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INTESTINE 2020 Vol.24 No.2 無痛大腸内視鏡挿入法-technique & device
INTESTINE編集委員会 (編) / 日本メディカルセンター
商品情報
内容
挿入法は技術であり,知識を得ただけではすぐに上達はしない.1症例1症例を大切にしつつ,日々の努力,研鑽が必要である.(編集後記より抜粋)
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序文
序説
藤井 隆広
(藤井隆広クリニック)
大腸内視鏡挿入法について,私の知る過去30年を振りかえってみる.
1986 年,私が最初に見た大腸内視鏡挿入法は,X 線透視下での二人法である.術者は両手でアングル操作をしながら,スコープを把持している助手にスコープの出し入れのタイミングを指示するという二人法であり,X 線がスコープの位置確認に使用されていた.この頃の前処置法は,PEG(polyethylene glycol)導入前のブラウン変法であり,腸管洗浄効果はきわめて不良であった.それに加え,被検者の苦痛も強かったことや,「臭い」「苦痛」「恥ずかしい」などから,この頃の大腸内視鏡検査では無症状の大腸がん検診など,到底想像できない状況であった.
当時の二人法で注目されていたのは,弘前大学の田島強氏が考案した逆「の」字型挿入法である.現在で言う「αループ」を意図的に形成することで,SD junction の強い屈曲を避けS 状結腸から下行結腸へ挿入する.下行結腸でαループを解除し直線化した後,すでに内視鏡に装塡されたスライディングチューブを肛門から下行結腸に挿入し,深部挿入するという二人法である.
この二人法から大きな変化がみられたのは,1980 年頃,新谷弘実氏が考案したShinya 式一人法である.この挿入法は,左手でアングル,右手は内視鏡の出し入れや捻りを行い,両手の協調操作から,なるべくループを形成せずに内視鏡を直線化しつつ挿入する画期的な方法であり,現在の挿入法の原型となった.新谷氏のもと米国で学んだ岡本平次氏は,この一人法を日本に広めるべく,さまざまな形でShinya 式を紹介した.そのなかでも私にとって印象深かったことは日本消化器内視鏡学会誌に連載された挿入手技解説であり,とても興味深く読ませていただいたことを記憶している.また,一人法を日本に広めたことで忘れていけないのは,工藤進英氏や光島徹氏であり,彼らもまたライブデモンストレーションなどの実技指導の研究会や学会活動などにより,一人法への移行に大きく貢献したことを強調しておきたい.この3 名が,日本の大腸内視鏡挿入法を一人法へと大きく変化をもたらしたことは間違いない.
現在の日本では,一人法が主流となり,二人法の時代に比べ,前処置やスコープ,周辺機器も進化し,苦痛の少ない大腸内視鏡挿入法が行われるようになっている.その背景には,軸保持短縮法やS-top の概念など,挿入手技の理論を理解していることがあり,それに加えて体位変換や腹壁圧迫,ほかには水浸法,先端フード,硬度可変式,内視鏡挿入形状観測装置(コロナビ)など,さまざまな機器や工夫を凝らした挿入法が行われてきた.しかしながら,これらはあくまでも補助手段であり,これらが有用とされるのは,一人法の基本挿入法に忠実であるべきことはいうまでもない.
Shinya 式一人法が日本に導入されて,約40 年を迎えようとしている.二人法の時代に比べればPEG による前処置法や無透視下内視鏡,マンパワーの省力化,内視鏡機器の開発など,あらゆる面での進歩はうかがえるが,未だ大腸内視鏡挿入法が大きく進化したとは言い難い.現行の内視鏡では,誰もが簡単に盲腸へ挿入することは難しく,上達するには,スコープ操作に慣れることや,多くの症例を経験することが必要である.それらの経験を積むなかでもっとも大切なことは,軸保持短縮法などの手技をマスターしている熟練した内視鏡医より実践で学ぶことであり,それが上達への近道と考える.近年,多くのベンチャー企業が自走式内視鏡など,さまざまな内視鏡を開発し話題を呼んだが,やはり現状の内視鏡に勝るものはなく,マイナーチェンジにとどまっている.今後も,現存の内視鏡による挿入技術をマスターしていくしかないと考える.
