パーキンソン病のDBS―術前評価,手術,術後のフォロー,その先へ

  • ページ数 : 148頁
  • 書籍発行日 : 2021年6月
  • 電子版発売日 : 2021年6月11日
5,280
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商品情報

内容

パーキンソン病の治療に脳深部刺激術(DBS)という選択を
順天堂大学 Movement Disorder Unitによる基礎から実践まで、すべてを網羅したDBSの決定版


運動合併症をはじめとした,パーキンソン病の諸症状に劇的な効果をもたらす脳深部刺激術(DBS).パーキンソン病患者のQOLを向上させるための治療のひとつとして,DBSという選択ができるよう,基礎から実践まで系統的に解説した.パーキンソン病のDBS治療のすべてを網羅した決定版.

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序文

序文

1961年にパーキンソン病(PD)患者に少量L-ドパ投与が行われた.その効果は劇的なものであったが,現在のL-ドパ治療が確立されるまでに6年の月日がかかった.そして薬物療法の前,1950年にSpiegelとWycisがPD患者にpallidotomyを実施した.さらにHasslerによりthalamotomyが行われたが,十分な成果を上げることができなかった.その後,楢林は独自の方法で1952年にPD患者にプロカインオイルを注入する方法でpallidotomyを行った.この症例は後にparkin変異陽性例であることがわかっている.その後,1969年にL-ドパ治療の確立により定位脳手術の需要は下火になるが振戦のひどい症例には重要な治療オプションとして実施されていた.そして1987年にBenabidらによりVim—DBSが行われ,1993年には同博士により現在の視床下核をターゲットにしたSTN—DBSがPD患者に行われ劇的な治療効果を示した.これら治療効果の検証に1982年に発表されたMPTPによるパーキンソン症状の発見が大きく貢献していることは言うまでもない.この神経毒MPTPによる疾患モデル作成が容易になったことでPDの基底核の生理学的検討も含めて病態研究が急速に進んだと言える.

現在DBSには大きくSTNとGPiの2つのターゲットがあるが,個々の症例によって選択すべきであると考えられている.我々順天堂大学ではジスキネジアやジストニアに関してはGPiをターゲットにすることもあるが,9割はSTN—DBSを実施している.今後は長期治療効果の持続が,課題として重要なポイントとなる.言い換えればDBS導入の時期決定が喫緊の課題と言える.これまで最後的手段として捉えられていたが,進行期PDの定義など客観評価の登場により導入時期や適応症例が科学的根拠にて決定されるようになってきている.順天堂大学では現時点では,L-ドパ服用回数5回以上,オフ時間2時間以上,トラブルサムジスキネジア1時間以上であればdevice aided therapyを検討することにしている.現在,基礎実験にて早期DBSの有効性について検討しており,導入時期も早期が有効になる可能性もあり,早期DBSの疾患修飾療法としての可能性がこれからの検討課題と考えている.

DBSもadaptive DBSも登場し,バッテリーも充電式があり選択肢は増えている.本書はDBSのみをターゲットに主に順天堂大学で行われている内容を記載しており,脳神経内科,脳神経外科,精神科の3科がチーム連携して適応症例決定プロセスなどに取り入れられている.本書によりDBSの有効性を認識してくれることを大いに期待している.


2021年3月

順天堂大学医学部脳神経内科教授 服部信孝


イントロダクション

1960年にパーキンソン病(Parkinson’s disease:PD)患者の脳内でのドパミン欠乏が発見されて以降はドパミン補充療法が行われてきたが,それ以前は定位脳手術(当時は破壊術)が行われていた.薬物治療が中心となっても破壊術は行われており,2000年になり,脳深部刺激術(Deep Brain Stimulation:DBS)が本邦でも保険収載され広く行われるようになった.DBSが行われるようになった背景にはそれ以前から,大脳基底核の基礎的実験が盛んに行われるようになったことと,それ以前の定位脳手術(破壊術)における経験がある.DBSは,PD治療においては比較的新しい治療方法であり,その治療手技の特徴(外科的手技による治療導入)のため,これまではあまり脳神経内科医の関与が少く,脳神経外科医としても,PDの薬物治療に精通しているわけではなく,またPD特有の神経症状を拾い上げることも得意ではなかった.

