序

このたび，人工股関節全置換術（THA）の手術手技に関する書籍を作成する依頼を受けて，獨協医科大学埼玉医療センター整形外科の神野哲也先生，金沢大学大学院医薬保健学総合研究科整形外科の加畑多文先生と編集をさせていただいた．最初にこの依頼を受けた際にはTHAに特化した手術手技書を作成する企画であったが，本書の内容を考えるにつれて人工骨頭置換術（本書ではBHAと略す）も含めてビギナーも対象とした書籍がおもしろいのではないかと思うようになった．

現在，THAに関する教科書や雑誌は複数発刊されているが，BHAも一緒に解説している教科書は少ないように思う．特に，若手整形外科医が来週にBHAを初めて執刀することが決まった際に系統立てて勉強できるような教科書は少ない．本書は，そのような若手整形外科医が，手術の適応から始まりインフォームドコンセントの実際，術前計画，手術手技の実際，そして合併症対策を考慮した術後管理までを系統立てて学べる構成となっている．またTHAに関しても，初めて執刀する際に本書を紐解いていただければ，術前評価・術前計画から手術手技・術後管理までを学ぶことができ，インプラントのデザインなどに関しても勉強することができる内容となっている．

このような内容の書籍を作成するため，執筆者は現在，多くの手術を執刀している中堅の先生方にお願いした．実際には3名の編集者の施設もしくは関連施設の股関節外科医の先生方であり，内容についてはそれぞれの編集者が校閲を行っている．執筆者の先生方には，初めてBHAやTHAを行う先生でもわかりやすいように写真や図を多く用いて詳しく解説するようにお願いし，実際に手術を行ううえでのコツや注意点については実臨床のコツ「Clinical Tips」「point」「注意」として，また知っておくと便利な豆知識的な内容を「memo」として記載していただいている．どれも実際に手術を行ううえで役立つ実践的で有益な内容と確信している．本書の構成では，BHAとTHAを全く独立させて掲載することは難しいため，アプローチやステム手技，術後合併症対策・術後管理については共通項目とした．初めてBHAやTHAを施行する先生方は，最初からそれぞれの手技に必要な部分を読み進めていただければ，術前準備・計画から手術手技，術後管理までを一連として勉強できるはずである．また，すでにBHAやTHAを行っている先生方にとっても知識の整理や新しい情報の取得に役立つものと考える．ビギナーから中堅の先生方にとっても読みやすい構成になっているので，本書が今後のBHA，THA の成績向上の一助になれば幸いである．

最後に，発刊のために執筆のご努力をいただいた先生方や大家有紀子様をはじめとした羊土社の方々に深謝いたします．

2021年2月

編者を代表して
横浜市立大学整形外科
稲葉　裕