本書「プラクティカル医学英語辞典」は，あらゆる医療職と医療系学生が医学英語の基礎を身に付けてそれぞれの分野で実際に活用する手引きになることを目標としています．今日，医学を学び，医療に従事する者にとって，英語の知識は必須となっていますが，その必要性の程度は，英語の医学用語を理解したい，最新の医学情報を英語で読みたい，診療に必要なベッドサイドの英語表現を覚えたいなど立場によりいろいろでしょう．

現在，医学英語に関する書物は世に溢れていますが，基礎的知識から活用表現までを集約した小冊子は見当たりません．本書の背景には，42年前に初版を出版した自著「臨床英文の正しい書き方」があります．この本は英語で診療録を記載するために必要な基本語句と例文を多数列挙して，アメリカの病院で通用する書式と表現を和英対照で示したものです．幸い好評で改訂を重ねてロングセラーとなっていますが，読者からは臨床の現場で利用しやすい「臨床英文」小型版の要望が多く寄せられていました．

そこで「臨床英文の正しい書き方」を発展させ臨床医学関連の用語数を大幅に増やして応用表現を収載するとともに，医学英語の基礎的語彙を加えて本書を編集しました．基本的な解剖学的用語をはじめ医療関連用語を網羅していますが，単に医学用語を羅列した字引ではなく，英語で診察して診療録を書くことに役立つ実用的な参考書としました．たとえば英文診療録の記載については，実際の診療の過程を踏んで症状，診察所見，検査所見，診断，治療の項目の順に用語を配列しています．

本書の特色の一つとして，冠名用語に英文の説明文を加えました．医学の分野では人名を冠した疾患，症候群，検査名が多いのですが，主な冠名用語に簡潔な説明を加えて，内容の理解を助けると同時に説明文を読むことにより医学英語の自習になることを期待しています．

本書一冊で，和英・英和医学用語辞典，略語集，冠名用語集，診療録記載法，診療会話・プレゼンテーション・紹介状の英語表現集，実用医薬品集を兼ねた盛り沢山の内容です．医師と看護師をはじめいろいろな分野の医療職の方々と，医療系の学生の皆様の学習書として実用書として活用されることを願っています．採用した医学用語は，実際にアメリカの病院で臨床に携わる際にも役に立つレベルであり，医学生にはUSMLE Step2 CSやOSCEの準備にもなるでしょう．

本書中の会話英語について校閲と助言を戴いた立命館大学講師，John Gorman先生に謝意を表します．また本書の企画と編集から刊行に至るまで多大のご尽力をいただいた金芳堂社長市井輝和氏と編集部村上裕子氏に心からお礼申し上げます．

2010年 4月1日

著者