海外ではいくつかの優れたDBSの基礎,治療に関する良いテキストがあるが,日本語のものはこれまでに存在していなかった.本書は,これを読めばこれまでDBSを取り入れていなかった施設でも治療を導入することが可能となり,フォローする際も本書を参考にすれば困ることがない,というような教科書とすることを目指した.そのためには,順天堂大学でDBSを導入してから10年以上経過し,年間の症例数が多いこともあり,また内容の統一性を持たせるために,順天堂のMovement Disorder Unitのメンバーで作成することとした.著者リストを見ていただければおわかりになると思うが,本治療は,可能であればさまざまな領域の医療関係者に参加していただいたほうが治療成績が良い.そのなかでも,精神科医,リハビリテーション医,看護師の役割が大きい.当院ではDBSに関する基礎実験も同時に行っているため,その分野に精通している医師がおり,幸い順天堂大学脳神経内科の初代教授は楢林博太郎先生で,PDにおける定位脳手術では世界的大家であった歴史もあった.このような背景があったため,順天堂には多くのPD患者が集まっており,そのためDBSの適応となる患者も多く,さまざまな症例も経験してきた.

PDにおけるDBS治療は,薬物治療で困難な症状(主に運動合併症)に対して劇的な効果をもたらし,その効果は英国のDavid Marsdenをして奇跡といわしめるほどである.上手にPDの治療に取り入れることで患者にとってもハネムーン期をもたらすことが可能となる.しかし進行性神経変性疾患であるPDではいまだに疾患修飾治療(Disease Modifying Therapy)は存在しない.DBSも同様である.よって,患者のQuality of Lifeを向上させるための治療はすべて取り入れるべきである.長期成績がわからないなどの理由でDBSが行われていないのであれば,それは薬物治療による長期効果もあまりよくわかってない,もしくはその副作用が少しずつわかってきた段階であるため,それを理由にDBSを治療の一環として取り入れないという理由にしてはいけないように思う.ぜひ本書を読んでいただいて,DBSをPD治療の一環として取り入れていただければと思う.

