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- 精神科薬物療法のプリンシプル
商品情報
内容
タイトル通り、精神科薬物療法の、行動原理のあるべき姿を示した一冊。
個々の薬物の特徴や投与法などについては機械的な記述はありません。そのかわり基礎的な知識については全体を俯瞰するような記述として、実際に処方に困るような場面については詳述されています。
薬剤名には、お手持ちの今日の治療薬の該当薬剤に飛べるリンクも貼られています。
序文
はじめに
いうまでもありませんが,精神科治療のうちで大きな部分を占めるのが薬物療法です.精神科医ごとにこの薬物療法に対する思い入れの強さは違うようですが,さすがにまったく薬物療法を行わずに精神科治療を行おうとすると,大きな壁に突き当たってしまうでしょう.少なくとも幅広い精神疾患を対象とする限り,薬物療法については十分な知識を精神科医は持ち合わせていなければなりません.では,ここでいう十分な知識とは何を指しているのでしょうか.
筆者はここでいう十分な知識とは,単に薬物の選択や投与法に詳しいことだけではないと考えます.むしろ,これらの知識を精神科治療全体の中でどう生かすかということであると思います.薬物の選択や投与法を知りたければ,治療ガイドラインを読めばよいのです.さらに個々の薬物の特徴については,添付文書を熟読すればすむことです.もっと簡単にすませたければ,たくさん出版されている薬物療法のハンドブックを白衣のポケットにしまわせていればよいでしょう.
実際に薬物治療を開始するときには,薬物の薬理学的特性や起こりうる副作用の特徴,患者・家族の好みや理解の程度,治療環境などたくさんの要因を考慮します.治療するにあたって薬物を使用すべきか,心理社会的な治療法のほうを選択すべきか,あるいはその両方が必要かなど,薬物療法開始以前にも検討すべきことも少なくありません.薬物の作用機序や薬物の動態や相互作用などの薬理学的な知識も必要です.しかし,あまりに作用機序にこだわりすぎると,いわゆる「コツ」や「裏ワザ」のような処方が増え,次第に漫然とした多剤併用や,独自の薬物療法に傾いていってしまうおそれもあります.エビデンスに基づいたと称する診療ガイドラインを尊重するにしても,それらが作成される仕組みや限界についても知っていたほうがよいでしょう.またいわゆるエキスパートの意見には利益相反の問題のあることにも留意したいところです.これらは,臨床家が常に臨床場面で持っている行動原理です.
本書は,若手の精神科医を対象として,この行動原理のあるべき姿を示してみたものです.筆者は本書を「精神科薬物療法のプリンシプル」と名付けました.プリンシプルというのは科学でいう公理・原理という意味のほかに,個人の行動規範という意味もあります.ここでは薬物療法を行うときの臨床家の行動原則といってよいでしょうか.したがって,本書には個々の薬物の特徴や投与法などについての細かく機械的な記述はありません.そのかわりに,薬物の薬理作用,薬物動態と相互作用の基礎的な知識については,全体を俯瞰するような記述としました.一方で,実際に処方に困るような場面(最初の薬物が無効な時,身体合併症患者や妊娠・授乳中の患者の薬物投与など)についてはかなり詳しく論じたつもりです.
本当は,薬物治療を開始する以前には適切な診断が必要です.ここで必要なものは単なる診断名ではなく,患者全体の情報を含んだ定式化です.そのための丁寧な診察と精神医学的な評価は,薬物の知識に劣らず重要であることはいうまでもありません.また薬物の情報は次々と発表されています.本書の執筆後にも重要な総説や副作用報告などが発表されました.しかし,ある時点で区切りをつけなければ,きりがありません.読者の皆さんにおいては,特に副作用については,厚生労働省や製薬企業などからの情報に注意してください.新しい情報を得る努力を惜しまない一方,メーカー色の強い情報には批判的であるべきでしょう.
本書は筆者の埼玉医科大学総合医療センターメンタルヘルス科での講義録を基にしています.討論をしていただいた教室の精神科医の皆さんと堀川直史教授に感謝いたします.
