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- 聴神経腫瘍・小脳橋角部腫瘍の手術とマネージメント
商品情報
内容
四半世紀にも渡り,聴神経腫瘍・小脳橋角部腫瘍手術の研鑽を積んできた著者の経験と技術が詰まった類のない1冊.本書は,知識の整理の部分と技術の部分をそれぞれ形式にこだわらずふんだんに盛り込んで解説している点が特徴的であり,他分野を目指す若手脳神経外科医にとっても,剥離や止血法など参考になる内容となっている.また,80本を超える著者の手術動画も収載し,視聴が可能だ.頭蓋底外科の匠の技を学べる決定版と言える.
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序文
まえがき
いつの頃からだっただろうか.多分,45歳の頃かもしれないが,いろいろな学会や研究会にお呼び頂いた講演後に,その手術をどう後輩に伝えてゆくのかという質問をたびたび受けるようになった.当初は,自分自身はまだ若手の頭蓋底外科医であり,手術をどんどん上手くなりたいと考えていた時期であり,その質問に大いに驚き,戸惑った覚えがある.自分の自覚と,同業者から自分に要求されているものが違うことにハッとし,それからは自分の手術の質を高めることに加えて,後進の育成ということを意識するようになった.
師匠は誰なのかと時に問われることがある.「師匠と弟子」という言葉も最近,耳にしなくなったが,医療の世界,特に外科系は手術の腕を問われる以上,当然のごとく師弟関係が消滅することはないと思われる.私の場合は,出身大学である浜松医大の植村研一教授(当時)の講義に魅せられて脳神経外科を選択するに至り,東京大学脳神経外科に入局後は,高倉公朋先生,桐野高明先生,斉藤延人先生の各教授に師事することとなった.また,初代教授の佐野圭司先生には富士脳障害研究所附属病院で部下として大変お世話になった.国立病院医療センター(現・国立国際医療研究センター病院),東京大学病院,茨城県立中央病院,東京都立神経病院で,多くの諸先輩方にご指導を賜り鍛えて頂いた.富士脳研病院では,当時副院長をされていた瀬川 弘先生に10 年近くおつき合いを頂き,種々の合併症に対する対応や予防策,脳卒中学,手術について本当に多くのものを吸収させて頂いた.私が小脳橋角部腫瘍・頭蓋底腫瘍の手術を専門とするようになったのは,脳外科5年目に東大病院に戻された当時,講師を務められていた佐々木富男先生(現・九州大学名誉教授)に負うところが大きい.聴神経腫瘍の手術を助手として何度も目の当たりにし,いつかは佐々木先生のように,耳鼻科医から信頼されて患者を任せてもらえるような医師になりたいという,直接の動機づけを頂いた.その後,福島孝徳教授,河瀬 斌教授,大畑建治教授,藤津和彦先生,永田和哉先生の他,Prof. M. Samii(INI,Hannover,Germany),Prof. M. Sanna(Piacenza,Italy),Prof. R. Jackler(Stanford Univ., CA,USA),Prof. H. Silverstein(Sarasota,FL,USA),Dr. W. Hitselberger(House Ear Institute,LA,CA,USA)を訪ねて手術見学をさせて頂き,彼らの「いいとこどり」をして私自身のスタイルを作り上げてきた.特に福島先生には,North Carolina,West Virginia と米国でお世話になっただけでなく,東京でも何度も手術を見学させて頂き,止血の効いた美しい手術から多くのものを学ばせて頂いた.そしていつのまにか時が過ぎ,自分自身も年齢とともに立場が変わり,富士脳研,東京警察病院で約25名の若手脳神経外科医と暮らし,2013年4月からは東京医大の多くのメンバーと仕事をさせてもらっている.東京警察病院,現在の東京医大で,今度は自分の手術を国内・国外の多くの先生方が見学してくれるようになった.いかに彼らの目に手術が易しいように映らせるか,苦しいように見せないかが,密かに私の目指すところである.
昔からよく,弟子は教えてもらうというより,師匠のやることを自分の目で学ぶものである,という風潮がある.そして,ある日突然,「やってみるか?」と急に表舞台に立たされ,準備ができている人とそうでない人の明暗がくっきりするというストーリーが展開される.医療の世界では,技術の伝承と医療安全の確保という,相矛盾する2 つの命題をいかにバランスよく両立させていくかが常に課題となる.臨床の現場では失敗が許されない以上,事が起こる前にそれを見越して指導したり,交代するという方式にならざるを得ない.患者さんを扱わせて頂いている以上,甘さは厳禁であり,仲良しクラブであってはダメなのである.私が弟子に要求するのは,大きな手術をさせてもらったら,その日はその患者のために使い,術後は病院に泊まって何度も足を運ぶという,術者として当然のことである.働き方改革が叫ばれ,パワハラに敏感となった現代においては,このようなことは声高に言えなくなってしまったが,手術を受ける患者の身になれば,人から言われる前に自主的に行うべき当たり前のことである.何と言っても,人間にとって最も重要な場所で,トラブルが起これば生命に直結する「脳」を手術させてもらっているのだから.自分の目標が明確である医師にとって,その目標に確実に最も早く到達できる道は,その道のスペシャリストの弟子になることである.若手医師にとって現在の医療環境は,ひと昔のように大学の枠や垣根にとらわれずに,自分の意志によって自由に行動しやすい環境,言い換えれば,自分のプロフェッショナリズムを追求しやすい環境にあると言える.医療の世界では,師匠が苦しみ抜いた10~20 年分のあらゆる経験から得られたエッセンスを,弟子はそのまま吸収することができ,ましてや手術ビデオが存在する脳外科であれば,師匠を超えることはむしろ,弟子の責務である.上達の一番の早道は,「師匠と同じ空気をいかに長く吸うか」ではないかと思っている.
