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除菌後胃がんを見逃さない! H.pylori既感染者の胃内視鏡診断アトラス

  • ページ数 : 280頁
  • 書籍発行日 : 2021年4月
  • 電子版発売日 : 2021年5月19日
7,480
(税込)
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商品情報

内容

目で見て覚える既感染者の胃粘膜・胃がん状態!

H.pylori除菌治療の保険適用拡大(2013年)に伴い、既感染患者の胃粘膜・除菌後胃がんの所見に出会う機会が増えています。ただ、スクリーニングを行う施設でそれらを十分にフォローできていないことも現状です。スクリーニングで胃がんリスクが高いH.pylori現感染例の内視鏡観察は引き続き重要ですが、増加しているH.pylori除菌後例に対応する術を持っておく必要があるでしょう。
本書では、既感染患者の胃粘膜を内視鏡で的確にスクリーニングするために、判断に迷う症例や見逃しがちな症例を写真を中心に紹介しています。「このような所見なら注意が必要なのか!」と新たな発見があったり、改めて学んだりすることのできる参考書です。

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序文

はじめに


胃がん発生にH. pylori 感染が重要な役割を果たしていることに異論はないであろう。1983年に発見されたH. pylori は、その後の多数の研究で消化性潰瘍のみならず、胃がん発生との強い関連が示された。1991年に報告された複数の疫学的研究などをもとに1994年には世界保健機関(WHO)の下部組織である国際がん研究機関(IARC)は「H. pylori は胃がんの“definite carcinogen”」とコメントした1)。その後、Uemura ら2)は2001年に病院受診患者を対象としたコホート研究で、H. pylori 未感染者からの胃がん発生はなかったが、現感染者からは0.5%/年の割合で胃がんが発生したことを報告した。また、Matsuo ら3)は3,161 例の胃がん症例を対象として、H.pylori 感染状態を既感染も含めて厳密に検討した結果、H. pylori 未感染胃がんは21 例(0.66%:95%信頼区間〈CI〉:0.41-1.01)にすぎなかったことを報告した。

人におけるH. pylori 除菌による胃がん発生予防効果に関しては、Uemaura ら4)の早期胃がん内視鏡治療患者を対象とした、除菌による二次がん発生予防の報告が最初と思われる。その後、わが国で多施設共同無作為化比較試験を行い、早期胃がん内視鏡治療後患者においては、ハザード比0.339(95%CI:0.167-0.729)で二次がん発生率が低下することを示した5)。そして、2014年IARCはH. pylori 除菌による胃がん予防策を推奨した6)。また、「がん予防重点健康教育及びがん検診実施のための指針(厚生労働省健康局長通知:平成28年2月4日一部改正)」では、「胃がんに関する正しい知識並びに胃がんと食生活、喫煙、ヘリコバクターピロリの感染などとの関係の理解等について」健康教育を行うように、また、「除菌等の一次予防と二次予防(検診)を緊密な連携を確保し」実施するように示されている。

日本では、2000年に胃潰瘍・十二指腸潰瘍に対してH. pylori 保険診療が認められ、2010年に早期胃がん内視鏡治療後胃・胃MALT(mucosa associated lymphoid tissue)リンパ腫・特発性血小板減少性紫斑病(現・免疫性血小板減少症)に適用拡大された。そして、2013年に保険適用が慢性胃炎に拡大されてからは、多くの人が胃がん発生予防を期待して除菌治療を受けている。

しかしながら、Kamada ら7)は後ろ向き研究で除菌後の胃がん発見率は0.2%/年であったと報告し、Uemura ら2)の報告の感染持続者の0.5%/年に比べ半減しているものの、除菌後に発見される胃がんも少なくない。また、Ford ら8)はメタアナリシスで、胃がんや消化性潰瘍のないH.pylori 胃炎のみに対する胃がん発生予防効果は有意差は認められたものの、リスク比は0.66(95%CI:0.46-0.95)と限定的であったと報告している。すなわち、除菌により医療終了でないことは明らかであり、除菌後のサーベイランスの重要性を啓発しなければならない。

一般財団法人淳風会の3施設では日本消化器内視鏡学会のJapan Endoscopy Database(JED)登録に参加している。その中では胃粘膜萎縮の程度(木村・竹本分類)とともにH. pylori 感染状態の記載は必須となっている。2019年10月~ 2020年3月の6か月間に人間ドック・健診・検診で内視鏡スクリーニングを行った12,392例のH. pylori 感染状態を図1 に示す。何らかのH. pylori検査の陰性結果があり、内視鏡所見も未感染を示唆する受診者が31%あった。また、H. pylori検査未検が29%を占めていたが、当施設では内視鏡でH. pylori 感染を疑う受診者については以前から積極的にH. pylori 感染診断を行っており、この未検のほとんどが未感染と思われる。また、H. pylori 除菌成功後の受診者が31%を占めていた。一方、H. pylori 現感染者は5%と非常に低い割合となっている。この背景のもと、発見する胃がんのH. pylori 感染状態をみても現感染例が減り、除菌後例が次第に多くなっている。胃がんスクリーニングのあり方の転換期を迎えていると思われる。

今後も、スクリーニングにおいて胃がんリスクが高いH. pylori 現感染例の内視鏡観察はもちろん重要であるが、増加しているH. pylori 除菌後例への対応もさらに大切であり、本書を上梓することとなった。その編集において、胃粘膜状態や胃がんについて卓越した学識を有し、除菌後胃がんを多数経験している先生方に執筆をお願いした。明日からの検診や健診、人間ドックのスクリーニング、また、診療の最前線で活用いただけるものと期待している。


2021年3月
淳風会健康管理センターセンター長
井上和彦




参考文献

1) International agency for research on cancer. IARC monographs on the evaluation of carcinogenetic risks to humans. Schistosomes, liver flukes and Helicobacter pylori. 1994; 61: 218-220.