下 泰司

目次

イントロダクション〈下 泰司〉

I章 DBSの実際

 1.パーキンソン病に対するDBSの歴史〈梅村 淳〉

  1.運動障害疾患に対する機能的脳外科治療の萌芽

  2.定位脳手術法の発展

  3.破壊術からDBSへ

  4.手術法やデバイスの進歩

 [Column]楢林博太郎先生について

 2.パーキンソン病のDBS:これまでのエビデンス〈下 泰司〉

  1.薬物治療との比較におけるエビデンス

  2.ターゲットの違いによるエビデンス

  3.長期成績

  4.適切な導入時期について

 3.DBSの適応(視床下核,淡蒼球内節,視床,PSAそれぞれについて)〈大山彦光〉

  1.DBSの適応

  2.視床下核(subthalamic nucleus:STN)−DBSの適応

  3.淡蒼球内節(globus pallidus internus:GPi)−DBSの適応

  4.視床内側腹側核(Vim)・posterior subthalamic area(PSA)の適応

  5.適応評価の実際

 4.術前の認知機能,精神症状の評価〈伊藤賢伸〉

  1.問診

  2.認知機能評価

  3.精神症状の評価をどのように手術に生かすか

 5.他のdevice aided therapyとの使い分け〈波田野琢,大山彦光,西川典子,下 泰司,服部信孝〉

  1.進行期パーキンソン病の問題点

  2.経腸的L−ドパ持続治療法について

  3.経腸的L−ドパ持続治療法の問題点と脳深部刺激療法との比較

  4.脳深部刺激療法と経腸的L−ドパ持続治療法との併用

 6.DBSデバイスの選択〈梅村 淳〉

 7.DBS手術手技〈梅村 淳〉

  1.DBS手術の実際

 [Column]マルチトラック法について

  2.手術合併症とその対応

  3.IPG交換手術について

 8.看護ケアのポイント〈小尻智子〉

  1.術前における看護

  2.DBS療法の周手術期における看護

  3.退院後の看護

  4.DBS療法における多職種連携

 9.様々な刺激方法〈梅村 淳〉

  1.単極刺激と双極刺激

  2.刺激パラメーターについて

  3.複数コンタクトを用いた刺激方法

 [Column]複数コンタクトを使用した刺激の実際

  4.Directional stimulation

 [Column]VTAの可視化について

  5.Adaptive DBS

 10.刺激開始方法,刺激調整方法〈加茂 晃,下 泰司〉

  1.刺激導入のタイミング

  2.刺激導入時のスクリーニング

  3.刺激開始

  4.中長期の刺激調整

 11.術後の精神症状についての注意点〈伊藤賢伸〉

  1.DBSに伴う精神症状

  2.対処・治療

 12.術後の薬物調整について〈下 泰司〉

  1.なぜSTN−DBSのみが抗パーキンソン薬の減量が可能であるのか

  2.STN−DBS後における薬物調整

  3.薬剤減量のスピードについて

  4.中長期的な薬剤調整

  5.どのぐらい薬剤を減量できるか

 13.術後のリハビリテーション〈佐藤和命,伊澤奈々〉

  1.PDに対する理学療法

  2.PDのDBS後のリハビリテーション

  3.当院におけるDBS周術期リハビリテーション

  4.DBS周術期のリハビリテーションにおける注意点

 14.術後トラブルシューティング〈大山彦光〉

  1.DBS患者に起こりうるトラブル

  2.トラブルシューティングの手順

  3.トラブルシューティング時の刺激最適化のポイント

 15.その他の運動障害疾患に対するDBS:振戦,ジストニア〈岩室宏一〉

  1.振戦

  2.ジストニア

 16.Case Study

 [Case 1.]運動合併症にSTN‒DBSが有効であった症例〈城 崇之〉

  1.症例

  2.考察

 [Case 2.]典型的GPi‒DBSの症例〈中村亮太〉

  1.症例

 [Case 3.]STN‒DBS導入後の難治性diphasic dyskinesiaと刺激誘発性dyskinesiaに対してGPi‒DBSの追加が奏効した症例〈関本智子,大山彦光〉

  1.症例

  2.考察

  3.結論

 [Case 4.]Device‒aided therapy導入の適応選択:DBSかLCIGか?〈佐々木芙悠子〉

  1.症例1

  2.症例2

  3.考察

 [Case 5.]Directional stimulationを用いたGPi-DBSにより良好な不随意運動コントロールが得られたGNAO1関連運動障害の17歳女性例〈小川 崇,山下由莉,下 泰司〉

  1.背景

  2.症例

  3.考察

II章 DBSの基礎と発展性

 1.パーキンソン病の病態生理学〈岩室宏一〉

  1.大脳基底核の生理

  2.パーキンソン病の病態生理

  3.各症状の発現機序

 2.脳深部刺激療法の効果発現機序〈中島明日香,下 泰司〉

  1.基底核運動回路の基本的な構造と機能

  2.パーキンソン症状の病態生理

  3.DBSの作用機序

  4.DBS効果の動態

  5.Adaptive DBS

 3.精神疾患に対する応用と現状〈中島明日香,下 泰司〉

  1.強迫性障害に対するDBS

  2.うつ病に対するDBS

  3.トゥレット症候群に対するDBS

  4.精神疾患に対するDBSの効果作用機序

 4.その他の疾患に対するDBSの可能性〈岩室宏一〉

  1.てんかん

  2.アルツハイマー病

  3.疼痛

  4.耳鳴

  5.その他

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書籍情報

  • ISBN:9784498328686
  • ページ数:148頁
  • 書籍発行日:2021年6月
  • 電子版発売日:2021年6月11日
  • 判:B5判
  • 種別:eBook版 → 詳細はこちら
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