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医学のあゆみ264巻5号 近未来のワクチン-開発研究の潮流と課題

  • ページ数 : 148頁
  • 書籍発行日 : 2018年2月
  • 電子版発売日 : 2021年7月14日
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商品情報

内容

近未来のワクチン-開発研究の潮流と課題
石井 健(医薬基盤・健康・栄養研究所 ワクチン・アジュバンド研究センター)


 明治維新から150年を数える2018年,翌年には元号が変わり,翌々年には東京オリンピックが開催される.世界のなかの日本において,普段の生活において,われわれの近未来はどのような世界になっているのであろうか? 戦争や災害はさておき,医学の分野では,地球温暖化,グローバル化に加え少子高齢化も相まって,新興再興感染症や多剤耐性病原体(AMR)の出現だけでなく,認知症やがん,アレルギー,希少疾患を含む難病など,治療(根治)が困難であるという問題だけでなく,医療経済の観点からみて,発症,病態の予測,予防が有効であろう疾患が増加してきている.これらの疾患に対し多くの医療対策や政策,そして医薬品開発が進んでいるが,本特集では,“温故知新”ともいえる医療技術である“ワクチン”,それも教科書やガイドラインにはまだ載っていない“近未来のワクチン”に焦点を当ててみたい.(序文より一部抜粋)

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序文

はじめに

石井 健

医薬基盤・健康・栄養研究所 ワクチン・アジュバント研究センター


ワクチンの開発研究の歴史はずいぶんと古いのだが,いまだに進化,深化し続けている.とくに近年進歩の速度は加速度を増している.ワクチンの主たるコンセプトである,“一度感染すると同じ病気には二度かからない『二度なし』の現象”は古代ローマ時代から知られていた.その時点から計算すると,牛に感染する牛痘をヒトに接種することでヒト天然痘に対する感染防御が可能であることを実験的に証明したE. Jennerの種痘ワクチンの発明まで,約20世紀かかったことになる.その後,種痘ワクチンは世界に普及し,日本では明治維新の少し前,1849年にその種痘の痘苗がオランダから長崎に導入されたことからはじまったといわれる.以後日本全国に種痘が普及してから1世紀半たった現在,天然痘は根絶され,この30年ほどで多くの感染症に対するワクチンが開発された.日本においては最近のワクチンギャップといわれるような紆余曲折はあったものの,2018年には約20種近いワクチンがvaccine preventable diseases(VPD)に対する予防接種として活躍している.これらのワクチンによって得られた医療上の,また経済的なベネフィットは計り知れず,ワクチンが“歴史上最大,最高の医学的発明”といわれる所以であろう.

ワクチンという発明は,後に多くの学問を生んだ.ワクチンの病原体を扱う微生物学,ワクチンの作用機序,つまり宿主免疫応答の二度なしの原理を追及する免疫学が生まれ,その後,生化学,分子生物学などにも間接的に影響を及ぼしているといえる.その主要な成果,たとえば細菌毒素の不活化,抗体の発見,鶏卵,細胞でのウイルス大量生産,抗原特異的免疫反応や自然免疫のメカニズムなどは,すべてノーベル賞の受賞につながったことも周知の事実である.

では,これからの近未来のワクチンはどうなるのか? この問いに答えるべく,本特集の内容が吟味された.まずは総論として,過去,現在から2018年以降近未来のワクチン開発研究の現状と課題を石井が概説し,同様に感染症ワクチンのアンメットメディカルニーズは何かを国立感染症研究所の神谷 元氏にお願いした.

ワクチンのコンセプトにもパラダイムシフトが訪れてきている.抗体医薬は現在の医療において多くの疾患における有効な生物製剤として確固たる地位を確立しつつあるが,その開発製造におけるコストが医療費に重くのしかかっていることも事実である.そのなかで,生体内で抗体という“生物製剤”を産生させることにもっとも長けたのがワクチンであり,コストや有効性,安全性の面であらたに脚光を浴びつつある.今回,抗体医薬の代替としての新規ワクチン技術の潮流に関して鍔田武志氏に執筆をお願いした.また,ワクチンの抗原探索技術もがんなどを筆頭にゲノム医療や個の医療の技術革新を追い風に,近年とくに進化のみられる領域であり,がんワクチン抗原技術の最近の動向を中心に大平公亮氏・垣見和宏氏に執筆をお願いした.同様のコンセプトで高血圧や糖尿病,動脈硬化などの生活習慣病に対するワクチン開発が盛んになっているが,その現状と課題を中神啓徳氏にお願いした.

ワクチンそのものの技術と平行して,投与ルートのあらたな開発研究も進み,粘膜免疫をターゲットとしたワクチン開発が盛んである.臨床試験に入り,あらたなステージに向かっているコメ型経口ワクチンに関して西村 潤氏らに,経鼻インフルエンザワクチンを中心に長谷川秀樹氏,経鼻結核ワクチンの開発研究を中心に辻村祐佑氏・保富康宏氏にグローバルな開発の現状も踏まえて概説していただく.自然免疫研究を軸にした粘膜アジュバントの開発研究を藤本康介氏・植松 智氏に,そして昨今メディア的にも注目を浴びている腸内細菌や栄養,サプリメントなどによる免疫制御を利用したあらたなワクチン開発を長竹貴広氏・國澤 純氏に執筆をお願いした.

