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在宅医療の事例30 暮らしの場で提供される 超高齢社会の生活モデル医療

  • ページ数 : 154頁
  • 書籍発行日 : 2021年2月
  • 電子版発売日 : 2021年4月28日
3,300
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商品情報

内容

在宅診療のあり方を患者・家族支援例に学ぶ

超高齢化社会で、疾病構造は変化している。高齢者は慢性疾患を複数抱え、医療の役割は臓器を治すことより患者のQOLの維持になった。在宅医療は人生の最終段階まで伴走し、「治し、支える医療」を提供する。その草分けとなる著者が30の症例を紹介し、生活モデル医療を考察する。

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序文

はじめに

月が過ぎ去ろうとしても収束する気配を見せていません。市民の中にジワリと腰を落ち着かせ、浸透しています。改めてカミュ『ペスト』を読みました。「誰もがめいめいのうちにペストを持っている。なぜかというと世の中に誰一人、その病気をまぬがれる人はいないのだ。健康とか無傷とか何なら清浄といってよいが、そういうものも意思の結果で、今日では誰もがペスト患者になっているのだから。しかしまたペスト患者でなくなろうと欲する若干の人々は、死以外にはもう何者も解放してくれない極度の疲労を味わうのだ」。(宮崎嶺雄訳、新潮文庫版)

2020 年3 月、コロナ感染を受け入れている病院から、がん患者さんが38 度の発熱の状態で退院してきました。私たちは完全防御で訪問を開始しました。家族は日常性の中で私たちを迎え、何ら感染防御もしていません。その後、安らかな看取りができましたが、訪問する私たちは完全防御し、家族は日常生活の中にいます。その意味するものは何であったのでしょうか。日常生活の中に存在する在宅医療が特別な医療に転化してはならないのです。その後のコロナの感染状況の中でも在宅医療は継続します。そのシーンは何ら変わることなく、コロナ感染の鑑別診断は、単に私たち在宅医療を行う者にとって必要ですが、在宅で暮らす最期の段階にさしかかった人にとっては、そんなことはどちらでもよいのではないでしょうか。考えてみれば家で病気を治すことを妨げているのは、こうした私たち医療者の常識でしょう。この常識の転化には、多くの時間を必要としました。

大学病院等の救急救命センターを掛け持ちする外科医が私の医師としてのスタートでした。脳卒中やがんの患者さんの「命を救う」ために手術をし、経管栄養やバルーンカテーテル、点滴といった大病院ならではの治療を行い、その後も様々な病院で医療に携わりました。もっと地に足をつけて地域医療に取り組みたいと思い、1990 年に国立市で新田クリニックを開院しました。本書に登場する三上看護師長は、開院当初からの悩みを共有する仲間です。そして今、宮﨑副院長もその志を受け継ぎ、思いを共有しています。

1990 年代前半、他の病院を退院した患者さんを訪問した時、自宅でも入院中と同等に近い療養ができるようにさまざまな手配をして、家族や周囲の方たちに療養を指導しました。どこにいても同じレベルの医療を提供することが重要だと思っていました。今思うと、家族の方たちにとても大きな負担をかけていたのかもしれません。数年の間に、その考えが間違いであることに気づいたのです。

一人ひとりの症状が違うように、暮らしも一人ひとり異なります。日々、多くの高齢の患者さん宅に訪問する中で、在宅医療では、治療するだけではなく、むしろその患者さんの「生活を支える」ための医療を模索し、穏やかな死も含めて、人間の命を考える中でそこにも思いめぐらすことが必要だ、との思いを深めました。

中でも、在宅で暮らす認知症の方をどのように支えるのかに苦慮しました。在宅で生活する認知症の方を支援するため、1997 年に地域の社会福祉協議会の協力の下、市内の古民家を借りて宅老所「つくしの家」を開設しました。つくしの家は、数名の認知症の方たちが日中に来て過ごし、夕方には家に帰る、今でいうデイサービスのような場所です。毎日6~7名の方が来て、それぞれの時間を、その人なりに過ごしてもらいました。当時の認知症の方に対する医療は、周辺症状(BPSD)を抑えるための薬物治療が中心でした。つくしの家に来ている認知症の方たちにもBPSD はありましたが、過ごすうちに徐々に改善して、投薬を減らすことができました。さらに、表情が豊かになり会話もできるようになっていきました。支援者が生活を支えることで認知症の症状が軽減することを知り、在宅医療にとって生活支援は必要不可欠なものであることを学びました。

