プロローグ

前著，『12 人の医院経営ケースファイル』（Part Ⅰ）を，我々M.A.F（Medical Activation Federation： 医療活性化連盟）という開業医のコミュニティーでのメンバーと一緒に書いたのが予想を上回る売れ行きで，Part Ⅱを出版するに至りました．このことに関しまして，たくさんの多くのドクターにご覧いただいたものと思い非常に嬉しく思います．前回の批評を通して色々指摘を受けたことは，クリニックとは組織を運営していくものであって，その組織の中でいろんな葛藤があって，“人の問題”が生じる．実際，そういった人の問題というのはデリケートなところがあってなかなか赤裸々に語られることもないため，Part Ⅰに関しては本当にそこのところが裏表なく率直な思いが書かれているといった点で，そこのところに非常に感銘を受けたという声をたくさんいただきました．

12 人のドクターが開業すると，もちろん12 人のドクターのストーリーがある．そのストーリーの中でいろんな悲喜こもごもがあるわけですが，そういったプロセスにおいて，もちろん経営とはクリニックと同様に右肩上がりにどんどんいくわけもなく，実際，去今のコロナ禍においては2021 年3 月現在，いつ第四波が来るやもしれず，診療所やクリニックレベルでは非常に大きな打撃を受けていることだと思います．その中で院長自身だけが頑張るのではなく，院長とともにスタッフが一緒に力を合わせて頑張るということが，求められてくる時代になるのではないか，コロナ禍において以前とやり方がすごく変わって診療のあり方もすごく変わってきたと思います．そういった時代の流れ，潮流の変化はこれからも続くと思いますし，変化に対して一番，もちろん鋭敏なのは経営者であり，トップである院長ですが，それだけではなく周りのメンバー，スタッフが一致団結してクリニックの将来を主体的に考えることができないとなかなか臨機応変に対応できないのではないかと思っています．

私自身は，来たるAI の時代に計算をしたりだとか，単純な学習の能力など，AI に負けることAI の作業で済んでしまうことはたくさんあると考えています，しかし，その中でも現時点ではAI に絶対勝つであろうことが二つあると私は感じています．一つは共感する心，思いやりの心です．人に寄り添う心はAI というロボットでは決してなり得るものではなく，心と心のこもったコミュニケーションとは人間にしかできないものではないかと思います．もう一つは考える力です．昨日までの，過去の延長上ではない新しい取組みをしようとするのはAI では現状できません．これらを伝えることがこれからの時代にますます求められるのではないかと思っています．そうなると，有名なドイツ宰相ビスマルクの「賢者は歴史に学び愚者は経験に学ぶ」という諺にある通り，歴史の中で我々のクリニックを見てみると，日本には10 万件のクリニックがある一方で直近では年間7,000 件が開業し6,000 件が閉業しているというような状況です．その中で10 万人いたら，やはり10 万人のストーリーがあってステージがあるのですが，ドクターの場合，いろんなプライドが邪魔をしてなかなか自分自身の経験をすべてをオープンに出す機会がないのではないか，実務の経験に触れる機会が少ないのではないかというのもあってPart Ⅰを書きました．冒頭でも申したとおりそれが本当に非常に好評になり，仲間であるM.A.F のメンバーにもお声をいただいて今回第2 弾を出版の運びになったのです．

そういったさまざまなストーリーの経緯を見ながら先生方におかれましては，次世代のクリニックを運営する上での一つの糧，一つの気付きになれば幸いだと思っています．

最後にイギリスの生物学者チャールズ・ダーウィンの「最も強く生き残ったものは，最も力が強かったものではなく，最も頭が良かったものではなく，最も変化に対して適応するものが生き残った．それが我らの祖先である」という言葉こそがこれからのコロナ禍における重要なことだと思っています．私はこのダーウィンの言葉を胸に，これからの時代変化に対してどう生きていくかをこれからも考えていきたいと思います．本編をどうぞお楽しみください．

2021年3月

開業医コミュニティM.A.F　主宰 医療法人社団梅華会グループ理事長 梅岡比俊