以前に,雑誌「脳神経外科」(医学書院)の「扉」を担当させて頂いた際に「何のために働くのか」という,およそ臨床医に似つかわしくないタイトルで,無謀にも自分の考えを世に問うてみたことがある.何のために働くか? の問いに対する自分の出した当時の答えは,「自分がこの世に生を受けたことの意義を少しでも高めるため」とした.その「意義」とは,技術専門職である以上,自分が得意とする技術をなるべく多くの患者に提供して満足してもらうこと,その技術や臨床に対する姿勢を後輩に伝承していってもらうことを意味している.その後もいろいろな経験を重ねてきたが,現時点でもその答えは変わっていない.今回の本の上梓も,自分の持っている範囲での出力に限られるが,自分の考え方や経験を後輩に伝える手段の一つと考えている.
本書には,知識の整理の部分と技術書の部分を形式を問わず詰め込んであり,このアンバランスさが特徴とも言える.頭蓋底外科や聴神経腫瘍手術だけでなく,他の分野を志している若手脳神経外科医にも,剝離や止血法など,参考になれば幸いである.手術ビデオをふんだんにDVD に収めてあるので,本書とビデオから,河野という一人の脳神経外科医の手法を参考にして頂ければ望外の喜びである.
最後に,本書の出版にあたり,12 年前に本書執筆のご依頼を頂き,長い年月を辛抱強くお待ち頂いた中外医学社の小川孝志取締役,専門家としてのアドバイスを頂いた各先生方(「本書の使い方」にてご紹介),表紙に筆者の手術ビデオを元にしたイラストの掲載に快く応じて頂いた馬場元毅先生,自著の引用転載を快くご許可頂いた各出版社,筆者に神経耳科学を一から徹底的に指導して頂き,常に相談相手となって頂いた米山秀彦先生,術中モニタリングを最初の一例目からおつき合い頂き,ご指導頂いた故・谷口 真先生,そして,富士脳研病院・東京警察病院・東京医科大学でご一緒させて頂いた医師・技師・看護師の皆様に,心より感謝を申し上げる.
2021年7月
東京医科大学 脳神経外科学分野
主任教授 河野 道宏
目次
まえがき
本書の使い方
本書の動画視聴方法
筆者の手術シリーズ
略語一覧
Chapter 1 聴神経腫瘍・小脳橋角部腫瘍総論
1 小脳橋角部腫瘍の概念・定義
2 聴神経腫瘍・小脳橋角部腫瘍の治療方針
治療の選択とトレンド
手術総論
経過観察
放射線治療総論
定位的放射線治療のトピックス
3 手術アプローチ総論
4 道具・手術環境のセッティング
5 ドリルの使い方
6 頭蓋底外科における止血法
7 術前検査とその解釈
8 術中モニタリング
9 画像診断・変わり種の腫瘍
Chapter 2 手術アプローチ各論
1 外側後頭下到達法
2 Transmastoid approach
3 中頭蓋窩経由のアプローチ
4 Combined transpetrosal approach
5 Transcondylar approach
Chapter 3 聴神経腫瘍各論
1 聴神経腫瘍の特徴
2 聴神経腫瘍の診断・見逃さないための工夫
3 聴神経腫瘍の聴力障害・その他の症状
4 聴神経腫瘍の手術適応
5 聴神経腫瘍の手術ポリシーと手術成績
6 聴神経腫瘍手術・開頭と内耳道開放の考え方
7 聴神経腫瘍手術の流れ
8 剝離の技術論
9 手術上の工夫とコツ
10 顔面神経の再建・形成外科的手術について
11 聴神経腫瘍手術における内視鏡の導入
12 追加治療を要した症例群の検討
Chapter 4 小脳橋角部腫瘍各論
1 髄膜腫
2 三叉神経鞘腫
3 頸静脈孔神経鞘腫
4 顔面神経鞘腫
5 類上皮腫
6 グロームス腫瘍
Chapter 5 合併症の予防と対応
合併症の予防と対応
Chapter 6 聴神経腫瘍・小脳橋角部腫瘍のトピックス
1 聴神経腫瘍はepiarachnoid tumor かsubarachnoid tumor か?
2 Hypervascular vestibular schwannoma(HVS)
3 顔面神経の背側走行
4 放射線治療後の聴神経腫瘍の手術
5 聴神経腫瘍における耳鳴りの術後変化
6 聴神経腫瘍手術後に温存された有効聴力の予後
7 小脳橋角部腫瘍・聴神経腫瘍における術後の聴力改善
8 Neurofibromatosis type 2(NF2)のマネージメント
9 高齢者の聴神経腫瘍のマネージメント
10 聴神経腫瘍に関連した水頭症
Chapter 7 頭蓋底外科の脳血管病変への応用
頭蓋底外科の脳血管病変への応用
あとがき
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書籍情報
- ISBN:9784498328747
- ページ数:398頁
- 書籍発行日:2021年10月
- 電子版発売日:2021年10月29日
- 判:A4判
- 種別:eBook版 → 詳細はこちら
- 同時利用可能端末数:3
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