診療・研究にダイレクトにつながる 遺伝医学

  • ページ数 : 246頁
  • 書籍発行日 : 2017年4月
  • 電子版発売日 : 2018年5月18日
4,730
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商品情報

内容

病気を遺伝子から理解する。医療系大学の講義にも◎

ゲノムの基本から検査・診断・遺伝カウンセリングまで。患者さんと向き合うとき欠かせない知識をこの一冊に凝縮!医療者や医療系学生、医歯薬学系の研究者、更には人の遺伝に関心がある一般の方にも生かせる内容が満載です。

序文

はじめに

私たちは誰もが「ゲノム」とよばれる設計図をもっています.設計図の内容(ゲノム配列)も判明し,研究の成果であるゲノム情報は臨床検査として医療情報に活用できる時代になり,遺伝カウンセリングも医療の一部になってきました.私が属している日本医科大学付属病院においても遺伝カウンセリングを行う場である遺伝診療科が2003年に開設され,およそ15年になります.遺伝診療外来を受診される方々(患者さんよりも幅広く,来談者,クライエントとよびます)は,医療者からの紹介よりもご本人自ら希望されています.

一方,私たち誰もがゲノムをもつにもかかわらず,日本においては医療者だけでなく一般教養としてのゲノム情報を活用できる能力,「ヒトの遺伝」リテラシーには個人差が大きく,ときに誤解を生じています.英語では区別されるgene(遺伝子)とinheritance(継承・遺伝)が,日本語では同じ「遺伝」というキーワードで混同されがちなのがその一因でしょう.また,日本においては「遺伝」という語がもつ文化的・社会的イメージが先入観や偏見につながることもあり,これは私たち医療者のなかにも認められます.日本医科大学では,2002年より臨床科目(医学部4年生)の臓器別コースへの変更に伴い「臨床遺伝コース」が開講されました.開講にあたってどのような内容を扱い,どのような手法で行うかが検討されました.そのなかで,大学入学前に「遺伝」を習う中心の場である中等教育の生物未履修の学生が多くいたことも,遺伝医学への興味を低下させる要因となっていることも浮き彫りとなりました.

本書は,ゲノム医学・遺伝医学を鳥瞰し,内容をメカニズム,疾患,検査,治療,統計,最近の動向の6章に分け,日本の現状に合わせ記載しました.日本でもこれまでに先達が作成してきたゲノム医学・医療に関する指針やガイドラインが増え,本書のなかにリスト化しております.また,遺伝学用語に関しては,2009年に日本人類遺伝学会で改定された遺伝学用語を試みとして記載し,項目間の内容・用語の整合のために単著としました.

遺伝医学は診断や薬の選択のための検査や遺伝カウンセリングを受けるなどゲノム情報を活用する機会として誰もがかかわります.遺伝医学は難しい内容ではなく,ゲノム情報を活用するには誰もが知識としてもっておく必要があります.本書は,医療者や医療系学生,医歯薬学系の研究者さらにヒトの遺伝に関心がある一般の方々にも読まれることを期待しています.米国の医師国家試験(USMLE)には以前より遺伝医学が入っていましたが,日本においてもこの春に改訂される医学教育モデル・コア・カリキュラムには遺伝医療・ゲノム医療の項が増えることもふまえ,講義でもお使いいただきやすいよう,本書は準拠できる内容にしております.

医療の現場では,「知らないでいる権利」の尊重も求められています.しかしながら本人(個人)にとって知らないでいたい内容を判断するためには,一般的に認める(集団での)正しい知識の基盤が必要不可欠です.知識の差や誤解が,選択肢を知る機会の減少や誤った選択につながる可能性もあります.これから個別化医療・先制医療へと進むゲノム・遺伝の医療の現場では,国民皆が共通したヒトの遺伝に関する知識をもつことが期待されます.本書が,成人になるまでの初等教育,中等教育における「ヒトの遺伝」リテラシーのミニマム・エッセンシャルズをこれから決めていただくための契機にもなれば幸いです.

ゲノム医学教育はまだ道半ばです.遺伝医学全体を見渡した日本発の著書は少なく,本書の内容についても遺伝医学教育にとって過不足の点もあるかと存じます.編集部にご意見をいただけますと幸いです.本書が「ヒトの遺伝」リテラシー向上の機会の一つになり,読み継がれることになると幸いです.

本書の完成には多くの方々のお世話になりました.日本医科大学でご指導いただいている島田隆先生,岡田尚巳先生,また仕事を一緒にしていただいている佐々木元子様,川村摩椰様には本書の内容についてご意見をいただきました.札幌医科大学医学部遺伝医学櫻井晃洋教授には過分な推薦の言葉をいただいております.本書の執筆の機会をいただいた羊土社の尾形佳靖様,間馬彬大様には遅筆にもかかわらず忍耐強く励ましていただき,さまざまな工夫を取り込んでいただき,それなしでは本書の出版はありませんでした.ここにあらためて感謝の意を表する次第です.


