序文

この度、「動画を見て学べる！心エコーレポート実例集50」を発刊することになりました。本書は、群馬県立心臓血管センターの心エコー室で実際に実施された検査のレポート実例集であり、レポートが掲載された症例の心エコー動画像・静止画像をインターネットで（スマートフォンやタブレットからも）閲覧できることから、症例アトラスであるとも言えます。

群馬県立心臓血管センターの心エコー室には、長期・短期で研修に来られる方が毎年数名いらっしゃいます。当院では研修者が実際に患者様にプローベをあてて検査を実施する研修は行っていません。すなわち、見学が主体の研修ということになり、すでにある程度心エコーを撮られている方で、より多くの症例を見たい、検査のやり方（記録断面、計測方法、レポートの書き方など）を確認したいという方の研修を受入れています。そのような中で、研修を終えた多くの方が口にされることが、検者のうしろで実際に見学した検査とそのレポート作成はもちろん、ファイリングされている過去の画像データとそのレポートを閲覧できたことが非常に参考になったということです。そして、大多数の方が種々の症例のレポート（もちろん患者情報を除いた所見部分）をコピーして持ち帰り、「これからのレポート作成に活用します」と言われます。レポートの書き方、心エコー所見の表現の仕方に悩んでいる方が多いのに気付かされます。それならば、研修の方たちのためのレポート集を作っておいたら喜んでいただけるのではないか......、そんな発想が本書の発端になりました。本書は、群馬県立心臓血管センターの日常検査のレポートの一部をそのまままとめたものとご理解ください。

以上のような経緯もあって、本書に掲載されている症例は、一般の成人循環器内科や一般内科で日常に遭遇する症例ばかりで、希有なものはほとんどありません。また、レポートに記載されている計測値や記載内容は、日常一般診療の中の心エコーレポートとして記載すべきと考えられる範囲に留まっています。大学などの研究施設ではさらに詳細な計測や所見・考察が求められるでしょうし、同じ症例でも初診のとき、経過観察の検査、術前および術後の検査など、それぞれで測るべきもの、記載されるべき項目は変わってきます。そのことをご理解いただき、本書をご利用いただければ幸甚です。

心エコー検査は非常に多くの情報をもたらして、検者は得られた情報を漏れなく客観的に画像の中に表現すべく努力をしています。心エコー検査を依頼した医師は、その記録されたすべての心エコー画像を確認し、計測値をしっかりと吟味し、総合的な判断を下すべきです。しかし、すべての医師が心エコーに精通しているわけではなく、画像の細かい所見の読み方、計測値の意味やピットフォールなどを十分に理解しているとは限りません。また、心エコーに詳しい循環器専門医であっても、日々の業務の中では心エコーの判読のために時間を作るのが難しい現状もあります。また、努力しても画像の中に表現しきれないプローベを持った検者だけが知り得る情報があることもエコー検査の特徴だと思います。そこで、それらを補うのが心エコーを熟知し、実際に検査に携わった検者が書くレポートです。

最後になりましたが、本書の発刊にあたり多大なご尽力を頂戴いたしました株式会社金芳堂の黒澤 健氏に厚く御礼を申し上げます。本書が、心エコー検査に携わる多くの方々、レポート作成に悩んでおられる方々のお役に立てることを心より願っております。

平成28年5月

戸出 浩之