2) Uemura N, et al. Helicobacter pylori infection and the development of gastric cancer. N Engl J Med. 2001;345: 784-789.

3) Matsuo T, et al. Low prevalence of Helicobacter pylori-negative gastric cancer among Japanese. Helicobacter.2011; 16: 415-419.

4) Uemura N, et al. Effect of Helicobacter pylori eradication on subsequent development of cancer after endoscopic resection of early gastric cancer. Cancer Epidemiol Biomarkers Prev. 1997; 6: 639-642.

5) Fukase K, et al. Effect of eradication of Helicobacter pylori on incidence of metachronous gastric carcinoma after endoscopic resection of early gastric cancer: an open-label, randomized controlled trial. Lancet. 2008;372: 392-397.

6) IARC Helicobacter pylori working group: Eradication as a strategy for preventing gastric cancer.International Agency for Research on Cancer; 2014 (IARC Working Group Reports, volume 8).

7) Kamada T, et al. Clinical features of gastric cancer discovered after successful eradication of Helicobacter pylori: results from a 9-year prospective follow-up study in Japan. Aliment Pharmacol Ther. 2005; 21: 1121-1126.

8) Ford AC, et al. Helicobacter pylori eradication therapy to prevent gastric cancer in healthy asymptomatic infected individuals: systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials. BMJ. 2014; 348:g 3174.

目次

監修者・編集者・執筆者一覧

監修のことば

はじめに

Ⅰ章 H. pylori 感染と胃粘膜状態の変遷

1 スクリーニング検査でみられる胃粘膜状態

 A 「胃炎の京都分類」からみた人間ドック受診者の胃粘膜状態に関する検討/鎌田智有

 B 人間ドック受診者の胃粘膜状態(総合病院健診センターでの検討)/小林正夫

 C 対策型内視鏡検診における胃粘膜状態/平川克哉

 Note 1 胃がんリスク層別化検査:ABC(D)分類の各群の占める割合の時代的変遷/井上和彦

2 スクリーニング検査で発見された胃がんの胃粘膜状態

 A 人間ドックにおけるH. pylori 感染状態と発生胃がん/吉村理江、吉村大輔

 B 人間ドック・健診・検診で発見された胃がんの胃粘膜状態/井上和彦

Ⅱ章 除菌後にみられる胃粘膜と胃がん発生リスク

1 除菌後の内視鏡所見と組織学的変化

 A びまん性発赤の改善について/寺尾秀一

 B 体部小彎の萎縮粘膜について/中島滋美

 C 地図状発赤・斑状発赤の所見について/川村昌司

 D 除菌後にみられる胃底腺ポリープ様隆起/井上和彦

 E 組織学的胃炎の改善状況/兒玉雅明、村上和成

 Note 2 除菌後の胃X 線像の特徴̶これを見れば、除菌後胃粘膜だ!/伊藤高広

 Note 3 除菌後の血清マーカー(ペプシノゲン、ガストリン、H. pylori 抗体価)/井上和彦

2 除菌後の胃がん発生リスク

 A 除菌による早期胃がん内視鏡治療後の二次がん発生低下/加藤元嗣

 B 胃がんの既往歴のないH. pylori 感染者(消化性潰瘍の既往を含む) に対する除菌による胃がん発生の抑制効果/武進

Ⅲ章 除菌後胃がんの特徴と内視鏡観察のコツ

1 除菌後胃がん発生のリスク

 A 除菌前の胃粘膜状態で除菌後胃がん発生リスクが予測できるか?/鎌田智有

 B 除菌後の胃粘膜状態で胃がん発生リスクが予想できるか?/間部克裕

2 除菌後胃がんと現感染胃がんの比較

 A 除菌後に発見される胃がんの特徴/小泉英里子、貝瀬満

 B 除菌後に発見される胃がんの特徴(分化型がんを中心に)/小刀崇弘、田中信治、伊藤公訓

 C 除菌後に発見される胃がんの特徴(未分化型がんも含めて)/小林正明

 D 除菌後に発見される進行がん/矢田智之

3 除菌後胃がんを見逃さないためのコツ

 A 検診・総合健診におけるスクリーニング検査/青木利佳

 B 経鼻内視鏡によるスクリーニング検査/河合隆

 C LCI (linked color imaging)、BLI (blue laser imaging) を用いた観察/小野尚子

 D NBI (narrow-band imaging) 観察・拡大内視鏡による観察/小林正明

Ⅳ章 未感染胃がん、その他の内視鏡所見

1 未感染胃がんの特徴と内視鏡所見

 A 褪色調を呈する印環細胞がん/小刀崇弘、田中信治、伊藤公訓

 B 胃底腺型胃癌/上山浩也、永原章仁

 C 食道胃接合部がん(Barrett 腺がんを除く)/向井伸一、永田信二

 D ラズベリー様腺窩上皮型胃がん/柴垣広太郎

2 H.pylori 以外の原因による胃炎と腫瘍性病変

 A NHPH (Non-Helicobacter pylori Helicobacters) 感染による胃炎と腫瘍性病変/間部克裕

 B 自己免疫性胃炎(A 型胃炎) と腫瘍性病変/丸山保彦


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書籍情報

  • ISBN:9784765318662
  • ページ数:280頁
  • 書籍発行日:2021年4月
  • 電子版発売日:2021年5月19日
  • 判:B5判
  • 種別:eBook版 → 詳細はこちら
  • 同時利用可能端末数:3

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