考えてみれば、患者さんと家族に教えられた毎日でした。外来・入院では理解できない、学ぶことができないと確信すると同時に、支える側として在宅医療は人の生き方・生きがいを支える総合力が必要であり、人は最期までその人なりの生き方をすべく自立尊重が重要であることも知りえました。

本書では多数ある中のわずかな事例しか提示できませんが、その事例ごとに人生があり、また楽しみや苦痛も存在します。これは人生の物語なのです。


2020年12月

新田國夫

目次

第1章 在宅医療の歴史──生活モデル医療を求めて

1970年代まで▶医療機関での治療が普及

1980年代▶病院志向が強まる

1990年代▶在宅医療の黎明期

・コラム 在宅医療関連の団体の発足

2000年代▶介護の社会化が実現

2010年代▶在宅医療の充実期

・コラム 日本在宅ケアアライアンス

第2章 在宅医療の事例──生活モデル医療の実践

事例1 認知症はあるものの拒否が少なく、穏やかに暮らす

事例2 亡くなる直前まで生活を楽しみ、在宅看取りとなった

事例3 在宅サービスをフル活用し、独居で暮らす

事例4 介入拒否でも根気よく訪問、環境を整備し落ち着きを取り戻す

事例5 最期について家族と話し合い、老人ホームで看取り

事例6 大腸がんで在宅緩和ケア、母親との面会後に息を引き取った

事例7 デイサービス利用で妻とほどよい距離感を保つ

事例8 難聴の妻が夫を看る老老介護を経て有料老人ホームへ

事例9 夫が転倒骨折から寝たきりとなり、夫婦で施設へ

事例10 夫婦でサ高住に暮らすも、夫の転倒骨折から老健へ

事例11 サ高住で暮らし、娘との外出が気分転換に

事例12 治療も検査も拒否、末期がんで在宅看取りに

事例13 看多機の「泊まり」を活用し療養から看取りまで

事例14 大腸がんステント治療後、看多機で看取りとなった

事例15 大腸がん切除後に人工肛門設置、看多機に退院して看取り

事例16 入退院を繰り返した後、看多機で看取りとなった

事例17 息子の望みを尊重し最期は病院で亡くなる

事例18 精神疾患の次男と支え合いながら

事例19 長男が介護に専念し、自宅での看取りとなった

事例20 車椅子の長男と二人三脚で暮らし続ける

事例21 介護を一手に引き受けた長男が自宅で看取った

事例22 同居する長男が徐々に変化し積極的に介護

事例23 重度の認知症で拒否が強いが状態を維持している

事例24 近居の息子2人が交替で老親をケア

事例25 大腸がんの術後、長女に見守られ自宅で亡くなった

事例26 末期のCOPDで肺炎を繰り返す

事例27 外に出ず認知症が進行し尿路感染を繰り返す

事例28 脳梗塞の後遺症で右麻痺夫が献身的に介護

事例29 周囲が要所要所で見守り、マイペースな暮らしを維持

事例30 骨折して入院し転院意識状態が悪化した理由は

第3章 2025年から2040年に向かって──医療モデルから生活モデルへの転換

1 医療モデルと生活モデル

2 生活モデルにおける多職種連携・統合

3 患者の意思決定への関わり方

4 高齢者と入院をめぐる考察(入院関連機能障害:HAD)

5 Evidence-basedMedicine(EBM)とNarrative-basedMedicine(NBM)

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書籍情報

  • ISBN:9784840475136
  • ページ数:154頁
  • 書籍発行日:2021年2月
  • 電子版発売日:2021年4月28日
  • 判:A5判
  • 種別:eBook版 → 詳細はこちら
  • 同時利用可能端末数:3

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