巻頭言

私は2014年から国家プロジェクト「戦略的イノベーション創造プログラム（Cross-Ministerial Strategic Innovation Promotion Program：SIP）」の農林水産部門である「次世代農林水産業創造技術：アグリイノベーション創出」，そのなかの「次世代機能性農林水産物・食品の開発」プログラムに参画している．わが国の農林水産物に次世代型新規機能性を見い出し，付加価値をつけることで農林水産業の活性化に貢献することが目的である．本プログラムの予算規模は5年間で約25億円，機能性食品の開発，医学的エビデンスの賦与を目的とした研究助成としては国内最大規模である．このなかで認知症（cognitive impairment：コグニ）と運動器障害（locomotivesyndrome：ロコモ）は重点対象となっており，糖化ストレスは両者の危険因子として位置づけられ，抗糖化作用を有する新規機能性食品の開発も期待されている．メタボリックシンドローム（metabolic syndrome：メタボ）は糖化ストレスの強い疾患の代表と位置づけられる．

一方，私の所属する一般社団法人日本抗加齢医学会においては機能性食品に関する研究，教育が大きなテーマになっている．機能性食品は同じ土俵の上での評価を行い，医学的エビデンスを積み上げてゆく必要がある．アンチエイジングを一言で説明すると「機能年齢の老化予防であり若返り」となる．身体の機能年齢（筋年齢，血管年齢，神経年齢，ホルモン年齢，骨年齢）と老化を促進する危険因子（酸化ストレス，糖化ストレス，心身ストレス，免疫ストレス，生活習慣）を評価したうえで，危険因子を是正し，機能年齢の老化予防と若返りを目指す．アンチエイジング指導では精神療法（知育）・運動療法（体育）・食事療法（食育）を基本とし，食事療法に位置づけられる機能性食品も適切に用いられることを目指している．機能性食品の意義を正しく理解し，どのような状況のときに何をどの程度摂取すると効果があるのか，真摯に学ぶ必要がある．

アンチエイジングにおける機能性食品は，第一に通常の食生活では不足している栄養素を補うこと，第二に身体機能（機能年齢）の維持・改善と老化危険因子を減らすことが目的である．機能性食品は食品に属するため副作用は少ない．しかし，十分足りている機能成分を過剰に摂取しても効果が得られないどころか，悪影響をもたらす．機能性食品に対する十分な理解が必要な所以である，

今回の企画ではSIPプロジェクトに参画する研究者ならびに抗加齢医学会の活動に従事する研究者にお声掛けした．「機能性食品とアンチエイジング」のタイトルにふさわしい執筆者にお集まりいただけたと思う．本企画が機能性食品の理解に役立つことを期待している．

同志社大学生命医科学部アンチエイジングリサーチセンター
糖化ストレス研究センター
米井 嘉一