私が医学部を卒業した20数年前，勉強しようとして手にする本は分厚い教科書か，難解な医学雑誌しかありませんでした．いくら向学心に燃えて本文を読んでもさっぱり内容が頭に入ってこず，自分の怠慢を棚にあげて「もっとわかりやすい本はないものだろうか？」と思ったものです．

そのようなことを考えていたところ，縁あって羊土社の月刊誌「レジデントノート」に連載を開始することになりました．もう６年も前のことになります．以来，ひたすらわかりやすく日常診療に役に立つ医学エッセイを書くことを心がけてまいりました．特に注意したのは次の３点です．

① 脳神経外科医だけでなく一般の医師が読んで役に立つコモン・ディジーズを中心にする

② 情報量が多くなりすぎて難解にならないようにする

③ 自慢話や説教は極力避け，できれば笑いをとる

ということです．

口に出して言った覚えはないのですが，いつの間にか羊土社か らの毎回の執筆依頼も
「親しみやすい文章で休憩時間に読める内容で，１回の掲載に１つの教訓を示す」
となり，期せずして私の意図が伝わっていたようです．

とはいえ，実際に連載をはじめてみると，ちょっとした医学的事実を確認するために本を何冊も調べたり専門家に教えてもらったりすることになり，案外，苦労させられました．「Teaching islearning」という言葉を実感した次第です．

さて，６年間のうちに書いたエッセイも60回に達し，ちょうどキリのいいところで１つの本としてまとめることになりました．とはいえ，この間にも医学の進歩，医療の変化というのは驚くべき ものがあります．執筆時に参考にしたアメリカ心臓協会の「ガイドライン2000」は改定されて「ガイドライン2005」になり，内容もすっかり変わってしまっています．ということで，すでに時代に合わなくなってしまった部分は思い切って捨ててしまい，合計42回分のエッセイに新たな図などを加えて１冊の本にしました．

読者の皆様は，休憩時間でも，当直室のベッドの上でも，あるいはトイレにしゃがんでいるときでも，気軽に本書を広げてみてください．１つの話を読むごとに「１つ賢くなった（ような気が する）」と感じてもらえれば，著者としてそれ以上に嬉しいことはありません．また，明らかな間違いや言葉の足りない部分は是非ともお知らせください．できるだけ皆さんの助言を生かしていきたいと思います．

最後になりましたが，本書を作成するにあたって助言をいただいた多くの先生方，羊土社の久本容子氏，保坂早苗氏，佐々木幸司氏，大政素子氏，中林雄高氏をはじめとした代々の担当者の皆様，そしていつも最初に原稿に目を通して励ましと適切なアドバイスを与えてくれた妻の中島和江に深く感謝いたします．

2007年３月

中島　伸