題について整理を試みたものである.その過程で痛感したことは,H. pylori 感染症による発癌機構の詳細に関して,今なお十分解明されたとは言い難い状況に留まっている事実である.感染モデルを使った動物実験ではH. pylori の役割は発癌promoter としての作用がメインである.この観点に立つと強力な発癌initiator である発癌ウイルスと比較して,H. pylori の発癌potential が癌発生年率0.1%程度ときわめて穏やかであることやヒトを対象とした大規模追跡研究の結果も合理的に理解できるのであるが,肝心の発癌機構の詳細は依然霧の中である.これがH. pylori を巡る残された課題の最大のものであろう.しかし,最近10 年間のこの点に関する解明,そして,私ども臨床医の理解が劇的に進展したと感じられないことは大変残念なことである.わが国の研究力の低下の現れとは思いたくないが,本領域に関わる研究者が減り,昔日の勢いが感じられない.一方,臨床研究に関わる先生方に関しても日常業務の劇的な増加により,ゆとりがなくなっているようである.本特集の関連では,除菌による胃癌発生抑制効果を検討した臨床研究(一流誌掲載の論文を含め)のなかには,再発胃癌について明確な定義をせずに行っているものや,研究結果が示す内容と著者の解釈とが食い違い,正しい結論が導かれているか疑問を抱かざるをえないものが見受けられる.そして,そのようなことが生じる背景に,H. pylori の発癌機構の解明が道半ばであることにより,H. pylori を発癌ウイルスなどと同列視した先入観や誤解が潜在していることに気付かされる.

このような点に対する対応として,一度原点に立ち返った理解の一助になればとの思いから,H. pylori 感染胃炎からの発癌機序や除菌後の胃癌発生長期予後に関する記事で基本的な事項の現状をご理解いただいたうえで新たな局面を迎え,増え続ける除菌後胃癌の診断に関して,除菌による粘膜変化,診断に影響する要因,除菌後胃癌ハイリスクなどを含めた要点について,また,H. pylori 関連の胃癌に代わり,今後の胃癌診療において重きをなすことが予想されるH. pylori 未感染胃癌をはじめとする各種胃癌について取り上げ,それぞれ地道な研究を重ねておられる第一線の先生方に現状の解説をいただいた.

世界に先駆けて公費でのH. pylori 除菌療法を導入したわが国.今後の展開を中国,韓国など東アジアの胃癌多発諸国が注視している.医療,そしてその背景にある戦略の劣化は一国の叡智の劣化と捉えられかねない.H. pylori による発癌機構の正しい理解に基づく,経済的にも妥当な,諸外国から一目置かれるわが国の今後の胃癌医療の発展を期待したい.



*帝京大学特任教授(〒160‒0022 東京都新宿区新宿4‒1‒6)

目次

特集

巻頭言

1 .除菌後胃癌を巡る課題

(1)H.pylori除菌後10年以降の胃癌リスク

(2)H.pylori感染胃炎からの発癌と除菌後胃癌発生機序

(3)除菌後胃癌の診断を巡って

  a.臨床病理学的特徴

  b.内視鏡診断の要点

  c.効率的な内視鏡診断

  d.除菌後発見胃癌の好発部位は中間帯である

  e.除菌後胃癌―診断困難例を巡って ②除菌による側方進展への影響

(4)除菌後胃癌のハイリスク

2 .H.pylori未感染胃癌を巡る課題

(1)内視鏡的・臨床病理学的特徴

(2)非噴門部胃癌と噴門部胃癌の臨床病理学的比較検討

3 .EBウイルス関連胃癌

4 .遺伝的要因を背景とした胃癌

5 .A型胃炎(自己免疫性胃炎)を背景とした胃癌

連載

内視鏡の読み方

 ダビガトランによる薬剤性食道粘膜傷害が疑われた食道炎の1例

薬の知識

 ニボルマブ(オプジーボ®)―根治切除不能・再発食道癌および,根治切除不能・再発のMSI‒Hを有する結腸・直腸癌の治療法として

検査値の読み方

 透析中の肝硬変症例に生じた肝性脳症

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書籍情報

  • ISBN:9784004003512
  • ページ数:120頁
  • 書籍発行日:2020年10月
  • 電子版発売日:2021年2月12日
  • 判:B5判
  • 種別:eBook版 → 詳細はこちら
  • 同時利用可能端末数:2

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