2012年4月
仙波 純一
目次
I章 薬物療法を始める前に
精神科薬物療法の考え方
精神科医が薬物療法を開始するということ
薬物療法の開始と患者への説明
薬物療法でもたらされる利点
効果発現までの時間
継続する期間
作用機序の説明
副作用の説明
どこまで説明すべきか
ごくまれではあるが重大な結果を引き起こす可能性のある副作用
特定の患者に起こりやすい副作用
過量服用による危険性
患者の述べる「飲み心地」
診断のつかないときにどうするか
保険診療における薬物療法のルール
添付文書の見方
適応外使用の問題
自動車の運転と精神科治療薬の使用
II章 薬理学からみた精神科薬物療法
1.精神薬理学とはなにか
精神薬理学の考え方
精神科臨床医のための神経科学の基礎
神経細胞とシナプスの構造
受容体
トランスポーター
臨床精神薬理学の研究法
遺伝薬理学(pharmacogenetics)
薬物代謝酵素の遺伝子多型
薬物の作用部位の遺伝子多型
脳画像研究
2.精神科治療薬の作用機序を理解する
抗うつ薬の作用機序
うつ病のモノアミン仮説
セロトニン・トランスポーター占拠率と臨床効果との関係
抗うつ薬の抗不安作用
気分安定薬の作用機序
抗精神病薬の作用機序
統合失調症のドーパミン仮説
ドーパミン受容体占拠率と臨床効果と錐体外路症状との関係
抗不安・睡眠薬の作用機序
3.薬物動態の考え方
薬力学
薬物動態への配慮
薬物動態学
吸収と分布
代謝
排泄
血中半減期と投与回数
シトクロムP450(CYP)
CYPを介した薬物の相互作用
Therapeutic Drug Monitoring(TDM)の意義
薬物相互作用による併用禁忌
抗精神病薬
抗うつ薬
気分安定薬
バルビツール酸系薬物
ベンゾジアゼピン系薬物
ラメルテオン
III章 EBMと診療ガイドライン
1.EBM
EBMにおける医学的根拠の吟味
症例対照研究
ランダム化比較対照試験
ランダム化比較対照試験の問題点
メタアナリシス
メタアナリシスの原理
漏斗プロット(funnel-plot)
メタアナリシスの問題点
治療効果発現必要症例数(NNT)
2.診療ガイドライン
診療ガイドラインの作られ方・書かれ方・比較・限界
診療ガイドラインの作られ方
診療ガイドラインの書かれ方
診療ガイドラインの比較
診療ガイドラインの限界
Efficacy(有効性)研究とeffectiveness(有用性)研究
Efficacy研究
Effectiveness研究
エビデンスのないときの治療
IV章 精神科薬物療法の実際 治療法各論
1.抗うつ薬
抗うつ薬の適応
抗うつ薬の種類
三環系抗うつ薬
セロトニン2Aアンタゴニスト/再取り込み阻害薬
四環系抗うつ薬
選択的セロトニン再取り込み阻害薬
選択的セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬
ノルアドレナリン作動性および選択的セロトニン作動性抗うつ薬
選択的ノルアドレナリン再取り込み阻害薬
ノルアドレナリン・ドーパミン再取り込み阻害薬
抗うつ薬の使い方
dual actionはsingle actionよりも有効か
抗うつ薬をどう使い分ける?