さて,アンメットメディカルニーズや緊急性の高い感染症などの疾患や,現在開発が進んでいて,近い将来臨床応用される可能性のあるあらたなワクチン,近未来のワクチンについて,エマージングウイルスに対するワクチン開発を今井正樹氏ら,安全性の高い水痘ウイルスベクターを用いたワクチン開発に関して西村光広氏・森 康子氏,あらたなノロウイルスワクチンの開発の潮流と課題を片山和彦氏に,また,グローバルな医学的困難,危機に瀕している多剤耐性菌に対するワクチン開発を内藤慶史氏・佐和貞治氏に,結核とならびに三大感染症にもかかわらず,いまだに有効なワクチンが存在しないマラリアワクチンと,HIVワクチンの開発研究の潮流と課題を,それぞれ堀井俊宏氏,俣野哲朗氏にお願いした.

近未来のワクチンの紹介に加え,今回はワクチンの安全性に関するあらたな研究の潮流と副作用(ワクチン行政では副反応という言葉を使用しているが)に関する最近のゲノム科学的,生物学的,統計学アプローチを用いた研究成果をそれぞれ,濱口 功氏ら,押海裕之氏,多屋馨子氏にお願いした.

なぜ,いまワクチンの安全性研究が重要なのか? ワクチンが“歴史上最大,最高の医学的発明”と前述したものの,普段,ワクチンで予防できている疾患の負担に対し感謝の念をたえず思い出すことがあるだろうか? 残念ながら,平時のわれわれにはワクチンによっていろいろな感染症にかかる“リスク”がなくなる,減っているという“ありがたさ=ベネフィット”が実感できることはほとんどといってないだろう.逆にワクチン接種後に起きる有害事象(英語ではadverse eventなので,とてもいい日本語訳とはいえず,逆に多くの誤解を生じさせている)という“リスク”のみが抽出され,メディアや一部の医療関係者で議論されているのは心苦しい限りである.このような場合,多くが科学から論点が外れていき,行政の対策不足や失態,製薬企業への不満,不信などがメディアで議論されている.こうなると残念ながらサイエンスからのアプローチは,最新の統計学や免疫学をもってしても厳しいだろう.しかし,実際に副作用(副反応,有害事象を含む)に苦しむ患者がいるかぎり,この原因究明と医学的,経済的,社会的救済を真摯に続ける義務をわれわれは負っていることも肝に銘じて,近未来のワクチンを医学の貢献に生かしていければ幸いである.本特集が今後の予防医学におけるワクチンの科学的,臨床的意義の高まりと共鳴し,近未来のワクチン開発研究のポテンシャルの高さ,広がりが読後感となっていただければ幸いである.

目次

総論

近未来ワクチン:開発研究の新展開……石井健

わが国の感染症ワクチンにおける“真の”ワクチンギャップの解消とアンメットメディカルニーズ……神谷元

ワクチン技術とサイエンスの新潮流

抗体医薬の代替としての治療ワクチン……鍔田武志

がん抗原探索技術の基礎と臨床──次世代シーケンサーを活用したがん抗原の同定……大平公亮・垣見和宏

ワクチンアジュバントと粘膜ワクチンの基盤となる自然免疫細胞解析……藤本康介・植松智

免疫・ワクチン応答を左右する腸内環境因子としての栄養と腸内細菌……長竹貴広・國澤純

粘膜ワクチンの潮流と課題……西村潤・他

エボラ出血熱に対するワクチン開発の進展……今井正樹・他

ウイルスベクターを用いたワクチン開発……西村光広・森康子

各種ワクチン開発の潮流と課題

ノロウイルスワクチン開発……片山和彦

新しいインフルエンザワクチン開発……長谷川秀樹

多剤耐性緑膿菌に対する免疫療法──緑膿菌V抗原ワクチンの開発……内藤慶史・佐和貞治

粘膜免疫誘導型の結核ワクチン開発──ワクチンベクターとしてのヒトパラインフルエンザ2型ウイルスの可能性……辻村祐佑・保富康宏

グローバルに開発が進むNPC-SE36マラリアワクチン──BK-SE36マラリアワクチンの臨床開発……堀井俊宏

グローバルHIVコントロールに向けたワクチン開発……俣野哲朗

生活習慣病に対するワクチンの開発……中神啓徳

最新トピック

ワクチンの安全性試験の理論的構築……濵口功・他

ワクチンの有効性・安全性のバイオマーカー……押海裕之

ワクチン接種と稀ながら発生する副反応……多屋馨子

感染症新薬・ワクチン開発におけるGHIT Fundの取組み……鹿角契 詳細

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書籍情報

  • ISBN:9784006026405
  • ページ数:148頁
  • 書籍発行日:2018年2月
  • 電子版発売日:2021年7月14日
  • 判:B5判
  • 種別:eBook版 → 詳細はこちら
  • 同時利用可能端末数:3

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