そのような状況のなか,大腸がん検診に注目すると,大腸癌は胃癌と異なり,発症原因が未だ解明されておらず,大腸癌死亡率も増加の一途を辿っている.この死亡率を下げるためには,1 人でも多くの大腸がん検診受診者数を増やすことが重要であり,便潜血検査や大腸内視鏡検診,さらには大腸癌のリスクを層別化したAPCS(Asia-Pacifi c Colorectal Screening)スコアなど,これらの組み合わせから効率よく大腸癌を拾い出していくような検診プログラムも今後の取り組みとして大切なことと考える.現状では,第一選択として便潜血検査が行われ,その陽性結果をもとに精密検査として大腸内視鏡検査が推奨されているが,大腸内視鏡受診率は70%程度と満足できるものではない.この大腸内視鏡検診受診率の低さには,様々な理由が挙げられているが,そのなかでも大腸内視鏡検査は苦痛を伴うという認識が未だに残っていることが大きい.現状でも,苦痛を与えてしまう症例は二人法の時代からは激減したとはいえ,deep sedation に頼る内視鏡検査法も少なからず行われている.
近い将来には,胃がん検診が胃透視から胃内視鏡検査に移行しつつあるように,大腸がん検診として最初から全大腸内視鏡検診が第一選択として行われる時がくるであろう.いずれにしても最終確認や内視鏡治療には全大腸内視鏡検査は必須であり,それを行う内視鏡医のマンパワーとしては1 人でも多くの卓越した技術を有する大腸内視鏡医が必要となる.本特集では,苦痛のない大腸内視鏡検査を行うための軸保持短縮法の基本から,短縮困難なループ形成腸管や腸管の癒着,過長な腸管などの挿入困難症例に対するトラブルシューティングとして鎮静薬や鎮痛薬の投薬,内視鏡選択,硬度可変式などの内視鏡機能,先端フードなどさまざまなdevice や工夫によって困難をいかに克服できるかを,多くの経験をもつ先生方にご執筆いただいた.
挿入時間を競うのではなく,いかに苦痛なく検査を行えるか,そのノウハウを本特集から学んでいただき,本号が今後の無痛大腸内視鏡挿入法に向けてのメッセージとなることを期待したい.
目次
特集
序説 藤井 隆広
Ⅰ.軸保持短縮法の原点と進化 工藤 進英 他
Ⅱ.総 論
(1)軸保持短縮法の基本 山野 泰穂 他
(2)大腸内視鏡軸保持短縮法の補助手段-用手圧迫と体位変換の有用性 田中 信治 他
Ⅲ.各論
(1)鎮痙薬・鎮痛薬・鎮静薬の使用法 玉井 尚人 他
(2)鎮痛薬・鎮静薬を使用しない無痛大腸内視鏡挿入法 松下 弘雄 他
(3)太径スコープと細径スコープの利点・欠点 工藤 豊樹 他
(4)硬度可変機能の使用法 鈴木 拓人 他
(5)Responsive Insertion Technology(受動湾曲,高伝達挿入部)を活かした挿入 伊藤 紗代 他
(6)初学者のトレーニング 坂本 琢他
(7)先端フードを使用した挿入法の利点 鈴木 憲次郎 他
(8)挿入困難例に対するトラブルシューティング
a.Non-traumatic tube を利用した大腸挿入困難例の対応 寺井 毅
b.S 状結腸多発憩室症例への対処法 小林 望 他
c.Redundant colon における短縮操作のコツ 田村 智 他
〔コラム〕大腸内視鏡検査の被検者を増やす工夫 岩館 峰雄 他
TOPICS
クローン病診断に有用なカプセル内視鏡所見に関する検討─ 本邦多施設症例対照研究 江﨑 幹宏他
潰瘍性大腸炎における体外式腹部超音波検査の有用性の検討 木下 賢治他
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書籍情報
- ISBN:9784004202402
- ページ数:80頁
- 書籍発行日:2020年6月
- 電子版発売日:2021年3月3日
- 判:B5判
- 種別:eBook版 → 詳細はこちら
- 同時利用可能端末数:2
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