不安障害に対する抗うつ薬と抗不安薬
パニック障害
強迫性障害
社交不安障害
全般性不安障害
外傷後ストレス障害
摂食障害
抗うつ薬の注目すべき副作用
SSRIによる中枢のactivationと自殺への作用
抗うつ薬による身体疾患発症のリスク上昇
抗うつ薬の中止後症状
抗うつ薬による躁転
2.気分安定薬
気分安定薬の定義
気分安定薬の適応
気分安定薬の選択
気分安定薬の種類
リチウム
バルプロ酸
カルバマゼピン
オランザピン
アリピプラゾール
ラモトリギン
新しい気分安定薬候補
気分安定薬の併用
気分安定薬の副作用
リチウム
バルプロ酸
カルバマゼピン
ラモトリギン
3.抗精神病薬
抗精神病薬の受容体特性
第2世代抗精神病薬にEPSの少ないことを説明する理論
抗精神病薬の陰性症状・認知障害への効果
抗精神病薬の使い方
抗精神病薬の種類
フェノチアジン系抗精神病薬
ブチロフェノン系抗精神病薬
ベンザミド系抗精神病薬
その他の第1世代抗精神病薬
クロザピンおよびクロザピン様の抗精神病薬
SDAとよばれる抗精神病薬
ドーパミンD2部分アゴニスト
抗精神病薬の剤形
抗精神病薬の副作用
錐体外路症状
急性の錐体外路症状
急性アカシジア
遅発性の錐体外路症状
抗精神病薬の代謝系への副作用
高プロラクチン血症
4.抗不安薬・睡眠薬
抗不安薬
抗不安薬の使い方
ベンゾジアゼピン系抗不安薬の種類
例外的な抗不安薬:タンドスピロン
ベンゾジアゼピン系抗不安薬の離脱症状
睡眠薬
ベンゾジアゼピン系睡眠薬の使い方
ベンゾジアゼピン系睡眠薬の中止法
ベンゾジアゼピン系以外の催眠作用を持つ薬物
ラメルテオン
抗ヒスタミン薬
鎮静的な抗うつ薬を睡眠薬として使う場合
鎮静的な抗精神病薬を睡眠薬として使う場合
不眠に対する睡眠薬使用の問題点
精神疾患に伴う不眠をどう治療すべきか
睡眠薬を使用するときの患者や家族への説明の要点
ベンゾジアゼピン系薬物に共通する副作用と禁忌
ベンゾジアゼピン系薬物の問題点
わが国のベンゾジアゼピン処方の現状点
常用量依存の問題
漫然とした長期投与の予防と対処
同効薬を重ねて投与しない
頓用での使用は慎重にする
ベンゾジアゼピンをうつ病や統合失調症の併用薬として漫然と継続しない
どのようになれば終了するかをあらかじめ話し合っておく
V章 第一選択の薬物が無効であったときの薬物の変更・併用
1.薬物の変更・併用の考え方
第一選択薬が無効なときにどうするか
薬剤の併用の考え方
わが国の多剤併用の問題
polypharmacy,augmentation,combination
薬物を併用する目的
多剤併用に伴う「神経伝達物質ものがたり」
polypharmacyの落とし穴
2.薬物の変更(置換)の実際
置換のタイミング-効果の早期予測は可能か?
抗うつ薬の場合
抗精神病薬の場合
どのように置換するか
どのような薬に置換するか
抗うつ薬の場合
抗精神病薬の場合
3.薬物の併用の実際
薬物併用療法
抗うつ薬
気分安定薬
抗精神病薬
多剤となった薬物をどう整理するか
抗精神病薬
抗うつ薬
抗不安薬・睡眠薬
VI章 さまざまな場面での精神科薬物療法と留意すべき副作用
1.妊娠・授乳中の患者
妊娠中の薬物投与
妊娠中の抗うつ薬
妊娠中のベンゾジアゼピン系薬物
妊娠中の抗精神病薬
妊娠中の気分安定薬
授乳中の薬物投与
授乳と抗うつ薬
授乳とベンゾジアゼピン系薬物
授乳と抗精神病薬
授乳と気分安定薬
妊娠時の薬物療法の説明の要点
2.身体合併症患者
身体疾患の患者に対する薬物投与の原則
腎疾患
肝疾患
心疾患
心筋梗塞や心不全のSSRI投与
神経疾患
脳卒中
パーキンソン病
てんかん
呼吸器疾患
糖尿病と脂質異常症
3.高齢者
加齢による薬物動態の変化
高齢者に対する薬物療法の留意点
高齢者の精神障害に応じた配慮
高齢者のうつ病
高齢者の双極性障害
高齢者の不眠
せん妄
認知症に伴ううつ病
認知症に伴う焦燥・興奮などの行動障害
4.精神科治療薬による留意すべき副作用
まれではあるが重大な副作用
悪性症候群
セロトニン症候群
重篤な薬疹
気づかれにくい精神面への副作用
アカシジア・jitteriness
SSRIによるアパシー症候群
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書籍情報
- ISBN:9784521734897
- ページ数:314頁
- 書籍発行日:2012年5月
- 電子版発売日:2015年10月2日
- 判:A5判
- 種別:eBook版 → 詳細はこちら
- 同時利用可能端末数:3
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