2017年3月

渡邉 淳

目次

第1章 「ヒトのゲノム」を解剖する―染色体・遺伝子・DNA

概論

ヒトのゲノム① 染色体:常染色体と性染色体

ヒトのゲノム② ゲノムDNAと構造遺伝子

ヒトのゲノム③ ミトコンドリアとミトコンドリアDNA

細胞遺伝学① 細胞分裂:減数分裂・体細胞分裂

細胞遺伝学② 染色体の多様性:交叉・組換え

分子遺伝学① 遺伝子発現:セントラルドグマ

分子遺伝学② 転写

分子遺伝学③ 翻訳

分子遺伝学④ DNA損傷と修復

エピジェネティクスとインプリンティング

発生における遺伝子のかかわり

ゲノム情報① アレル・遺伝型・連鎖

ゲノム情報② 多様性:多様体(変異と多型)

集団遺伝① ハーディー・ワインベルク平衡

集団遺伝② ハーディー・ワインベルク平衡に合わない条件

集団遺伝③ 量的遺伝

第2章 「ヒトのゲノム」の変化で起きる疾患―遺伝性疾患

概論

家族歴・家系図

単一遺伝子病① メンデルの法則

単一遺伝子病② 遺伝形式:常染色体とX染色体

単一遺伝子病③ 常染色体遺伝形式

単一遺伝子病④ X連鎖遺伝形式

単一遺伝子病⑤ 優性遺伝病の発症メカニズム

単一遺伝子病⑥ 優性遺伝病の発症に影響する因子

単一遺伝子病⑦ 劣性遺伝病の発症に影響する因子

単一遺伝子病⑧ 単一遺伝子病の例外

エピジェネティクス異常

ミトコンドリア病

染色体異常① 染色体異常とは

染色体異常② 数的異常

染色体異常③ 片親性ダイソミー(UPD)

染色体異常④ 構造異常

多因子病

CDCV仮説とCDRV仮説

先天性疾患

がん① がん関連遺伝子

がん② 家族性腫瘍・遺伝性腫瘍

第3章 「ヒトのゲノム」で診断する―遺伝子関連検査・染色体検査

概論

核酸検査① 検体となる核酸の種類:ゲノムDNA・RNA

核酸検査② 核酸抽出

核酸検査③ 核酸の特性を活用した解析

核酸検査④ DNAの増幅法:PCR法

核酸検査⑤ 特定部位の検出手法

核酸検査⑥ 塩基配列決定法

核酸検査⑦ 次世代シークエンサー(NGS)

核酸検査⑧ 組換えDNA技術

染色体検査① 分染法

染色体検査② FISH法・マイクロアレイ染色体検査

網羅的解析 オミクス解析

遺伝子関連検査

遺伝学的検査① 病的変異とは

遺伝学的検査② 確定診断

遺伝学的検査③ 結果をどのように伝えるか

遺伝学的検査④ 発症前診断

遺伝学的検査⑤ 出生前診断

遺伝学的検査⑥ 易罹患性検査

体細胞遺伝子検査

病原体遺伝子検査

消費者直結型(DTC)遺伝子検査

ガイドライン① 遺伝子関連検査の現状・ガイドライン

ガイドライン② 遺伝学的検査のガイドライン

第4章 ゲノム情報を治療に生かす

概論

代謝物へのアプローチ 新生児マス・スクリーニング

遺伝子産物へのアプローチ タンパク質(酵素)補充療法

遺伝子へのアプローチ 遺伝子治療

個別化医療・ファーマコゲノミクス(PGx)検査

分子標的薬

第5章 ゲノム医療で活用される統計

概論

ゲノム診療① 遺伝性疾患の再発率(リスク)

ゲノム診療② 条件下でのリスク計算:ベイズの定理

ゲノム研究① 相対危険率(相対リスク比)・オッズ比

ゲノム研究② 検定・統計的有意差

検査① 感度・特異度

検査② 陽性適中率・陰性適中率

第6章 ゲノム医療をとりまくもの―研究から診療へ

概論

ゲノム研究① ELSI(倫理的・法的・社会的課題)

ゲノム研究② ヒトゲノム・遺伝子解析研究の流れ

ゲノム研究③ ゲノム・遺伝子研究の指針,ガイドライン

ゲノム研究④ 遺伝子マッピング:連鎖解析

ゲノム研究⑤ 関連解析

ゲノム研究⑥ 包括的網羅的手法によるゲノム解析

ゲノム研究⑦ ゲノムコホート

ゲノム研究⑧ バイオインフォマティクス

ゲノム診療① 遺伝カウンセリング

ゲノム診療② 社会資源

ゲノム医療の実用化の現状とこれから:先制医療へ

「ヒトの遺伝・ゲノム」リテラシー


付録 医学教育モデル・コア・カリキュラム対応表

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書籍情報

  • ISBN:9784758120623
  • ページ数:246頁
  • 書籍発行日:2017年4月
  • 電子版発売日:2018年5月18日
  • 判:B5判
  • 種別:eBook版 → 詳細はこちら
  • 同時利用可能端末数:3

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